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本編

第65話 マヨイは味を確認する。

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⚫︎マヨイ

 組合の受付で僕らはクレアちゃん名義で加工施設を借るとすぐに移動した。絡まれた被害者側とはいえ、組合のエントランスにいたプレイヤーから衆目を集めすぎたせいで居心地が悪くなったからだ。

「作業台に全部は乗り切らないから細かいのだけ先に出すね」

「宝石類なんですよね?」

「宝石類もある、が正しいかな。テコから北に行ったところにある岩石地帯で黒い岩を砕くと手に入るものだよ」

「掲示板で凄い爆発があったとか書いてあったの、あれ兄さん?」

「そうだと思うけど、どうかした?」

「ううん、なんでもない……」

 暁が何か言い淀んでいたけれど、煮え切らないので先に作業台に岩石地帯で手に入れたアイテムを──各種サンプルとして1つずつ──並べる。1番数が多いのは粗鉄あらてつ、次に水晶だ。粗鉄は精錬前の鉄のことだったはずなので、鉄鉱石の仲間みたいなものだろう。たぶん。

「粗鉄の精錬とか大変そうだよね」

「アカちゃん、粗鉄の精錬はスキルにあるから大丈夫だよ」

「え、そんなのまであるの?」

「わたしは覚えてないけど掲示板に書き込んでいる人が粗鉄を高温の火に投げ込んだら精錬を覚えたって書いてあったよ」

「「へぇ……」」

 もしかしたら最も情報のやり取りが盛んなのは加工系プレイヤーなのかもしれない。戦闘スキルに関する情報は誰もが隠そうとする傾向にあるらしい。僕も自分の戦闘スキルを拡散する気は全くない。戦闘とは関係のないスキルの情報は共有した方がメリットが大きい場合もあるので取捨選択して掲示板に書き込んでいる。

「宝石類はアクセサリに使うと付与できるスキルが増えるみたいです。水晶っていくつありますか?」

「1172個」

「え」

「1172個」

「兄さん、それどうするの?」

「えっと、組合で水晶を買うと1番サイズが小さいもので200Rはするみたいなので……あ、お兄さん、ゴーレムの素材があると言ってませんでしたか?」

「あるよ。暁、床に出すからどいて」

 ゴーレムの外殻と核をアイテム欄から取り出して床に置く。
 取り出した外殻は平均的な男子高校生くらいはある──僕より10㎝以上高い──人型の岩だ。ただし、取り出したそれの胴体には直結15㎝ほどの穴が空いている。核は重さも考慮すればピンポン玉というよりゴルフボールに近い球体だ。

「もし良かったら外殻で暁の盾や鎧を強化出来ないかな」

「え!?」

「ギルドで唯一の受けタンクだからね。イベントも近いし、装備も強化しておいた方がいいでしょ」

 その後、宝石類とゴーレム素材の3割をギルドメンバーの装備制作費と打ち消しということでクレアちゃんに譲渡することになった。クレアちゃんは自作した装備を売ってお金を稼いでいるので、そのための素材も必要だろうと余分に渡そうとしたら2人に見咎められてしまった。約30分もの交渉の末、これらを使って稼いだ金額の3割をクレアちゃんから受け取るという形で落ち着いた。

「さて、僕も施設借りてこようかな」

「え、お兄さん、一緒にやらないんですか!?」

「ここは人が入る分には4人くらいでも問題ないけれど、作業するなら2人でも少し手狭だと思うよ」

「そう……ですよね……今度は大きなところを借りますね!」

「そうだね。そうしたら一緒に作業しようか」

「はい!」

 そういうわけで僕は組合の受付まで戻ってきた。暁はまたクラスメイトと合流してレベリングをするそうだ。2人によると暁はクラスで唯一のタンクらしく、クラスメイトから勧誘が絶えないようだ。

「癒草の採集依頼の現状を確認させて下さい」

「もう全て済んでいるよ。ちょっと待っててくれ……………………ほら、癒草200束だ」

 3本で1束なので合計で600本の癒草を受け取った。
 相場より少し高めに金額設定したからだとは思うけれど、僕の予想以上に早く依頼が消化されたのは嬉しい誤算だ。

「ありがとうございます。ついでに加工施設を使わせて下さい」

 受付で鍵を受け取って加工施設に移動した僕はウーバーヒール・ポーションをスキルの自動作成を使って量産を始めた。まだ市場には出さないけれど、ポーションに消費期限はなさそうなので今のうちに量産しておこうと考えたのだ。それに状態異常にならない僕が大量消費すれば実質的な体力の最大値を数十万単位で伸ばすことだってできそうなので仮に売れ残ったとしても無駄にはならはいだろう。
 そういえば掲示板に書いてあったけど、ポーションは製作者によって味が変わるらしい。ポーションの味が気になった僕は1本飲んでみることにした。飲むのは最初に作った回復量の低いウーバーヒール・ポーションだ。

「……ゴクッ……ゴクッ……これ、抹茶かな?」

 抹茶というには少し甘い気がするけど嫌いな味ではない。
 ただ人によっては抹茶は嫌いだろうからトレード材料に出来るか少し不安になってきた。でも少し甘みもあるから抹茶が嫌いな人でも飲みやすいとは思う。

「やっば、時間!」

 本当はポーションを作った時に出来た茎や葉脈などの端材を何かに使えないか試すつもりだったが、受付で受け取った600本の癒草の葉脈を取り除く下準備とポーションの自動作成だけで2時間近く経過してしまった。下準備も自動で済ませると回復量が落ちるような気がして全て手作業でやったのが原因だ。

『夜11時過ぎたしログアウトするよ』

『え、もうそんな時間?』

『僕も今さっき確認して驚いたとこ。そういえばアカトキとクレアちゃんは?』

『あの2人なら少し前にログアウトしたわよ』

『ほんとだ、気がつかなかった。それと例のポーション、受付に出した依頼分の癒草を使って600本量産したよ。イベント始まったら周りの様子を見て売ろうて思う。相場どのくらいが妥当かな』

『変な規則に引っ掛かって罰則とかは嫌だし組合で確認しておいた方がいいかもしれないわね』

『明日、覚えてたら確認するよ。おやすみ』

『おやすみ』

 こうして僕のゲーム3日目は終了した。


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お読みいただきありがとうございます。

珍しく2000文字を切っています
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