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本編

第72話 その頃の運営サイド2

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 マヨイたちと厄との戦闘戦闘が開始直後から運営サイドに覗き見られていたのは、まだ若いスタッフが社長の肝煎りで配置された悪意の塊"厄"とプレイヤーが接触したことに興味を覚えたてリアルタイムでの視聴を始めたのが切掛だ。

「すっご、ほんと彼ナニモン?」

「どうした?」

「あの厄ってモンスターと実質ソロで戦闘してるプレイヤーがいるんすよ」

「はぁ?いくらなんでも無理だろ。厄の素のステータスは0固定の敏捷を含めても平均で30万、スキルの強化を含めれば90万を超えるんだぞ。今の段階でプレイヤーが徒党を組んだとしてもどうにかなるモンスターじゃない」

「ほら、例のマヨイってプレイヤーっすよ」

「そいつのステータスは?」

 プレイヤー名、マヨイ。それはサービス開始初日に「こあつ、ほんとに人間か?」と運営サイドを混乱させたプレイヤーだ。しかし、そんな彼も運営サイドにとっては現在の"Continued in Legend"におけるトッププレイヤーの1人という認識でしかなかった。

「素のステータスは高くて2万に届かない程度ですね。ただスキルの補正込みだとステータス平均が最大で8万近くになるっすね」

「そんなにステータスを上げるようなスキルあったか?」

「神様関連のスキルと称号、それらとデメリット付きのステータス上昇スキルのシナジーみたいっすね。あとはパッシブでステータスを上昇させるタイプのスキルをこれでもかって詰め込んでいるみたいっす」

「神様関連のスキルの性能はプレイヤーに周知されれば問題になるものばかりだが……それでも今の段階でステータス平均8万はとんでもねぇな」

 神様関連のスキルは"Continued in Legend"に4000以上存在する超高性能スキルだ。仕様上、条件さえ整えれば誰にでも習得は可能だが現時点で習得しているプレイヤーは両手の指で足りる程度しかいない。

「それでも厄とソロ戦闘なんて無理だと思うんすけどねー」

「俺にも見せてくれよ」

「いいっすよ」

「え、なにこの弾幕ゲー?」

 観測モニターの中で繰り広げられていたのは最大で秒間500発に設定されている厄のレイ系攻撃光線攻撃を回避しつつ、とんでもない量の魔力弾を放つプレイヤーの姿だった。

「厄の攻撃はワンパターンだから回避するのはステータス5万もあれば余裕だろう。しっかし、この魔力弾の数はなんだ?」

「神様関連のスキルの効果で並列発動がアンロックされているみたいっすね」

「いや、それアンロックされるだけだったろ。実際はプレイヤーの処理能力が追い付かないから同時に10発程度が上限って話じゃなかったか?」

「ログを確認すると毎秒2000発くらい撃ってますね。たまに3000発とか出てますし、回避行動を取りながらとか人間技じゃないっすよ」

 一般スキルにもスキルの並列発動をアンロックするスキルは存在する。しかし、それを実際に使いこなせるかはプレイヤー自身の処理能力に大きく依存している。ちなみに彼らはマヨイがサービス開始3日目に14000発の魔力弾を放った件を把握していない。一般プレイヤーを常に監視するほど余裕のある職場ではないのだ。

蓬崎よもさき君、イベントの最終調整は終わったの!?」

「す、すまんっ」

「斎藤君も休憩終わったらこっち手伝って頂戴」

「分かりました(佐藤さん、めちゃくちゃ怖いっすね)」

「(黙ってれば深層の令嬢なんだけどな)」

「き・こ・え・て・る・わ・よ?」

「「ひっ」」

 この時、斎藤がマヨイと厄との戦闘を佐藤に見せていたならば数時間後から始まる阿鼻叫喚のデスマーチへの備えも出来たのかもしれない。


…………………………………


……………………………


………………………


「すごいっす!勝っちまったっすよ!」

「斎藤、どうしたのよ」

「あ、佐藤さん。このマヨイってプレイヤーが厄を倒したんすよ」

「え、厄って……あの厄?」

「あの厄っすよ?」

「ぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

「ちょ、佐藤さん!?どうしたんすか!?」

「おい、どうした」

 その日、運営サイドを指揮していた佐藤の絶叫は運営サイド各員の鼓膜を震わせ、数秒間ではあったが全ての業務が停止するほどだった。ちなみに本来の責任者である高木女史──通称、局長──は有休を取って本日は不在だ。

「イベントよ、明日からのイベント!イベントモンスターが出現するのは進行度1のモンスターだけだったわよね?」

「そうっすね」

 今回のイベントはプレイヤーによってギルドが結成されたことで条件が満たされて発生したイベントだ。そのためプレイヤーのゲーム進行度によって難易度が自動的に調整される設定となっていた。
 つまり、プレイヤーが厄を倒した場合"プレイヤーの上位層ならば厄を倒せる戦力を持っている"と判断された上でイベントの難易度が決定されるのだ。

「アルテラ北部草原地帯とテコ東部高原地帯をさえぎっていた厄がいなくなると進行度9まで上がるんじゃなかったかしら?」

「え゛」

 進行度と出現するイベントモンスターの平均レベルは比例の関係にある。進行度9のイベントモンスターの平均レベルは90台、現時点の平均的なプレイヤーが倒せるような相手ではない。
 そんなモンスターで溢れかえったイベントを開催すればどうなるのかを想像した運営スタッフ一同の顔色は真っ青になった。

「進行度を無理に下げるには局長レベルのアクセル権限が必要だけど、こんな時に限って有休でいないし……」

「難易度を段階的に設定できるよう修正するのはどうだ?」

「今から?」

「不可能ではないはずだ。俺たちはサービス開始前のデスマーチを無事に乗り越えたんだ。あれに比べればマシだろ」

「そうね……この難局、絶対に乗り越えるわよ!」

 こうして運営サイド各員の奮闘によって"Continued in Legend"で開催される最初のイベントの準備は急ピッチで進められていった。


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お読みいただきありがとうございます。

デスマーチとはソフトウェア開発において破綻が予測されているけれど、それを諸般の事情で止められない状況のことです。
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