94 / 228
本編
第79話 マヨイと多数決
しおりを挟む⚫︎マヨイ
掲示板を見ながら進んでいたせいか僕がテコに到着した頃には既にイベントは始まっていた。僕がテコの組合に着くとエントランスには見知った顔しかいなかった。
「兄さん、おっそい!」
「ごめん、思ったより帰ってくるのに時間掛かった」
「お兄さん、こんにちは。その装備、どうしたんですか?」
「こんにちは、クレアちゃん。これはクエストの報酬……とはちょっと違うけどNPCから貰った装備だよ」
「あとで見せて貰えませんか?」
「いいよ……あれ、アイは?」
「お姉ちゃんならソロで挑戦しに行ったよ」
「イベントエリアにいるプレイヤーはフレンドコールやギルドチャットが使用不可になるみたいです」
「兄さん、イベント内容の一部変更があったの確認した?」
「変更なんてあったの?」
「えっと、ですね──」
イベント内容の変更部分と細かいルールについて暁とクレアちゃんから教えてもらった。運営からのお知らせを読んだ方が確実なので後で確認する手間を考えれば無駄な時間なんだけど、暁たちがどの程度把握しているかも知れるので全く無駄というわけではない。それに噛み砕いて分かりやすく説明しようと頑張っている2人の妹分に「お知らせを確認するからいいよ」とは言えなかった。
「趣旨としてはアルテラ北部草原地帯で発生した魔物の調査依頼なんだね」
「でも兎さんだけじゃなくなったみたいです」
「速攻で死に戻ったクラスメイトが蛇に噛まれたとか言ってたよ」
「ランキングはスコア形式、スコアが貰えるのは挑戦する時に選べる難易度、討伐したモンスターの数と強さ、魔物化した原因の調査と解決、でいいのかな」
「はい、それで合ってると思います」
「アルテラ草原って広いから制限時間で全部は無理じゃない?」
「制限時間は1時間か。そういえばイベントエリアで死んだらどうなるの?」
「え、知らない」
「アカちゃん、その日の死亡回数にカウントされるって書いてあったよ」
「あれ、そうだっけ?」
それなら難易度低いところに挑戦して感触を掴んでから難易度を上げていった方が建設的だろう。
「それと普段はアルテラ草原にいないモンスターが出る可能性もあるって書いてありました!」
「普段いないって言われても僕は狼と蛇と兎しか見たことないからなぁ」
「林になってエリアに夜はコウモリとかフクロウが出るよ。東側にはライオンみたいなモンスターが出るって聞いたかなぁ……」
「迷彩獅子だよ。5~6匹の群れで行動しててたまに透明になるんだって」
「へぇ……そういえばアルテラの東側も草原なんだっけ」
僕は行ったことないがアルテラ東部草原地帯というエリアになるのかな。アルテラ北部草原地帯とは隣接したエリアなのに微妙に出現するモンスターが違うらしい。
透明化する敵か……もし音も消せるようなら厄介だな。不意打ちには気をつけないと。
『真宵も合流できたのね。まだ組合にいる?』
『いるよ、さっき2人と合流したところ』
『おつかれさまです』
『なら今から行くわ』
『待ってるねー』
藍香がイベントエリアから出てきたようだ。
声色から藍香が落ち込んでいるように感じる。これは死に戻りしたか、今の藍香でも倒せないモンスターがいたかのどちらかだろう。
「アイが戻ってきたら情報を貰ってパーティで挑戦しようか」
「「うん/はい」」
それから数分もしない内に藍香が組合のエントランスまでやってきた。位階が52まで上がっているところから察するに最初から挑む難易度を高くしたんだろう。せっかく位階を追い越したと思っていたのに再び差をつけられてしまった。
「おかえり。どうだった」
「敵の位階が50超えてくるなんて思ってなかったわ……」
「最高難易度?」
「6よ。10段階で選べる難易度のほぼ真ん中よ。レベリングするには効率良いかも知れないけどソロだと事故が怖いわね。最後は透明な何かに囲まれて死んだわ」
藍香が1時間生き残れなかった。それも選択できる難易度からすれば更に4つも上があるらしい。
「この後どうする?」
「ギルド全員で難易度5に行きましょう。出てくる敵の位階は40を超えるでしょうけどアカトキとクレアは運が良ければ生き残れるわよ」
「無理、絶っ対に無理!私は一般的なんだし覚醒したからって格上と連戦なんて無理だよ」
「え、あかつ……アカトキ覚醒したの?」
「私だけじゃないよ。クレアも覚醒したの!」
「凄いじゃん」
暁は守護者と忍耐、クレアちゃんはサジタリアと弓神の巫女という覚醒をそれぞれ手に入れたそうだ。これは暁が忍耐という覚醒を手に入れた時に素質と同名の称号があれば覚醒できることに気がついて2人で試行錯誤した結果らしい。
そして僕は忍耐の獲得条件を聞いてドン引きした。
「閾値を超えた精神的苦痛を受けてもログアウトしなかったったって……何がやったんだよ」
「あー、前に話した峯村がキャラロスしたらしいんだ。それでキャラを作り直したからレベリング手伝ってくれってクラスの奴らにお願いしたみたでさ。ほら、前にもクラスメイトでタンクが私しかいないって話をしたじゃん?そしたらクラスメイトの何人かが手伝ってやれとか言ってきてさ、断ったらクレアのフレコを峯村に教えるとか言い出したんだよ。それで仕方なくレベリングを手伝ってやったんだけどめちゃくちゃウザくてさ────」
「長いわ。あと早口で捲し立てるな、要点だけ言え」
「クレア以外のクラスメイトとは2度とパーティ組みたくない!」
「え、えっと、アカちゃん以外のクラスメイトとは2度とパーティ組みたくないです!」
「それは要点じゃなくて結論だろ……」
「いいんじゃない?特に親しくもない奴のパワーレベリングを手伝うとか拷問でしかないし。あ、でもユウジをキャラロスさせたのは私と真宵だから間接的に2人に迷惑掛けたことになるわね。ごめんなさい」
「あー、そうなるか。迷惑を掛けたようで本当に申し訳ない」
仕様を把握していなかったが故の事故というのは言い訳にしかならない。自分の行為が回り回って身内を傷つけたのだから、これは僕の自業自得だろう。
「え、いや、別にいいよ。ぶっちゃけクラスメイトの奴らいい加減うざかったし」
「アカちゃんを便利な盾、みたいに思ってそうで私も嫌でした」
「私の義妹をパシリにしてた、ねぇ……」
「アイ、僕の妹だからね?」
暁とクレアちゃんのクラスメイトはクレアちゃんに「クラスメイトなんだからタダで装備を作ってくれ」とも言っているらしく、それに関しては藍香が「しばらくは販売や譲渡せず貯めて欲しい」とお願いしていた。おそらく店舗を構える時に一緒に並べる算段なのだろう。
「あ、そういえばエイトに土地と建物を貰えることになったから明日にでも下見に行かない?」
「「「………は?」」」
僕は厄の討伐からの一連の話を説明することにした。
ちなみに説明を終えた直後に『ギルドマスターがギルドメンバー以外とパーティを組む場合、ギルメンの過半数の賛成が必要』という謎ルールが僕以外の賛成多数で決まった。ちなみにギルドマスターに投票権はなく、賛成と反対が同数だった場合は反対が優先されるそうだ。
その代わりギルドマスターは反対票を投じたギルドメンバーに何でも1つ命令できる権利が発生するらしいので僕にだけデメリットがあるルールではない。
「なんだ冗談か」
「そうよ。でもルールはルールだからね」
「はいはい。それで下見に行く?行かない?」
「行ってもいいけど下見しかしないの?」
「エイトに何があるかくらいは把握したいかな」
「私たちも行っていい?テコにいるとクラスメイトに絡まれそうだし、クレアも出待ちされるの嫌でしょ?」
「うん」
「なら少なくともイベント期間中は固定パーティを組みましょか」
こうして僕らは藍香の提案でイベントが終わるまでの1週間、常にパーティを組んで行動することになった。暁やクレアちゃんを守るという意味でも悪くないと思う。
しかし、イベント期間中に流星群から接触があるはずだ。暁たちに迷惑が掛からないようにしたい。そこら辺は藍香も分かっているはずなので夜にでも相談しよう。
「よし、そろそろイベント行こうか」
───────────────
お読みいいただきありがとうございます。
いよいよ暁の人外スペックがアップを始めました。
41
お気に入りに追加
2,270
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる