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本編

第103話 マヨイはレベリングしたい。

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⚫︎マヨイ

「見た目は大きく変えられないんだ……」

 30分くらい自分のアバターを弄り回したけれど髪や目の色は変更できず、身長や体型も思ったほど変えられなかった。では何のためのアバターの再設定かと言うと、いくつかある精霊固有の部位らしい精霊の羽を追加するためのものらしい。

「プレイヤー側で色々決められるのは親切設計だね」

 羽の形や大きさをプレイヤーの好みで調整することが出来るだけでなく異なる特徴を持った3種類の羽を選択できるようだ。
 まずは最も使い勝手が良さそうなのは『実体のある羽タイプ』だ。メリットは飛行技能を使用した時の最高高度が高く、さらに発動に一切コストが発生しないことだ。デメリットは飛行技能を使用した時に最高速に達するのが他の2つのタイプと比較して遅いこと、そして羽に被ダメージの判定が存在することだ。

「色々と悪目立ちしそうな点もデメリットだよね……コストがないのは魅力的ではあるけど僕はパスかな」

 次に『実体のない羽タイプ』だ。このタイプのメリットは羽そのものに被ダメージの判定がないこと、そして飛行技能を使用した時に最高速度に達するまでの時間が短いことだ。デメリットは最高高度が他のタイプよりも低いこと、飛行技能を使用する時のコストが少し重いことだ。飛行技能を使用中、常に魔力を消費するだけで短時間の飛行なら気にならないくらいの魔力しか消費しないのでデメリットと言っていいから微妙だけどね。

「これも悪目立ちするよね。そうなると……」

 最後は背中と腕に羽をモチーフにしたような刺青いれずみを入れる『刺青タイプ』だ。メリットは機動能力と飛行速度の向上、デメリットは発動時のコストが他のタイプよりもかなり重いことだ。同じように魔力を消費する『実体のない羽タイプ』とは違い、発動時に魔力を多く消費する代わりに発動後は魔力を消費しない。

「悪目立ちしたくないし刺青タイプかな……」

 配信で名前や容姿が知られるのは構わないけれど、空を飛べるのはしばらく隠しておきたい。羽の生えたアバターから飛べることを類推するのは難しいことじゃない。そして飛べるプレイヤーがいると分かれば間違いなく対人戦を念頭に飛行手段の確保や対策に乗り出すプレイヤーが現れる。
 なら僕以外の誰かが飛行手段を手に入れれば結局は同じことだろうけど、それまで僕は飛行技能の練度を高める時間を手に入れられるのだ。

「あー、刺青の柄も選べるのか」

 自分で好きな柄を描くこともできるらしい。
 僕には絵心がないので数十種はある刺青の柄の中から少し折り畳まれた翼のような絵柄を選択、色は最近お気に入りの灰色にした。
 刺青を入れる場所は胴装備で刺青を隠しやすいという理由で背中にした。

「(飛行)」

 ほぼ完成した新しいアバターの見た目は髪型がウェーブの掛かったセミロングからストレートのセミロングになったくらいで他はほとんど変わっていない。もし装備を脱げば背中の刺青が目立つだろうけど、このゲームで上半身をさらけ出すメリットは僕にはない。


《アバターの再設定を終了しますか》
はい
いいえ


 僕は"はい"を選択してアバターの再設定を終えると元いた場所に戻ってこれた。思ったよりもアバターの再設定に時間が掛かってしまった。まだ夕飯までには少し時間があるし転生もしてしまおう。


《神像に何を求めるか》
 素質
 進化
 転生


 再び出現させた選択肢から転生を選択すると操作もしていないのにメニューが開いて僕のステータスを表示した。藍香の言っていた通り、基本ステータスの1割を引き継いで位階が1まで下がっている。
 約1割になったステータスでも器用と知力は6万を超え、他のステータスもギリギリ5万に届かないくらいはある。見間違えてないか思わず2度見してしまった。スキルなどは転生前と変わってないので正しく"強くてニューゲーム"って感じだ。

「レベリング、どこでしよっかな……」

 明日の朝にアルテラの北門に集合することになっているから変異種を探して遠くに行くのは難しい。かと言って今更アルテラ大森林で猪を狩っても面白くない。

「イベントでレベリングするのが手っ取り早いかな?」

 ランキングの報酬を受け取れるのは自分の名前が含まれたパーティの中で最も順位が高いパーティの報酬だけのようだ。これならソロで挑んでも問題はないはずだ。
 そう意気込んで噴水から出た直後、目の前にいたのは暁のクラスメイトである織姫だった。彼女も僕を見つけたらしく近寄ってきた。

「マヨイさんですか?」

「こんにちは、織姫」

「ストレートも似合ってますね!」

「はは……ありがとう。織姫も進化しに来たの?」

「私は転生?っていうのをしたいので位階が100になるまでは人間のままでいいかなって思ったんです。ここには友達の付き添いできました。マヨイさんは進化したんですか?」

「さっきね」

「何に進化したんですか?耳は尖ってないですしエルフじゃないですよね。人間ですか?」

「それは秘密」

 進化先の種族に関する質問は身内以外には「秘密だよ」でゴリ押す予定だ。今の僕の見た目はほとんど人間と変わらない。羽を生やしていれば悪目立ちしただろうけど、刺青だから見られたとしてもファッションの1種だと思う人が大半だろう。

「あ、そうだ!しました!」

「え、すごいじゃん」

「これもマヨイさんのおかげです!あともう1つ覚醒したら迷い家に入れてくれるんですよね?」

「それと僕らについて来れるだけのプレイヤースキルも欲しいかな」

「プレイヤースキル、ですか?」

「そう。僕とアイが動画配信をしてるのは知ってる?」

「はい!あかつ……アカトキから聞いたのでチャンネル登録しました。さっきも凄かったです!」

「さっき?」

「生徒会長がプロゲーマーをボッコボコにしたやつです」

 どうやら藍香は僕の知らないところでプロゲーマーと戦っていたらしい。何があったのかは後で藍香に聞くとしよう。

「……見てくれてありがとね」

「い、いえ、生徒会長すっごく強かったです。あれくらい上手くならないと迷い家に入れて貰えないんですか?」

「アイと同じくらい上手ければ文句なしだけど、そこまでじゃなくても大丈夫だよ。基準とかは特に決めてないけど、自分より位階の高い変異種──あ、変異種については組合で聞けば教えて貰えるよ──それを安定して倒せるくらいの実力は欲しいね」

 自分で言っておいてあれだけど、だいぶ厳しい条件だ。
 今後、もし織姫のように加入したいと言ってくる現実での知り合いが現れた時のことを考えて、細かな条件を藍香たちと相談して決めた方がいいかもしれない。

「分かりました!」

 そう言って織姫は組合の方へと駆け出して行った。
 でも進化するために噴水に入って行った友達を待ってるんじゃなかったの?


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お読みいただきありがとうございます。
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