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本編
第84話 マヨイはアカトキを揶揄う。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
僕は藍香とクレアちゃんと合流した後、どうやら敵に囲まれているらしい暁と合流するため探索スキルで見つけ出した暁のいる場所まで敵を倒しながら移動している。
敵に囲まれてるとは言っても声に余裕があったし大丈夫だろう。
「後は野となれ山となれって感じよね。慣用句的な意味ではなく」
「今回はレベリングだから」
「気分はパワーレベリングね。もうすぐ位階60よ」
「あれ私は39で止まっちゃいました」
「そこら辺の雑魚を1匹倒せば上限解放されるわよ」
「……そこら辺、ですか?」
「……ごめんなさい」
「ごめん、条件のことすっかり忘れてた。……あ、倒し切れなかったのがいるね。クレアちゃんお願いできる?」
探索スキルで見つけた敵の居場所に魔力弾を1000発ぶち込み続ける作業に集中していたせいか、位階の上限に関する仕様が頭から抜け落ちていた。
「はい!カスタムアロー!」
一旦攻撃の手を止めるとクレアちゃんは弓をつがえて一拍置いてから矢を放つ。矢は200mは離れた場所にいるサイのようなモンスターの目辺りに命中した。もしかして狙ったのだろうか?
「やった!」
「喜ぶのはいいけど倒せてないわよ」
遠目から確認できるサイの体力バーはまだ1割ほど残っている。
何故か僕らの方を向くことなく倒れもがいているけれど、この隙にもう一度攻撃してトドメを刺してしまった方がいいだろう。
「す、すいませんっ……でも大丈夫です。今のは9種類の状態異常と耐性貫通を付与した矢なんです」
「「なにそれ」」
「さっきのカスタムアローは矢に好きな効果を付与できるスキルなんです。魔力は少し多めに使っちゃいますけど、威力は普通に射る矢より高いんですよ」
「えっぐいわね……」
いくつ付与できるのかは分からないし、付与した個数分によって何らかのデメリットがあるのだろうけど十分に強力なスキルだ。しかもクレアちゃんは「カスタムアロー」としか言っていない。つまりスキル名から何が付与されているか分からないのだ。
と考えていたらサイのバーが尽きた。どうやらスリップダメージだけで残りの体力を削り切ったらしい。
「スリップダメージでかなり削れたわね」
「えっと、今の攻撃だと……12秒で最大体力値の20%くらいのダメージを与えられます」
「すごいわね」
「えへへっ……ありがとうございます!」
「さて、レベリング再開するか」
そう言って現実逃避気味に手当たり次第にモンスターを倒しながら暁のいる場所まで進んで行く。そして修正されないか心配になる速度で位階が上がっていく。暁と合流する頃には僕も60まで上がってるんじゃなかろうか。
「あれ何かしら」
「ん?」
暁のいるアルテラの南東の林の一画に僕の魔力弾ではびくともしないバリアのようなものがドーム状に張られていた。探索スキルでもバリアの内側は伺えない。
「暁と合流したらあそこ行こうか」
「そうね」
⚫︎アカトキ
私は今、イベントエリアの端にある林で狼に囲まれている。
ここに兄さんたちの姿はない。イベントエリアへ移動した時にパーティを分断するギミックがあったんだと思う。
「今の私なら兄さんとも戦いにはなるかな?」
襲い掛かってくる狼をクレアに作って貰ったラウンドシールドで受けてハルバードで反撃する。残念だけど私に狙って手足を切り飛ばすようなプレイヤースキルはない。反射的に切りつけるので精一杯だ。
「きゃぁっ」
とはいえ都合良く1匹ずつ襲い掛かってくるはずもなく、払い飛ばした直後の隙を見逃さずに背後から襲い掛かってきた狼に押し倒されてしまった。
「こんのぉぉお!」
無理矢理身体を捻って背中から倒れた私はハルバードを振り回して狼を攻撃するけれどダメージはほとんど与えられていない。
「ちょっ」
倒れた私を見てチャンスだと思ったのか更に数匹の狼が噛み付いてきた。痛覚設定をオンにしていても刺激があるだけで大して痛くないのが救いだ。絵面だけならR18G間違いなしだと思う。だってそれなりに容姿の整ったJCが狼に身体中を貪られているんだよ?どう考えてもやばいって。
「まー、死なないんですけどねー」
そうなのだ。これでも私の体力はほとんど減っていない。
正しくは減る度に回復している。手足が千切れて体力の最大値が大きく減少する部位欠損と言う状態異常があるらしいのだけど、狼に噛まれていても部位欠損が発生しない。やっぱりデマなのかな。
「やっぱ忍耐スキルってチートだよ」
この状況の原因となっているのは昨日と一昨日で新たに獲得した称号と覚醒したことで習得したぶっ壊れスキルだ。
名称:忍耐
分類:特殊 事様
説明:それは我慢とは違うナニカ
条件:ストレス値が計測限界値に達した状態で1時間ログインし続けること。
効果:[覚醒:忍耐]の獲得
[ステータス:耐久/精神]の基本値が10倍になる。
これを獲得した原因はクラスメイトの喋る粗大ゴミにある。朱莉をイジメている馬鹿女3人と一緒に彼のパワーレベリングするのを手伝ったのだ。しかも最初に断ったら鳥野のクズが「クラスメイトなら手伝ってやれよ。呉さんも一緒なら大丈夫でしょ」とか言いやがった。なんのためにお前らを避けてると思ってんのよ!
でも、その報酬が覚醒だと考えれば……まぁトントンかな。
「あー、でも無理。負けないし死なないけど倒せないや……」
私の攻撃能力がしょぼいのが原因だけど、状況は完全に膠着してしまった。いや、覚醒した時に習得したスキルなおかげで死なないで済んでいるのだ。この上で攻撃能力が欲しかっただなんて贅沢は言いっこなしだよね。
名称:忍耐
分類:特殊 回復 防御 事様
説明:貴方は忍耐の怪物だ。
代償:このスキルの効果以外で体力を回復することが出来ない。
忍耐以外の[分類:事様]を持つスキルを習得できない。
効果:体力が減少した場合、体力を最大値の10%回復する。
全ての被ダメージを50%カットする。
ストレス値に比例して基礎ステータスが上昇する。
名称:守護者
分類:特殊 補助 強化
説明:貴方は何を守るのでしょうか
効果:[分類:回復]スキルの被回復量+100%
体力が回復した場合、次に受けるダメージを0にする
パーティメンバーが受けるダメージを30%カット
このスキルのおかげで私は1撃で私の最大体力値の20%を上回るダメージを与えてこられない相手なら負けることはない。兄さんの魔力弾だって1発で20%削れるかは微妙なところのはずだ。
そんなことを考えていると兄さんからパーティコールで連絡が来た。しまった……しっかり報連相しろって怒られませんように……
『アイとクレアちゃんと合流した。あとはアカトキだけだけど、こっち来れそう?』
『無理!』
怒られなかったのはラッキーだけど、狼にのし掛かられていて移動できない。ラウンドシールドとハルバードをアイテム欄に仕舞って狼を両腕で退かそうとしても、うんともすんとも言わない。とっておきを使えば1体くらいは倒せると思うけど、あれはクールタイムが長いし今使うのは少しもったいない。
とりあえず状況を兄さんたちに説明しなきゃ!
『にいs……『分かった。僕らの方でそっち向かうから頑張って耐えてくれ』……りょーかいっ!』
説明する間もなく兄さんはこちらに来る判断を下した。
最終的には同じ結論になるとしても妹の話くらい最後まで聞くべきだと思うなー。
…………………………………
……………………………
………………………
あれから10分は経ったかな?まだかな?
パーティコールの後、遠くから聞き覚えのある轟音が聞こえて来るようになった。心なしか音に合わせて地面が揺れているような気がする。
──ドドドドドドドドドドドド
狼くん、早く逃げた方がいいよ。死んじゃうよ?
── ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
嘘じゃないって、ほんとだよ?
たぶん、とか、きっと、とかじゃないよ。
理不尽の権化が近づいてきてるんだよ。
──ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
空から深緑色の魔力弾が降って来るのが見えた次の瞬間、私の視界はブラックアウトした。数秒後、舞い上がった砂煙も落ち着いて視界が回復した時には周りにいた狼は跡形もなく消え去っていた。大型犬と遊んでいるようで少し楽しかったので少し残念だ。
そうして横になっていると兄さんたちがやってきた。
「日向ぼっこしてるくらいなら来いよ」
「好きで横になってたわけじゃないもん!」
今日もお兄ちゃんは理不尽の権化だ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
アカトキは肉壁としての成長が著しいですね。
本話でクレアが使用した技能の名前をストライクアローからカスタムアローに変更しました(2021/5/29)
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