97 / 228
本編
第82話 マヨイは身の程をわきまえない。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
組合内の武器屋で臨時収入を換金した僕らは今度こそイベントに挑戦すべくテコの南門に来ている。ちなみに装備を売り払ったのは「よく考えたらさ、あいつが使ってた装備を再構成した装備とか気持ち悪くて使えない」と言い出した暁のわがままが原因だ。それと周囲から「外道」とか「鬼か」とか色々と聞こえたけれど、賭けを申請したのは僕ではなくトリスである。
「あいつも大概だったけど、兄さんが決闘する必要なかったよね?」
「いや、自称とはいえ剣術を習ってるプレイヤーは希少だよ?」
「発想が戦闘狂のそれだよね」
「お兄さん、格好良かったです!シュッて投げてドスッて!」
牽制で短剣を投げたら払うどころか回避もしてくれなかったのは期待外れだったけど、クレアちゃんが喜んでくれたならいっか。
それに藍香も僕がトリスと決闘したことで溜飲が下がったようだった。僕としては藍香がブチギレて彼らから色々と毟り取りやしないかヒヤヒヤしていたのだ。
「で、あの織姫って子に告白されたって件、私は聞いてないわよ?」
「あー、去年の今頃だったかな。僕に告白してきた子の中でも印象に残ったからすぐ思い出せたよ」
「「印象に残った?」」
「終業式の後、簡単な自己紹介をされた後で"一目惚れしました、結婚を前提にお付き合いして下さい"って告られたんだよ。あまりの衝撃になんて言って振ったか覚えてないくらい」
「私、知ってるよ『僕は君に興味ないから無理。それに受験生に告白するとか正気?相手が困ることを考えなかったの?あと一目惚れで結婚とか言い出すなんて貞操観念がないのかな?ご両親に相談して病院に行った方がいいよ』だったかな。鬼畜外道だよね」
「そんなこと言ったかなぁ……」
あの頃の僕、そんなに口悪かったかな?
ちなみにカフェテリアで暁からフレンドコールで謝られたけど、織姫が僕に妙に積極的だったのは暁が雑に焚き付けたからかもしれないらしい。なんてことをしてくれたんだ……
「去年の夏頃と言えば真宵も色々とストレス溜まってた時期だから仕方ないわよ。それに一目惚れしたから結婚して欲しいっていうのは私もどうかと思うわよ?」
「私は一目惚れから始まる恋があっても良いと思うよ?」
「悪いとは言わないけど、やっぱり人間は内面こそ重視されるべきだと思うのよね。老人になればイケメンだってしわくちゃよ?」
「油ぎったオッサンの人格者ならいいの?」
「油ぎったオッサンに人格者なんていないわよ」
「それもそっか。クレアはどう思う?」
「たった1回会っただけで名前を覚えて貰うなんて織姫ちゃんはずるいと思う」
「「はい?」」
「え?」
クレアちゃんは何やら考え事をしていて藍香たちの会話を聞いていなかったようだ。たぶん僕がクレアちゃんの名前──本名の呉朱莉──を初めて会ってから数ヶ月、知ろうとすらしてなかったことを思い返していたんだろう。その節は本当にごめんなさい。
「はい、はい、無駄話はこれくらいにしてイベント行こうね」
ちなみに僕は油ぎったオッサンにも人格者はいると思う。
何故なら僕の父さんも一応は油ぎったオッサンに分類されるからだ。父さんは細かな欠点こそ多いものの、父親としてゲーマーとして十分に尊敬に値する人物だと思ってる。
…………………………………
……………………………
………………………
南門にいる兵士に話し掛けることでイベントエリアに転移できるらしいので、その前に僕らの間でイベントに関する情報を再確認する。
「へぇ……スコアの算出方法は公開情報なのか。あとギルドで挑む場合は1度設定すると24時間は設定した難易度より上の難易度には挑めないみたいだしパーティで挑んで様子見した方がいい?」
「でもギルドで挑むと調査結果が保存されるみたいだよ?パーティだと挑む度に最初からだからギルドで挑戦して全体像を把握した方がパーティやソロでやる時に楽じゃない?」
「どっち選んでもメリットとデメリットがあるから迷うな……あと挑む難易度だけど藍香は5が妥当だって言ったけど覚醒2つ持ち4人なら7か8でも行ける気がするんだ」
「なら難易度は8でどうかしら」
「お姉ちゃんが難易度6に挑んで負けたんでしょ?無理じゃない?」
「無理だったら下げればいいのよ。それに位階50後半の狼型モンスターに狂狼化を使った私の通常攻撃で急所なら確1、そうでなくても確2だったわ。あの透明なのに囲まれなければ何とかなるわよ」
確1というのは「1回の攻撃で確実に倒せる」の略だ。
他にも「1回の攻撃で倒せる可能性がある」という意味の乱1などがある。元ネタは某国民的RPGで使われている用語だ。一昨年のクリスマス直前にはVRRPGとして過去作のリメイクが発売され話題を呼んだ。ちなみに藍香は去年1年、受験勉強ガン無視して遊んでいた。藍香曰く「飛行機に乗らなくてもフランス旅行できて服も買えて高級レストランの料理も堪能できるとか控えめに言って最高よね」らしい。めっちゃ分かる。
「私は攻撃面では貢献できないよ?」
「アカトキはタンクなんだから当たり前だろ。タンクが攻撃面で活躍できてたらアタッカーの立つ瀬がないよ」
「今更だけどタンク1アタッカー3って歪よね」
「最悪、僕らには回復アイテムがあるから何とかなる……といいね」
その後、少し話し合って僕らはパーティとして難易度は8に挑むことにした。これは今回、僕らの主な目的がランキングに載ることではなくレベリングだからだ。そのためイベントエリアに移動したらスコアの獲得効率を無視してモンスターを倒すことになっている。
ちなみにスコアの算出方法は『難易度×(倒したモンスターの位階の合計+調査点)+ボーナス』となっている。イベントエリアにある雑草や小石に鑑定を使っても調査点が入るらしく、鑑定スキル持ちを募集するパーティが多いようだ。
イベントエリアに移動するため南門で大勢のプレイヤーに囲まれてる兵士に僕も話し掛ける。いやぁ……お勤めお疲れ様です。
「アルテラ草原に存在する野生動物が魔物化してしまった。魔物化したモンスターを倒すため、領主様ご自身が領軍の精鋭を率いて対処されるそうだ。しかし、先の災厄との戦いで領軍の状態は万全とは言いがたい。再編成にも時間が掛かるだろう。そこで君らに頼みがある。義勇兵として領軍が到着するまでの間に領軍の負担を可能な限り減らすことに協力して貰えないだろうか」
【義勇兵として領軍に協力しますか?】
協力する
協力しない
考えさせて欲しい
「協力させてください」
【イベントエリアの形式を選択してください】
ソロ(選択できません)
パーティ
ギルド
ソロが選択出来ないのはパーティを組んでいるからだろう。
パーティを選択する。
【難易度を設定してください】
10▽
僕は▽の部分をタップして8を選択する。
【注意:パーティの平均位階が選択した難易度の推奨位階に達していません。難易度の再設定を推奨します】
身の程をわきまえる
身の程をわきまえない
「もうちょっと言い方ない?」
僕は"身の程をわきまえない"を選択した。
【イベントエリアに移動します】
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
イベントの当初の流れ
野生動物が魔物化する事件を派遣されていた領軍が調査することになった。彼らが討ち漏らした魔物を掃討して貰いたい。
※厄はエイトから出陣したウォルターに討伐され、イベント終了後にはエイトまで行けるようになるはずだった。
※このイベントはギルドの立ち上げ以外にも複数の条件から1つ達成された時点で発生する予定でした。
マヨイが厄を討伐したので領軍は引き上げてしまい、本来なら領軍の精鋭が片付けるはずだった魔物の討伐や事件の調査をプレイヤーがすることになりました。ちなみにウォルターは厄が倒されたことを報告するために王都へ向かわなければならないので手が回らないという設定です。
追記
最後の設問の言い回しを変更、それに合わせて話タイトルも変更しました。ストーリーへの影響はゼロです。
31
お気に入りに追加
2,259
あなたにおすすめの小説
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-
双葉 鳴|◉〻◉)
SF
Atlantis World Online。
そこは古代文明の後にできたファンタジー世界。
プレイヤーは古代文明の末裔を名乗るNPCと交友を測り、歴史に隠された謎を解き明かす使命を持っていた。
しかし多くのプレイヤーは目先のモンスター討伐に明け暮れ、謎は置き去りにされていた。
主人公、笹井裕次郎は定年を迎えたばかりのお爺ちゃん。
孫に誘われて参加したそのゲームで幼少時に嗜んだコミックの主人公を投影し、アキカゼ・ハヤテとして活動する。
その常識にとらわれない発想力、謎の行動力を遺憾なく発揮し、多くの先行プレイヤーが見落とした謎をバンバンと発掘していった。
多くのプレイヤー達に賞賛され、やがて有名プレイヤーとしてその知名度を上げていくことになる。
「|◉〻◉)有名は有名でも地雷という意味では?」
「君にだけは言われたくなかった」
ヘンテコで奇抜なプレイヤー、NPC多数!
圧倒的〝ほのぼの〟で送るMMO活劇、ここに開幕。
===========目録======================
1章:お爺ちゃんとVR 【1〜57話】
2章:お爺ちゃんとクラン 【58〜108話】
3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】
4章:お爺ちゃんと生配信 【239話〜355話】
5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】
====================================
2020.03.21_掲載
2020.05.24_100話達成
2020.09.29_200話達成
2021.02.19_300話達成
2021.11.05_400話達成
2022.06.25_完結!
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ
の内容を一部変更し修正加筆したものになります。
宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。
そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。
※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※
※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。
※男主人公バージョンはカクヨムにあります
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。
べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!
「unknown」と呼ばれ伝説になった俺は、新作に配信機能が追加されたので配信を開始してみました 〜VRMMO底辺配信者の成り上がり〜
トス
SF
VRMMOグランデヘイミナムオンライン、通称『GHO』。
全世界で400万本以上売れた大人気オープンワールドゲーム。
とても難易度が高いが、その高い難易度がクセになると話題になった。
このゲームには「unknown」と呼ばれ、伝説になったプレイヤーがいる。
彼は名前を非公開にしてプレイしていたためそう呼ばれた。
ある日、新作『GHO2』が発売される。
新作となったGHOには新たな機能『配信機能』が追加された。
伝説のプレイヤーもまた配信機能を使用する一人だ。
前作と違うのは、名前を公開し『レットチャンネル』として活動するいわゆる底辺配信者だ。
もちろん、誰もこの人物が『unknown』だということは知らない。
だが、ゲームを攻略していく様は凄まじく、視聴者を楽しませる。
次第に視聴者は嫌でも気づいてしまう。
自分が観ているのは底辺配信者なんかじゃない。
伝説のプレイヤーなんだと――。
(なろう、カクヨム、アルファポリスで掲載しています)
40代(男)アバターで無双する少女
かのよ
SF
同年代の子達と放課後寄り道するよりも、VRMMOでおじさんになってるほうが幸せだ。オープンフィールドの狩りゲーで大剣使いをしているガルドこと佐野みずき。女子高生であることを完璧に隠しながら、親父どもが集まるギルドにいい感じに馴染んでいる…! ひたすらクエストをやりこみ、酒場で仲間と談笑しているおじさんの皮を被った17歳。しかし平穏だった非日常を、唐突なギルドのオフ会とログアウト不可能の文字が破壊する!
序盤はVRMMO+日常系、中盤から転移系の物語に移行していきます。
表紙は茶二三様から頂きました!ありがとうございます!!
校正を加え同人誌版を出しています!
https://00kanoyooo.booth.pm/
こちらにて通販しています。
更新は定期日程で毎月4回行います(2・9・17・23日です)
小説家になろうにも「40代(男)アバターで無双するJK」という名前で投稿しています。
この作品はフィクションです。作中における犯罪行為を真似すると犯罪になります。それらを認可・奨励するものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる