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本編

第76話 マヨイと領主館

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⚫︎マヨイ

 門に詰めていた兵士に馬車で街の中心部にある領主館(見た目は城)まで連れてこられると、すぐに城の兵士によって領主館(というより城)の一室へと通された。こういう場合って謁見の間みたいな場所に連れてかれるイメージがあったので少し意外だ。
 部屋の中にいたのは横幅3mはありそうな大きな机に座っている30代後半から40代前半に見える金髪オールバックの男性と護衛らしき男女だ。

「組合から報告にありました例の人物をお連れしました」

「ご苦労。下がりなさい」

「はっ!」

「さて……私が領主のウォルター・エイトだ」

「自分はマヨイといいます」

「私はまどろっこしい交渉は好きではなくてね。率直に言おう。君が厄を討伐したという証拠を持っていると聞いた。それを見せて欲しいのだ」

「分かりました。……これです」

 僕は護衛(?)の男性に手記とローブを渡した。
 手記とローブを受け取った領主は手記を開いてパラパラとめくり出した。あれ、封印されてるって話じゃなかったっけ?

「ふむ……この手記を譲ってくれないか」

「構いません」

「感謝する。さて本題に入ろう。今回の君の働きはエイト領主として看過できないほど大きなものだ。君の英雄的行動によって多数の死傷者を覚悟していた総力戦を避けられたのは何よりも大きい。君には褒美を受け取って貰わなければならないのだ」

 僕の一連の行動が英雄的かと聞かれると首を傾げざるを得ないけれど、領主の言い分も理解できなくはない。褒美を貰えるというなら素直に貰っておけばいいだろう。

「まずは英雄証だ。これは私ではなく国王陛下からということになる。下位貴族と同等の権利と権限を保証する証だ」

「国王陛下から、ですか?」

「厄は国にとっても頭の痛い問題だった。それが解消されたという報告を昨夜の時点で国王陛下にした際、これを下賜するよう命ぜられたのだ。まぁ……国王陛下も私も厄が1人の手で倒されたとは思っていなかったがね」

「は、はは……」

「次に組合からだ。君は自身のギルドを立ち上げているが拠点はまだないそうだね。そこで拠点として使えそうな建物を贈りたいそうだ。私の所有している物件をエイトの組合支部で買い取って贈与される形になる」

「はい」

 ギルドの拠点か。お店を開く予定だったから場所によっては不便かもしれないけれど、選択肢があるなら藍香たちと相談して決めよう。

「そして最後に私からは大賢者シリーズと賢者の宝珠を送ろう。分かっていると思うが覚醒するには原則として素質と対応した称号が必要になる。賢者の称号は持っているかな?」

「持ってません」

 というか覚醒に素質と対応した称号が必要とか初耳だよ!
 僕の場合は神様関係の称号がそれに当たるのかな。錬金術関係の称号も持っているけど"見習い"が付いているから条件を満たしていないということかな。

「賢者の称号を獲得するには100種のアイテムの作成・モンスターの鑑定を100種・アイテムの鑑定を100種・読破書籍数100種類・魔術もしくは魔法を合わせて10種類習得の中から1つ達成するだけでいい。全て達成すれば賢者の素質を得ることができるが、宝珠があれば簡単に覚醒することができるだろう」

 この情報は掲示板に書き込んでおこう。戦士から変化した素質を持っている人は何人か見てきたけど、魔術士から素質を変化させたプレイヤーは僕しか知らないのだ。この程度の情報なら流したって構わないだろう。
 それと宝珠というのは対応した素質を条件を省略して獲得できるアイテムだ。この場合は賢者の素質を獲得できる宝珠、ということだろう。

「鑑定は簡易鑑定でもいいんでしょうか」

「問題はないはずだが……そうだな、追加で高位鑑定のスクロールを褒美に取らせよう。あれは頭が痛くなるせいで寿命が縮むなどという迷信があってな。せっかく誰も使おうとしないんだ」

 え、待って。この人、今スクロールを作ったとか言った!?
 口調も砕けてきてるし、もしかして意外と趣味に生きてる感じの人なのだろうか。

「シーリー、先に言った褒美の品と高位鑑定のスクロールを持ってこい」

「高位鑑定のスクロールを持ち出す名目はいかがいたしましょうか」

「手記の礼だ」

「かしこまりました」

 クールビューティーという言葉が似合いそうな女性の護衛が部屋から出て行くのを見送った領主はおもむろに席から立つと肩を揉むような仕草をして態度を変えた。

「あー、疲れたわーっ」

「ウォルター様、もう少し我慢してくださいよ……」

「いやだ、こんな面白い奴を前にして真面目に応対なんてしてられっか。それよりも1人でどうやって厄を倒したんだ!?教えてくれるなら褒美を追加したっていいぞ。これでも俺はだからな。上位までのスクロールと宝珠なら何でも作ってやれるぞ?」

「はぁ……すまないがシーリーが戻ってくるまでの間でいいからウォルター様の頼みを聞いてやってくれ」

「わ、分かりました……」

 領主や貴族のイメージが色々とぶっ壊れそうだけど、何とかポーカーフェイスを崩さないで済んだ。ちなみにシーリーさんは領主の妹の長女、つまりは姪に当たる間柄だそうだ。姪の前では格好いい姿を見せていたい、という設定なのかもしれない。
 そして僕が厄を討伐することになった経緯と戦闘のあらましを語ったところでシーリーさんが戻ってきた。

「ただいま戻りました……おじ様、どうなさったのですか?」

「……いや、なんでない。持ってきたか」

「はい、こちらになります」

「お……私が直接渡す」

「かしこまりました」

 こうして僕はウォルター(公の場以外ではそう呼ぶように言われた)から英雄証と大賢者と名の付いた装備一式、賢者の宝珠と高位鑑定のスクロールを受け取った。


[称号:虹神の讃美を獲得しました]
[覚醒:虹神の使徒を獲得しました]
[技能:虹の神威を習得しました]
[技能:虹神の法器を習得しました]
[称号:彩神の神子を獲得しました]
[覚醒:灰神の使徒・蒼神の使徒・虹神の使徒は彩神の使徒に統合されました]
[技能:灰の神威・蒼の神威・虹の神威は彩の神威に統合されました]
[技能:灰神の法器・蒼神の法器・虹神の法器は彩神の法器に統合されました]
[覚醒:英雄[魔導]を獲得しました]
[技能:魔導の真髄を獲得しました]
[技能:複数の技能が魔導の真髄に統合されました]


 毎回思うけど情報過多だ。あとでしっかりと確認する時間を取ろう。最悪、イベントには遅刻したっていい。

「どうした」

「いえ、ありがとうございます」

 その後、それとなく引き止められはしたが仲間をテコに残して来ていることを伝えると小声で「いつでも遊びに来い」と言われた。
 領主館に簡単に来れるわけないだろと思っていたけれど、渡されたアイテムの中に聞き覚えのない入許可証[エイト]というアイテムが紛れ込んでいた。どうやらウォルターが僕に直接渡したのは入城許可証を忍ばせるためだったらしい。

「って、やっぱり城なんじゃないか!」

 領主館を出てすぐにて入城許可証の存在に気がついた思わず叫んでしまったのは仕方ないことだと思う。


───────────────
お読みいただきありがとうございます

「ママー、あの人、領主館のこと城って言ってるー!」
「しっ、見ちゃいけません」

次話はステータス回になります。
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