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本編
第92話 マヨイは召喚される。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「おつかれ」
「ごめんなさい。本当はポーションのことはイベントの──」
「え、アイ?…………藍香?……え?」
配信を終了した直後、僕の目の前から藍香が忽然と消えた。
慌ててフレンドリストを確認するがログアウトはしていないが、試しにフレンドコールを入れるが繋がらない。ギルドコールも同様だ。
「目の前にいたフレンドが忽然と姿を消しました。フレンドリストを見る限りではログインをしているようですが、フレンドコールが繋がりません。これは仕様でしょうか」
『少々お待ちください。……当該の事象に仕様上の不備はございませんでした。また詳細に関しましては公開できません』
「…………ありがとうございます」
落ち着け。落ち着くんだ。
僕は今まで感じた事のない焦燥感と喪失感に苛まされながら少しでも冷静さを取り戻そうと呼吸を整える。VRなので意味はほぼないのだけど、おかげで思考力が戻ってきた。
これの似たような現象を僕は消える側で経験したことがあることに気がつくことができたのだ。
「覚醒の試練、もしくは似たような何かか……?」
ただ僕は最初に覚醒を獲得した時にしか経験していない。
こう何度も起こる現象なのだろうか。
何か見落としていることはないか思考を巡らせるも情報が少なすぎるせいか考えがまとまらない。
「──ぃ──真宵ってば!」
「…………………………あれ、藍香?」
「っとにもう。何よ、寂しくて泣いてたの?」
体感で数時間、いや数日の時間が経った頃、気がついたら藍香が目の前にいた。メニューから時計を確認すれば10分も経っていない。どうやら相当動揺していたようだ。安堵したせいか涙腺が緩んでいる気がする。おそらくここで泣いたら一生揶揄われるだろう。
そう、だからここは勤めて冷静に対応を──
「そ、そそんなわけないじゃん?」
あ、ダメだこれ。
「ふぅん。そういうことにしておくわね」
「うっ……」
なんだか見透かされているような気がするけど、泣いてはないから嘘じゃない。そう、VRなのだし寂しさで涙が溢れるようなことはないのだ。
「ちなみにアバターの顔に涙の跡があるわよ」
「えっ嘘!?」
「嘘──」
「カマ掛けたのかよ」
こんなベタなのに引っ掛かるほど動揺していたらしい。
「じゃないわよ」
「どっちさ」
「そりゃもう、くっきりと涙の跡が頰に付いてるわよ。アカトキたちと合流するまでに消しておかないと何言われるか分からないわね」
「……だね。あと今撮ったスクショは削除してよ」
「……嫌よ。引き伸ばして壁紙にするんだから」
「ちょ!?」
…………………………………
……………………………
………………………
「それで何があったの?」
「裁神に召喚されて資格……というか覚醒を貰ったわ」
「サイシン?」
「裁きの神様よ」
「え、何、神様ってプレイヤーを問答無用で召喚すんの?」
「そうみたいね。私は2度目だったけど慣れる気はしないわ」
僕も神様関係の覚醒を手に入れているけれど神様とは会ったことがない。単純に縁がないのか、何か見落としがあるのか。
「神様ってどんな感じなの?」
「雰囲気?」
「召喚された先の雰囲気」
やっぱり厳格な空気、というか失敗したら天罰が下るぞ的な感じなのだろうか。
「神様によって違うみたいね。槍神に召喚された時はコロシアムみたいな場所だったし、さっきは裁判所の法廷みたいな場所だったわ」
「へぇ……神様の性格設定もやっぱり違う感じ?」
「こら、設定とか言わないの。紅神はマセガキだったけど槍神はさっぱりした性格のバトルジャンキーだったし、裁神は出来るキャリアウーマンだったわ。槍神とは性格が合うんじゃない?」
「こっちで槍使ってないからなぁ……」
「セルフ縛りプレイでもしてるの?」
「してないしてない。魔力弾の使い勝手が良すぎるのが悪いんだよ」
「たぶん魔力弾を使い勝手いいなんて評価するのは真宵くらいよ?」
「あぁ……あれ遠近感ないと使いにくそうだもんね」
掲示板でも散々ネタにされているみたいだけど、実際に魔力弾を使っている僕としてはメインウェポンが過小評価されていて少しラッキーだ。ちょっとした特別感があるし、対人戦では対策の優先度が低くなるからだ。
「クレアに頼んで槍を作ってもらえばいいじゃない。真宵の頼みなら尻尾振って喜ぶわよ?」
「いい方に悪意を感じるんだけど?」
「別に真宵に何かお願いされるのが羨ましいとかじゃないわよ。ただ少し嫉妬する気持ちを抑えられないというか、なんでクレアだけちゃん付けなんだとか……あーーもう!羨ましいわよ!悪い!?」
「いや、悪いとは思わないけど……ちゃん付けされたいの?」
「……ちゃん付けされるの想像してみると結構恥ずかしいわね」
ちゃん付けされるの想像して顔が真っ赤になってる藍香がとても可愛い。でも確かにちゃん付けされるのは恥ずかしいよね。クレアちゃん、もしかして嫌だったりしないかな。後で確認しよう。
「でもそうだよね、クレアちゃんに槍を作ってもらえないか聞いてみるよ」
「槍神に呼ばれる条件は一切スキルを使わず槍だけで格上の変異種の討伐よ。真宵ならいけるでしょ?」
「相性次第かなー、でも神様には会ってみたいし狙ってみるのも──」
『そんなに私に会いたかったのか。それはすまなかった』
目の前の藍香のものではない声を認識した直後、僕の視界はブラックアウトした。
───────────────
お読みいただきありがとう。
絵心ないのに涙目のマヨイを描きたくなって1週間頑張った結果がこれです。女の子に勘違いされる男って絵心ない奴が挑戦する題材じゃないって痛感しました。どう頑張っても男子高校生には見えない……
明日はホワイトデー回(番外編)を投稿する予定です。
バレンタインデー回(番外編)で少し出てきた宵が同性の先輩から告られた際のエピソードです。同性愛表現や一部性交渉を匂わせるような表現が含まれていますので苦手な方は読み飛ばしてください。
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