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本編

第73話 マヨイとドロップ品の行方

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⚫︎マヨイ

 昼食を終えた僕は精神的な疲れも消えたのでログインする。

「さて……シキは……よかった、ログインしてる」

 僕は現在、助っ人として参加したはずの戦闘で敵のドロップアイテムを独り占めした状態にある。このままでは外聞が悪い。なるべく早くシキと連絡を取ってドロップアイテムの分配をしたいところだ。

『シキ、今大丈夫?』

『マヨイ君!あの後すぐに用事でログアウトしちゃったんだ。連絡しないままログアウトしたのに気がつかなくて、本当にごめん!』

『それはいいよ。で、厄を倒せたからドロップを分配したいんだけど合流できないかな?』

『え』

『厄を倒せたからドロップを分配したいんだけど合流できないかな?』

『わ、分かった。今どこにいるの?』

『厄と遭遇した場所にいるよ』

『私たち草原にいるから30分後にテコの東門に集合でいい?』

 テコの東門からここまで戦闘をしながら30分ほどだったかな。
 厄を倒した影響なのかスケルトンの姿は周囲にないので歩いて向かっても余裕で間に合うだろう。他のモンスターが出現したとしても手加減せず倒せばタイムロスはほとんどないはずだ。

『分かった。すぐに向かうよ』

 どうせまたチートだとか色々と言われるんだろうな。
 そんなことを考えながら僕はテコへと足を向けた。


…………………………………


……………………………


………………………


 僕がテコの東門に着いてしばらくするとシキとマリアがやってきた。

「お待たせ!ルイとショウは組合に寄ってから来るって」

「分かった。なら僕らも組合に行こうか」

「「なんで?」」

「なんでって……聞き耳立ててるプレイヤーに情報をタダであげる必要ある?」

 そう言って僕らの様子を伺っているプレイヤーを見る。盗み聞きするつもりなのか、単に僕らに興味があるのか分からないけれど、僕が東門に着いた頃から遠巻きに僕の様子を伺っているプレイヤーたちがいるのだ。
 シキとマリアが釣られるように同じ方向へ視線を向ける。すると視線が合ったらしいプレイヤーが顔を逸らした。

「ごめん……」

「組合行くってマリアたちに伝えるわね」

「組合で加工施設を借りれば密談できるから、合流したら僕名義で借りるよ」

「お金掛かるよね?」

「1時間で20Rだったかな。懐に余裕あるし気にしなくていいよ」

 でも厄を倒してしまったのでウーバーヒール・ポーションの需要は下がってしまったはずだ。せっかく見つけた金策を自分の手で潰してしまった可能性に思い至った僕は自分の浅慮に頭が痛くなる。
 もちろん、VRなのだから錯覚なのだけれど。

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「そうだ。先に伝えておくけど、ドロップはマヨイくんの総取りでいいからね」

 門を抜けたところでシキがとんでもないことを言い出した。
 それなら合流する意味ないよね!?

「シキ、それはシキの意見でしょ。ごめんなさい、実は私たちの中でも意見が割れているのよ」

「まぁ……とりあえずドロップ品を確認してから判断すればいいんじゃない?」

 僕としては明らかにクエストのフラグになっている[貴重:ヨーゼフの手記]が欲しい。錬金術に使えそうな[素材:厄晶]も出来たら確保したいところだ。同時にドロップした2つの装備は性能こそ悪くないが装備できないし見た目が厨二病っぽいので確保する優先度は低い。

「お、きたきた。こっちこっち!」

「こんにちは」

 組合の建物に入るとすぐにショウを見つけた。
 大声を出しながら手を振ってくれているので見つけられない方がどうかしているのだけど、他のプレイヤーやNPCからの視線が痛いのでやめて欲しい。
 まるで逃げるように僕らは加工施設を借りて移動した。

「それにしもよく勝てたな!」

「まぁ……僕の戦闘スタイルと相性がよかったからね。攻撃の威力は高そうだったけど何とか被弾せずにやり過ごせたんだ。けど1番ヒヤッとしたのは厄がスケルトンを召喚した時だよ……ほんと詰んだかと思った」

 最も厄介だと感じたのは大量のスケルトンの召喚──と厄の支援魔法──だったのは間違いない。ゼパース・ウッドがなければ格闘戦闘をせざるを得なかっただろうし、そうなればスケルトンの大群に呑まれてしまっていたことは想像にかたくない。

「それでドロップなんだけど、装備は要らないから素材と手記が欲しいんだ」

「あたしはマヨイの総取りでいいと思うけどな。実際、あたしら必要なかったわけだし」

「厄のところまで案内したのは私。とりあえず装備見せて」

「そうね、平等に分ければいいと思うわ」

 個人的には意外だけどドロップを欲しがっているのはルイとマリアらしい。ルイはドロップを見て決めればいいようだけど、マリアはドロップをパーティで分け合うのが当たり前だと思っているようだ。
 とりあえずアイテム欄から厄からドロップしたアイテムを取り出す。


名前:厄晶
分類:素材
効果:体内に取り込むことで魔力を強化する水晶。
   力には相応の対価が支払われる。


名前:ヨーゼフの手記
分類:貴重
効果:死霊術士ヨーゼフが書き記した手記。
   血縁者にしか読むことが出来ない封印が施されている。


名前:ヨーゼフのローブ
分類:装備 胴防具
効果:[分類:召喚]スキル3段階強化
   全ステータス+50%
制限:[分類:死霊]を持つ素質または覚醒


名前:使役の宝杖
分類:装備 武器 杖
効果:[分類:使役]スキル2段階強化
   [分類:支援]スキル2段階強化
   知力+80%
   精神+80%
   敏捷-80%
制限:[分類:使役]を持つ素質または覚醒
   [分類:支援]を持つ素質または覚醒


「この杖、欲しい!」

「私は水晶が気になるわね」

 ルイが杖の性能を見てすぐに叫んだ。
 実際、彼女の戦闘スタイルと合っているとは思うので欲しがることは予想通りだ。ちなみに彼女のテイムモンスターである小次郎はここにいない。どうやらテイムモンスターが死んだ場合、復活すふのに24時間も必要なのだとか。お手軽に味方を増やせるスキルなので仕方ないデメリットだろう。

「この厄晶を分けて貰えないかしら」

「なら僕は厄晶を諦めて手記とローブを貰うよ」

「私は杖が貰えるなら他は要らない」

「なら私とショウとシキで水晶を3つずつね!」

 マリアは厄晶を受け取ると加工施設から出ていった。シキやショウから明らかに不機嫌な空気が滲み出ているし、ルイも「平等とかないわー」と言わんばかりの視線が向けられていたので居た堪れなかったんだろう。
 僕も今回のドロップ品の分配に不満がないと言えば嘘になるし、こいつとパーティを組むのは嫌だなと思うくらいにはマリアの態度には腹が立った。それでも僕が彼女の提案を呑んだのは最っとも欲しかった手記は確保できそうだったからだ。

「マヨイ。ローブは装備できないだろうし、手記は封印されるんだろ?本当にいいのか?」

「そうだよ。厄晶が欲しいって言ってたじゃないか。マヨイくんが1人で倒したようなものだし、私の分の魔晶は要らないよ」

「あたしの分もなしでいいぞ。その代わりフレンドになってくれよ」

「私もフレンドになりたい」

 その後、シキとショウがすごい申し訳なさそうな顔で厄晶を1個ずつ受け取ってくれるまで5分近く厄晶を譲り合った。ルイとショウとフレンド登録した際に「位階45って何!?」と驚かれたが、それに関しては厄がそれだけ強敵であったということで3人とも納得してくれた。

「チートだとか色々と言われるの嫌だから位階とかは秘密にしたいんだけど、誰にも言わないでくれるかな」

「もちろん。こちらから秘密にしてるのを皆んなにバラしちゃってごめんね」

「シキは悪くないじゃん。あたしが変に疑ったのがいけないんだし」

「マヨイ、もしかして覚醒してる?」

「してるよ。それも秘密にしてるけど……色々あって覚醒してるのは結構な人にバレてるんだよね。でもできたら誰にも言わないで欲しいな」

 この後、30分近く雑談しているとルイの元にマリアからフレンドコールで連絡が来たらしく、彼女たちは「現実での知り合いって面倒」と苦笑いしながら加工施設から出て行った。

「あ、厄の討伐報告ってしてないよな」

「マヨイくんがしてよ。組合からの報酬くらいマヨイくんが独り占めしたってマリアも文句言わないでしょ」

「私たち戦闘してないしな」

「なら後でしておくよ」

 そう言って僕は彼女たちを見送った。
 せっかく加工施設を借りているのだから、人工魔石の作成など指南書に載っていたものを色々と試してみたいのだ。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

MMOでのドロップ品分配によるトラブルはよくあることです。シキやショウのように戦果によって決める人、ルイのように欲しいものがあればダメ元でも主張する人、マリアのように平等に分けるべきだと主張する人、本当に様々な主張を持った人がいますね。
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