95 / 228
本編
第80話 マヨイは抱きつかれる。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
テコの南門に着くとパーティを募集するプレイヤーが大勢いた。その多くがイベントに挑戦するためのパーティを募集しているようだけど「探索が使える人いませんか!」とか「鑑定スキル持ってる人!」という声ばかりだ。
「タンクやヒーラーの募集じゃないんだ?」
「適当な難易度に行って戦闘でスコアを稼ぐより、高い難易度に行って調査でスコアを稼ごうって魂胆だと思うわよ」
「1週間もあるんだからレベリングすれば上の難易度に挑めてスコアも稼げるとは考えないのかな」
「テイムが弱体化したからという可能性もあるわね。当てにしていた戦力が使えなくなったパーティもあるんじゃないかしら」
テイムの弱体化というのは明け方のメンテナンス前には告知されてなかったものだ。これまでテイムモンスターは1人1匹までならパーティ枠を圧迫しなかった。しかし、今回の修正でパーティ枠を圧迫するようになったらしい。
「そういえばテイム流行ってたのにアカトキもクレアちゃんもテイムは覚えなかったんだね」
「お姉ちゃんが修正されるだろうから止めなさいって言ってたからね」
「私はお兄さんをモフモフするから大丈夫です」
そう言ってクレアちゃんは僕の頭を触るのだけど、今は狂狼化を使ってないのでケモミミは生えていない。というか、これってハラスメントなんじゃないの!?
「クレアちゃん、ストップ、ストップ!」
「お兄さんの髪の毛、すっごく柔らかいので無理です」
「へぇ……あ、ほんとだ。めっちゃフサフサしてる!」
「アカトキもやめろって!」
「2人だけズルいわよ」
暁に藍香まで加わって僕を弄り始めた。
もうログアウトしてやろうかとすら思い始めた頃、こちらにプレイヤーの一団が歩いてきた。先頭にいる男性は明らかに僕らを睨んでる。僕に心当たりはないし、藍香も首を横に振っている。
「(あれ、私たちのクラスメイトだよ)」
「(あー、それでか)」
クレアちゃんが僕にしがみ付いて髪に触れているのは彼らから顔を隠すためのようだ。見つかってしまった以上は意味ないことだけど、頼られているようで少し嬉しい。
「ったく、こんなところにいた。ほら、暁しかタンクいないんだから手伝ってくれよ。というか朱莉もいるじゃん。これで6人揃ったし、これで峯村誘わずに済むわ」
「(うっわぁ……)」
『真宵、録画してるから穏便にね』
『了解』
近づいてきた暁たちのクラスメイトは信じられないことに現実での名前で暁たちを呼んだ。しかし、彼らが僕らを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべたことで何となく彼らの魂胆も透けて見える。
ようするに「俺はそいつらのリアルを知ってるんだぞ」という幼稚なアピールだ。もしかしたら「言うことを聞かなければ現実の情報を掲示板に晒す」という意味合いもあるのかもしれない。
僕からすれば「だから?」って話だけどね。
「この人たちは?」
「俺たちは同じ中学のクラスメイトだよ。そいつらは俺たちとパーティを組むって約束してたんだ」
「あぁ……君たちには聞いてないよ。でもそうか、現実での知り合いか。でも僕らの大切なギルドメンバーを常識も知らない卑劣漢と組ませるのは外聞が悪いね」
「なっ」
「そもそも近づいてきて"手伝ってよ"とか言ってた時点で君の"約束してた"ってのは嘘だよね」
「揚げ足取ってんじゃねぇ!クラスメイトなんだから、そいつらは俺らとパーティ組めばいいんだよ!」
あー、あー、顔を真っ赤にしちゃって可哀想に。
この表情を上手くVRで表現する技術についてはもう何も言うまい。彼のパーティメンバーも暁やクレアちゃんのクラスメイトだと思うが、さすがに分が悪いと察したのか先ほどから何も言わない。
「うちのギルドは(ギルドマスターが)ギルドメンバー以外とパーティと組む時は予め報告するようにしてるんだよね。で、僕らは以前からイベント期間中は固定パーティを組むって約束をしているんだ。この2人の性格からしてブッキングするようなヘマはしないから、君の発言が嘘だってことは揚げ足を取るまでもないんだけど?」
「はぁ!?たかがゲームで知り合っただけの関係だろ?俺らの方がそいつらのこと知ってんだよ」
「トリス、この人は……」
味方だと思っていたパーティメンバーからもドン引きされる彼のプレイヤー名はトリスという。位階は19で聖騎士と狩人の素質を持っている。装備は革鎧に長剣が2本、もしかして二刀流なのだろうか。
「家族より詳しいとか君、もしかしてストーカーなの?」
「は?」
「いや、クレアがクラスメイトからストーカー被害を受けてるのは知ってるんだよ。もしかして君がそうなの?だとすれば通報は運営じゃなくて警察にしなきゃいけなくなるね」
ストーカーが彼ではないことは知っているが、先ほどの発言の内容を聞いた第3者には彼がストーカーに見えることだろう。
「ち、違う!俺はストーカ……「先輩!」」
「ちょっ、え、誰?」
トリスの後ろにいた女性プレイヤーがトリスを押し退けて僕に抱きついてきた。そのプレイヤーの名前は織姫、位階は22、素質は格闘家と狩人、黒髪のポニーテールが特徴的で何処かで見た覚えのある顔立ちをしている。
それよりも押し退けられたトリスが地面に顔から突っ込んだけど大丈夫かな?街中だからダメージはないはずだけど、痛覚設定をオンにしてれば相当痛いだろう。
「天瀬川織姫です。や、やっぱり私のことなんて覚えてませんか?」
「織姫ストップ、落ち着いて!」
「嫌!」
さらっと本名を名乗っているけれど、そのおかげで思い出せた。
去年の今頃、僕に告白してきた暁のクラスメイトだったと思う。
僕に抱きついて離れようとしない織姫、織姫を僕から引き剥がそうとする暁とクレアちゃん、倒れ伏したトリス、唖然とするトリスと織姫のパーティメンバー。そして頼りの藍香は目のハイライトを消して薄寒い笑顔を浮かべて微笑んでいる。
状況は混沌としている。誰でもいいから何とかしてくれ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
去年のポッキーの日の番外編で登場した天瀬川織姫をようやく本編に登場させることができました。普段はクールビューティー、真宵が絡むと暴走気味なキャラクター(設定)です。
やっとフラグを回収できました。
41
お気に入りに追加
2,261
あなたにおすすめの小説
Solomon's Gate
坂森大我
SF
人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。
ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。
実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。
ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。
主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。
ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。
人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜
八ッ坂千鶴
SF
普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。
そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる