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本編

第69話 マヨイは呆れる。

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⚫︎マヨイ

 シキとシキの仲間と一緒に組合に戻った僕はお馴染みになりつつある受付のブライトに厄についての情報を求めた。

「厄についてですか……そうですね、厄というのは魔力溜まりなど空気中の魔力濃度が高い場所で発生するモンスターです。分類はアンデットという説が一般的です」

「魔力溜まりというのは何ですか?」

「魔力溜まりというのは空気中の魔力が集積する場所の総称ですよ。この辺りではテコとエイトを繋ぐテコ東部高原地帯の中間地点よりやや南西の地点がそうだと言われています。これは今から20年前、その地点で初めて厄が確認されたことから推測されているだけですが……」

「20年も倒されてないのですか?」

 そう横から質問したのはシキだ。
 確かに厄が出現したのが20年前というならばテコとエイトを繋ぐ街道が使えなくなってから20年ということになるだろう。そんな状況を放置するというのは腑に落ちない。それにということは2番目以降がいるということだ。

「厄というのは何らか要因で異常な量の魔力を取り込んだ生物の衝動や感情が魔力に定着することで発生すると言われています。20年前に出現した厄はゴブリンキングを核としていたそうですが当時のエイト領軍が総出で討伐、多数の死傷者が出たという記録が残っています。また7年前にワイバーンを核に発生した厄は現在の領主で当時は組合に所属していたウォルター・エイト様がレギオンを率いて討伐されています。この際、核となった生物によって厄の強さや能力が異なることが分かっています」

「今回の核となった生物は分かっているんですか?」

 嫌な予感しかしないけれど確認する必要があるだろう。
 よくて普通に強力なモンスター、悪ければ変異種の亡骸ってところだろうか。どうせ僕らプレイヤーは死んでも生き返るし、変異種の亡骸を核にしていたとしても1回くらい挑戦してといいだろう。

「──です」

「「「は?」」」

「人間、それも高位のネクロマンサーです」

 予想していた最悪よりはマシなのかは分からないけれど、人間の亡骸を核にしたモンスターというのはシキたちには少し荷が重いようだ。VRではあるけれど見るからに動揺しているのが伝わってくる。
 ちなみにネクロマンサーとはゲームなどのサブカルチャー作品に登場する生物の死体を操る存在のことだ。

「ということは能力もネクロマンサーと同じようなものですか?」

「そうですね。大量のスケルトンを指揮しているのが分かっています。また核となった人物は数の暴力で相手を蹂躙するような戦闘を好んでいたそうです。もちろんネクロマンサーですから、幻覚や毒など無数の状態異常攻撃もしてくるでしょう」

 大量のスケルトン、掲示板やシキからの情報が正しければ数千単位らしい。それが1つの意思の元で指揮されているとなれば軍が苦戦しているのも納得だ。それに加えて状態異常を操る可能性が高いとなると……あれ?

「本体の能力、というより耐性は予想できてますか?」

「これまでの厄と同じように一般的な物理攻撃は通じないと考えられていますが、核となったネクロマンサーは接近戦とは無縁の魔導士でした。魔剣などの魔力を帯びた武器ならばダメージは与えられると思いますが……」

「元が魔導士、ということは魔術耐性も高いということですか?」

「そうですね。魔剣、それも厄クラスのモンスターに通用するものは限られています。なので現在、エイト領軍は厄を無視してスケルトンの駆除から手をつけているようです」

 物理攻撃無効だけでなく魔術耐性も高いとなれば、持久戦に持ち込んで地道に削るのが確実なのは理解できる。使役されているスケルトンだって無限ではないのだから領軍に分がある賭けだろう。

「魔術、つまり魔力由来の攻撃ならダメージは与えられるんですね?」

「はい、最初に会敵した組合員からアイテムや魔術でダメージを与えて怯ませたという報告が上がっています」

「ありがとうございました」

「またのお越しをお待ちしてます」

 厄についての基本的な情報を得た僕とシキたちは組合を後にした。
 彼女らのパーティの空気は決して良いものではない。助っ人を呼んでまで倒そうとしてたボスとの相性が最悪に近く、倒せるビジョンが浮かんでこないんだろう。

「マヨイくん、私から誘っておいてなんだけど……」

「物理偏重のパーティで物理無効のボスに挑むのはキツいよね」

「マヨイ、勝てると思うか?」

 そう質問してきたのはショウだ。
 質問に対する僕の回答は「僕だけなら勝てる可能性がある」だ。
 状態異常は無効にできるし、魔力弾で僅かとはいけダメージを与えることができる。それにアイテムでもダメージを与えられるというのだから単純な相性では僕の方が分があるだろう。基本スペックで負けてたら分からないけど。
 もちろん、このまま言えば角が立つので全力ではぐらかす。

「シキとショウにとっては最悪に近い相性なんだよね。マリアの場合は聖術はあるけど間違いなく魔力が足りない。ルイの戦い方は知らないけれど、たぶん状態異常の対策はできないよね」

「ステータスでレジストするから大丈夫」

 組合に来るまでに聞いた金の使徒の固有スキル──ルイはユニークスキルだと言っていた──それと厄との相性は悪くない。彼女から挑まずに逃げるのは嫌だという意思がヒシヒシと伝わってくる。

「でもさ、怖いもの見たさというか、興味はあるんだよね」

「実際に死ぬわけじゃないものね」

「負けたら鍛え直せばいい」

 シキは厄の討伐に消極的だけど、他の3人は違うようだ。
 ショウとマリアは負け前提で話の種が欲しいだけのような印象を受けるが、ルイだけは勝ちに行く気のようだ。

「…………マヨイくん、挑んでもいいかな?」

「僕が反対しても多数決なら3対2みたいだし、いいんじゃない?」

 助っ人として呼ばれて許諾したからには協力するけれど、もし足手まといになるようなら彼女たちを切り捨てよう。
 勝算のない勝負は好きじゃないんだ。


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お読みいただきありがとうございます。
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