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本編

第64話 マヨイは腕を掴む。

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⚫︎マヨイ

 岩石地帯から北に10分ほど全力で進んだ。
 周囲を見渡すとプレイヤーの姿はない。

「ふぅ……ここまで来れば大丈夫かな」

 念のため探索スキルを使用すると僕から5mほど離れた場所に赤いマーカーがあった。それ以外にも無数の赤いマーカーが表示されている。しかし、マーカーが表示された場所にあるのは腰ほどの高さのある岩だけだ。

「また擬態かな。魔力弾」

 試しに少し大きめの球体に形状変化させた魔力弾を赤いマーカーが表示された場所にある岩へと放つ。岩は魔力弾によって粉砕されたが、その直後に粉砕された岩は忽然と姿を消した。アイテム欄を確認すると"ゴーレムの核"と"ゴーレムの外殻"というアイテムが増えていた。粉砕された岩が消えたのは岩がモンスターの擬態だったからだろう。


名前:ゴーレムの核
分類:素材
効果:自然発生したゴーレムの核
状態:破損(小破)


名前:ゴーレムの外殻
分類:素材
効果:自然発生したゴーレムの外殻
状態:破損(大破)


 自前のゴーレム軍団とか作れたら面白いかもしれないと思ったが、テイムで仲間に出来るモンスターの数には簡単に増やせないのを思い出した。掲示板に書いてあった内容にはテイムしたモンスターとの親密度が影響しているらしい。

「金策するにしても数は欲しいし徹底的に狩るか」

 こうして僕が近隣に点在しているゴーレムを全滅させる勢いでゴーレムを狩り始めてから体感で3時間近く経った頃、アイテム欄の容量が上限に届いてしまったためテコに戻ることにした。
 ちなみにアイテム欄は全部で50枠ある。それぞれのアイテム毎に上限は決まっているが、1つの枠内にまとめることができるので不便さは今のところない。問題があるとすればポーションは同じ名前であっても回復量が違うと別枠に保管しなければならないことだ。このことからも多少の品質劣化があるとはいえ、自動作成で作られたポーションは大量に持ち運ぶことが出来る点において手動作成したポーションよりも使いやすいと言える。
 僕はアイテムを組合で売却する前にクレアちゃんにいくつか素材を渡そうと考えてメニューからギルドチャットを開いた。

『テコに戻ってきたよ。クレアちゃんいるかな?』

『はい、います』

『ゴーレムとか宝石類とか色々と手に入れたから渡したいんだけど、いまどこにいる?』

『ちょうどテコの組合にいます。アカちゃんも一緒です』

『分かった。今から向かうね』


…………………………………


……………………………


………………………


 僕が組合のエントランスに入ると暁とクレアちゃんが2人の男性プレイヤーと話していた。

「だーかーらー、人を待ってるっていってるじゃない!」

「いやいや、そんなこと言っても誤魔化されないから」

「そうそう、それに俺たちは親切で言ってやってんだぜ?」

 どうやらナンパ、というかパーティの勧誘のようだ。
 MMOでは珍しくない光景だけど、原則として性別を偽れないVRMMOは旧来のMMOより出会い厨や直結厨は湧きやすい。そのためハラスメントに関しては随分と判定がシビアらしい。

「お待たせ」

「兄さん、おっそい!!おかげで変なのに絡まれちゃったじゃん」

「いや、変なのって……パーティの勧誘じゃないの?」

「おい、てめぇ、俺らが話してんだろ!割り込むなよ」

「あー、確かに変なのだね」

「でしょ?」

「んだと、てめぇ!」

 この手のプレイヤーはコミュケーション能力に難がある場合が多い。そもそもコミュニケーション能力に秀でていれば、わざわざゲームでナンパするのではなく現実でナンパするだけで足りるのだ。
 コミュケーション能力が欠落している猿未満の相手はするだけなので無視することにした。

「加工施設は借りてある?」

「待てよ、おい!」

「俺らが先に話してただろうが!」

「え、えっと…………まだです」

「なら借りてこようか。一緒に行く?」

「はい!」

「え、兄さんガン無視すんの?」

「時間の無駄。お前が録画してくれてるみたいだし、あとで通報に動画添付するだけでいいでしよ」

「あ、なら今やっちゃう」

 録画や通報という単語に敏感に反応した出会い厨(もしくは直結厨)の2人組が更に怒鳴り散らし始めた。この手のナンパに絡まれるのに慣れている暁はどうでもいいが、クレアちゃんは少し怖がっている様子だ。

「てめっ、離せ!」

「常時痛覚オフにしてるのか」

 ただ出会い厨の1人がメニューを開いて通報しようとした暁の腕を掴もうと伸ばした時、思わずその腕を掴んでしまった。それなりに力を入れているけれど痛覚設定をオフにしているらしく、なんの痛痒も感じていないようだ。
 僕や藍香の持論だけど、常に痛覚設定をオフにしているプレイヤーは危機感が欠落しやすい傾向にある。そういったプレイヤーは戦闘で優勢のうちは問題ないけれど、想定外の事態や劣勢になると途端にパニックを起こして使えなくなるのだ。ちなみに暁とクレアちゃんは痛覚設定をオンにしてプレイしているし、僕と藍香は言わずもがなだ。

「受理されたみたい」

「消えちゃいました」

「あれ、警告文が出るだけじゃなかったの?」

 藍香から聞いた話だけどハラスメント行為を受けて通報すると相手に警告文が届くらしい。しかし、彼らはプレイヤーがログアウトした時のように光の粒子となって消えてしまった。

「もう警告文が届いてたんじゃない?」

「警告文無視してナンパしてたのか……」


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

話がなかなか進みませんね。
テンプレのナンパ回を書いてみたい衝動に負けた私のせいですが次話でゲーム3日目の終わりまで進むといいなぁ……
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