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本編
第87話 マヨイは拠点を手に入れる。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「城壁高っ!テコの倍くらいない?」
「聞いていたけど結構並んでるのね」
ゲーム6日目、そしてイベント2日目。僕らギルド迷い家のメンバーはイベントから離れて領都エイトを訪れていた。エイトの西門にはイベントに興味がないらしいプレイヤーや商人らしい装いをしたNPCが並んでいる。
「お兄さん、あれは武者返しですか?」
「石垣じゃないけどそうみたいだね」
エイトの外壁は垂直な壁ではない。下部は緩やかで簡単に登れそうな傾斜が付いている。しかし、上に行くほど反り返りが激しく素で登るのは不可能な造りになっている。こういった構造の石垣のことを武者返しと言って日本では熊本城のそれが有名だ。
ちなみに外壁の下には10mはないくらいの幅の水堀がある。
「日照権とかどうなってるのかしらね」
「外壁付近は門近くだと兵の詰所、そうでないところは広場になってたよ」
「軍事面ではいいのかもしれないけど……」
「ザ・軍事拠点!って感じの都市なの?」
「厄のこともあるし、テコの北側の山には竜もいる。基本的にモンスターの方が強い世界のようだし、実用性重視の都市になるのは設定上は仕方ないんじゃないかな」
魔物は基本的に覚醒をもっている。掲示板の設定などの調査をしているらしい物好きなプレイヤーが集まるスレッドによれば、NPCの中で覚醒を持っているというのは職業に就いている者あるいは特殊な資格を持っているという扱いになっているそうだ。そのため大人ならば覚醒を1つ持っていて当たり前なのだとか。
しかし、同じ位階でも魔物の方が強い場合がほとんどであるらしいことを考えると補正値の面で魔物が優遇されている可能性は高い。そんな魔物と隣り合わせの生活圏ならば軍事に力を注いでいて当然だろう。
「身分証をご提示ください」
「どうぞ」
しばらくすると順番が回ってきたので僕らは門兵に冒険者登録証を提示する。僕は問題ないけれど組合の依頼をほとんど受けていないらしい藍香は大丈夫だろうか。
「大丈夫よ、テコの組合で確認したもの」
「え、確認なんて出来たの?」
「朝ね。それに組合員以外とのトラブルを問題を起こしていなければ通れるみたいよ」
「組合員同士のトラブルはいいの?」
「組合員以外に迷惑を掛けなければいいみたいね」
「へぇ……」
僕は組合から信用されている人物のみエイトに入れるのだと思っていたけれど、実際は組合が信用していない人物を弾くための検問のようだ。もちろん登録だけして街に入ろうとする人もいるだろうから基準はそう単純なものではないのかもしれない。
というか昨日ここで止められてた奴らは組合以外でも問題を起こしてたってことになるのか。
「お待たせしました冒険者登録証をお返しします。ようこそエイトへ」
「そうだ。組合に行きたいのですがどの辺りにありますか?」
「この門を潜って真っ直ぐ行くと広場があります。広場から北の大通りに入ってすぐ右手側にありますよ」
「ありがとうございます」
そんなわけで僕らは寄り道せずエイトの組合に向かった。
街の西通りは商店が立ち並んでいるが空き店舗も数件あったし、テコやアルテラと比較しても住人の往来が少ない。これが厄の影響だけならいずれ回復すると思うけど、他の要因も関わってたりするんだろうか。
「なんていうか、アルテラやテコの組合と比べてると大きい建物ね」
「まー、領都って言うくらいだし……」
もちろん領主館ほどではないが、エイトの組合が入っている建物はアルテラやテコの組合の建物より2回りは大きかった。内装も傍目には質素だけどところどころに細やかな意匠が施されているのが分かる。
「こんにちは、今日はどのようなご用件でしょうか」
「領主様から建物をいただけると伺っています。あ、これが僕の登録証です」
「ご確認させていただきます。少々お待ちください」
そう僕に告げるなり受付嬢はバックヤードの方へ走って行った。
彼女も正規の職員ではないってパターンだろうか。
しばらくすると厳ついオッサンを連れて戻ってきた。
「おめぇが英雄様か。俺はエイト領組合支部の統括を任されているドーズだ。よろしくな、そちらのお嬢さん方は?」
「私は彼の妻の「「ちょっ」」……冗談よ。彼が立ち上げたギルドのサブマスターのアイよ。この2人はギルドメンバーね」
「クレアといいます」
「まさ……アカトキです」
「おう。早速だが英雄様に贈る予定の建物まで案内しよう。それとこれが土地の権利書と建物の資料だ」
土地の権利書を渡されるだけだと思っていたけれど、親切なことに案内してくれるらしい。渡された資料によると元はウォルターが使っていた邸宅兼工房のようだ。結婚した際に住居を現在の領主館に移したらしく、現在は使われていないと道中でドーズさんが説明してくれた。
大賢者の工房として使われていただけあって1階に広い加工施設が存在している。あと単純に部屋が多い。
「ここだ」
「「「「……………………」」」」
その建物は質実剛健を絵に描いたような木造3階建ての邸宅だった。僕も藍香も派手なものは好まないし、クレアちゃんも特に不満はなさそうだ。暁は領主の元邸宅と聞いて煌びやかな豪邸を想像していたのか少し拍子抜けしたような表情をしている。
ただ僕の想像と違ったのは……
「敷地、デカすぎじゃありません?」
「ウォルター様が空間魔法で敷地と建物の内部を拡張なさったらしい。ちなみに掃除は付与魔法だかの効果で自動化されてるって話だ」
「これ、普通に購入するといくらになるのかしらね……」
「安く見積もって10億Rってところだな。そのせいで買い手がいなくて不良債権になってたんだよ」
「へ、へぇ……」
「ここをギルドホームに指定するようなら後で組合に届け出てくれ。ギルドホームなら土地や建物に掛かる税金が免除されるからな」
「今すぐ行きます」
10億もする建物の税金なんて払えるかボケ!と言いたい。
あとギルドホームに税金が掛からないのはウォルターによる組合優遇政策の一環らしい。ただ組合との協定で税金を安くする代わりに犯罪を犯した場合の罰則は一般人よりは厳しくなっているそうだ。全く法律や法令などを知らないというのも後々で問題になりそうなので詳しく教えて欲しいとドーズさんに言ったところ、後で法律関係の注意事項を資料にして貰えることになった。
「アイたち3人は先に建物の中を見ててくれ」
「……そうね。ちょっと予想以上に大きい何が何処にあるか確認しておくわ」
「よろしく」
そして僕は組合でウォルターから貰った建物をギルドホームに指定するための書類にサインを済ませ、法律や法令に関する分厚い資料を受け取った直後だった。
『お兄ちゃん、どうしよう……』
『どうした?』
『迷子になっちゃった……』
どうやらギルドホームの内部は入り組んだ迷路のような構造になっていたらしい。その直後に聞いた藍香の話では色々と抜け道らしき通路もあったようだ。ちなみにクレアちゃんは加工施設を見て大はしゃぎしているとか。
「まさかと思うけど領主館と繋がってたりしないよな……」
とりあえず藍香に連絡して暁を救助するとしよう。
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お読みいただきありがとうございます。
貴族の邸宅といえば隠し通路や隠し部屋ですよね!
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