上 下
80 / 228
本編

第65話 マヨイは味を確認する。

しおりを挟む

⚫︎マヨイ

 組合の受付で僕らはクレアちゃん名義で加工施設を借るとすぐに移動した。絡まれた被害者側とはいえ、組合のエントランスにいたプレイヤーから衆目を集めすぎたせいで居心地が悪くなったからだ。

「作業台に全部は乗り切らないから細かいのだけ先に出すね」

「宝石類なんですよね?」

「宝石類もある、が正しいかな。テコから北に行ったところにある岩石地帯で黒い岩を砕くと手に入るものだよ」

「掲示板で凄い爆発があったとか書いてあったの、あれ兄さん?」

「そうだと思うけど、どうかした?」

「ううん、なんでもない……」

 暁が何か言い淀んでいたけれど、煮え切らないので先に作業台に岩石地帯で手に入れたアイテムを──各種サンプルとして1つずつ──並べる。1番数が多いのは粗鉄あらてつ、次に水晶だ。粗鉄は精錬前の鉄のことだったはずなので、鉄鉱石の仲間みたいなものだろう。たぶん。

「粗鉄の精錬とか大変そうだよね」

「アカちゃん、粗鉄の精錬はスキルにあるから大丈夫だよ」

「え、そんなのまであるの?」

「わたしは覚えてないけど掲示板に書き込んでいる人が粗鉄を高温の火に投げ込んだら精錬を覚えたって書いてあったよ」

「「へぇ……」」

 もしかしたら最も情報のやり取りが盛んなのは加工系プレイヤーなのかもしれない。戦闘スキルに関する情報は誰もが隠そうとする傾向にあるらしい。僕も自分の戦闘スキルを拡散する気は全くない。戦闘とは関係のないスキルの情報は共有した方がメリットが大きい場合もあるので取捨選択して掲示板に書き込んでいる。

「宝石類はアクセサリに使うと付与できるスキルが増えるみたいです。水晶っていくつありますか?」

「1172個」

「え」

「1172個」

「兄さん、それどうするの?」

「えっと、組合で水晶を買うと1番サイズが小さいもので200Rはするみたいなので……あ、お兄さん、ゴーレムの素材があると言ってませんでしたか?」

「あるよ。暁、床に出すからどいて」

 ゴーレムの外殻と核をアイテム欄から取り出して床に置く。
 取り出した外殻は平均的な男子高校生くらいはある──僕より10㎝以上高い──人型の岩だ。ただし、取り出したそれの胴体には直結15㎝ほどの穴が空いている。核は重さも考慮すればピンポン玉というよりゴルフボールに近い球体だ。

「もし良かったら外殻で暁の盾や鎧を強化出来ないかな」

「え!?」

「ギルドで唯一の受けタンクだからね。イベントも近いし、装備も強化しておいた方がいいでしょ」

 その後、宝石類とゴーレム素材の3割をギルドメンバーの装備制作費と打ち消しということでクレアちゃんに譲渡することになった。クレアちゃんは自作した装備を売ってお金を稼いでいるので、そのための素材も必要だろうと余分に渡そうとしたら2人に見咎められてしまった。約30分もの交渉の末、これらを使って稼いだ金額の3割をクレアちゃんから受け取るという形で落ち着いた。

「さて、僕も施設借りてこようかな」

「え、お兄さん、一緒にやらないんですか!?」

「ここは人が入る分には4人くらいでも問題ないけれど、作業するなら2人でも少し手狭だと思うよ」

「そう……ですよね……今度は大きなところを借りますね!」

「そうだね。そうしたら一緒に作業しようか」

「はい!」

 そういうわけで僕は組合の受付まで戻ってきた。暁はまたクラスメイトと合流してレベリングをするそうだ。2人によると暁はクラスで唯一のタンクらしく、クラスメイトから勧誘が絶えないようだ。

「癒草の採集依頼の現状を確認させて下さい」

「もう全て済んでいるよ。ちょっと待っててくれ……………………ほら、癒草200束だ」

 3本で1束なので合計で600本の癒草を受け取った。
 相場より少し高めに金額設定したからだとは思うけれど、僕の予想以上に早く依頼が消化されたのは嬉しい誤算だ。

「ありがとうございます。ついでに加工施設を使わせて下さい」

 受付で鍵を受け取って加工施設に移動した僕はウーバーヒール・ポーションをスキルの自動作成を使って量産を始めた。まだ市場には出さないけれど、ポーションに消費期限はなさそうなので今のうちに量産しておこうと考えたのだ。それに状態異常にならない僕が大量消費すれば実質的な体力の最大値を数十万単位で伸ばすことだってできそうなので仮に売れ残ったとしても無駄にはならはいだろう。
 そういえば掲示板に書いてあったけど、ポーションは製作者によって味が変わるらしい。ポーションの味が気になった僕は1本飲んでみることにした。飲むのは最初に作った回復量の低いウーバーヒール・ポーションだ。

「……ゴクッ……ゴクッ……これ、抹茶かな?」

 抹茶というには少し甘い気がするけど嫌いな味ではない。
 ただ人によっては抹茶は嫌いだろうからトレード材料に出来るか少し不安になってきた。でも少し甘みもあるから抹茶が嫌いな人でも飲みやすいとは思う。

「やっば、時間!」

 本当はポーションを作った時に出来た茎や葉脈などの端材を何かに使えないか試すつもりだったが、受付で受け取った600本の癒草の葉脈を取り除く下準備とポーションの自動作成だけで2時間近く経過してしまった。下準備も自動で済ませると回復量が落ちるような気がして全て手作業でやったのが原因だ。

『夜11時過ぎたしログアウトするよ』

『え、もうそんな時間?』

『僕も今さっき確認して驚いたとこ。そういえばアカトキとクレアちゃんは?』

『あの2人なら少し前にログアウトしたわよ』

『ほんとだ、気がつかなかった。それと例のポーション、受付に出した依頼分の癒草を使って600本量産したよ。イベント始まったら周りの様子を見て売ろうて思う。相場どのくらいが妥当かな』

『変な規則に引っ掛かって罰則とかは嫌だし組合で確認しておいた方がいいかもしれないわね』

『明日、覚えてたら確認するよ。おやすみ』

『おやすみ』

 こうして僕のゲーム3日目は終了した。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

珍しく2000文字を切っています
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...