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本編
第61話 マヨイは誘われる。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
テコの南門で藍香と別れた僕は組合で貰った変異種のリストを見ながら行動予定を立てていた。僕が倒したことのある変異種はアルテラ大森林の森大猪、アルテラ北部草原地帯の草原白蛇、テコ周辺の広い範囲を縄張りとする草原狼王の3種類だ。
これらを除いてテコ周辺で他に遭遇できる変異種は明らかに強そうな鋼王龍と猿王鬼と厄の3種を除くと、流星群が周回しているらしい草原大蛇、アルテラ大森林北部に生息する怪腕熊と地脈喰い、テコ北部山脈の宝石蜂の4種類だ。
「お金になりそうなのは宝石蜂だけど……」
このゲームで宝石と聞いて真っ先に思い浮かんだのは、僕が覚醒を獲得する鍵となった灰真珠の首飾りを購入したトリス雑貨店だ。あの店で売られていた装飾品に宝石が使われていたことから、この世界での宝石には単なる換金や鑑賞以外の用途があることが分かっている。
「でも蜂は嫌だなぁ……どうしよ」
僕は昆虫、特に羽虫の類が苦手だ。ただ、苦手とは言っても理性をかなぐり捨てるほどではない。無性に潰したくなる程度の嫌悪感を覚えるくらいだ。
そうして足を止めて悩んでいると前方からやってきたプレイヤーに声を掛けられた。
「そこの人……ちょっといいですか?」
「僕ですか?」
僕に声を掛けてきたプレイヤーの名前はシキ。
位階は19と比較的高め、公開されている素質は戦士と盾使い。盾使いの素質は初めて見たけれど、その名前から彼女のプレイスタイルは十中八九、タンク職だろう。
「はい。プレイヤーだよね?」
「そうですよ」
「実は組合で東の高原に出るらしいスケルトンの討伐依頼を受けたんだけど、私らのパーティは物理攻撃一辺倒でさ、魔術攻撃ができるプレイヤーを探してたんだ。もしよかったら一緒に狩りに行かない?」
「僕にメリットがないから遠慮しておくよ」
「シキ、誰か見つけたー?」
シキのパーティメンバーらしきプレイヤーが少し離れたところから声を掛けてきた。遠目でプロフィールは確認できないけれど、格闘家っぽいプレイヤーだ。この手のゲームのスケルトンは打撃攻撃には弱いイメージがあるので僕がいなくても問題ないだろう。
「断られちゃったー。もし機会があったら組んでね!」
[シキからフレンド申請が届きました]
ここで断るのも角が立つのでシキからの申請を受諾する。
彼女がログインしないようならフレンドリストから削除すれば良いだろうし、僕が言うのもなんだけどゲーム開始3日目で素質を変化させているプレイヤーは将来有望だと思う。
「ゴーレムかぁ……」
変異種のリストの中にはゴーレムらしき名前はない。
ただゴーレムといえば某大作RPG作品を代表に様々なファンタジー系作品に登場するモンスターの代表格だ。そして、それらの作品に登場するゴーレムの多くは鈍重な描写がされている。僕のプレイスタイルとの相性はいいはずだ。
「これ変異種じゃないモンスターのリストとか組合に売ってたりしないかな……あと地図とか」
藍香から貰った地図に描かれているのはアルテラ周辺だけだ。地図の北側はテコの街までしか描かれていない。藍香はこの地図をアルテラの組合で買ったと言っていたので、たぶんテコでも似たような地図が買えるはずだ。
僕は組合に戻って確認することにした。
…………………………………
……………………………
………………………
結論。普通に売ってた。
ブライトさんからは「持ってなかったのかよ」みたいな目で見られてしまったが2000R支払ってテコ周辺の地図とエイト領モンスターの分布リストという名の本を購入した。最初は藍香の分も買っておこうかと思ったのだけど、藍香に確認したら「私の分は買わなくていいわよ」と釘を刺されてしまった。
「ゴーレムって一口に言っても複数の種類がいるのか……」
リストにはゴーレムと名の付くモンスターが7種類も載っていた。変異種リストとは違ってモンスターの特徴もしっかりと描かれている。それによるとテコ北部山脈地帯の裾野にある岩石地帯に出現するストーン・ゴーレムには魔術と打撃攻撃が有効らしいが、同じ場所に出現するサンド・ゴーレムという砂で出来たゴーレムには打撃攻撃も含めて物理攻撃全般が通じないようだ。おそらくカノンが倒したかったのはサンド・ゴーレムだったんだろう。
山脈地帯には更にアイアンやゴールド、ジュエルやクリスタルと名のついたゴーレムもいる。その中でも僕が警戒しなくてはならないのは魔術攻撃を吸収するらしいクリスタル・ゴーレムと複数のゴーレムの特徴を持つアロイ・ゴーレムだ。前者は魔術攻撃を反射、後者は無効にするようなので、僕のメインウェポンである魔力弾が通用しないのだ。
そして全てのゴーレムに言えることだけど、倒した時のドロップ品を売却すればかなりの金額になる。1番格下であろうストーン・ゴーレムの核の買取額が500R、1番高いのはクリスタル・ゴーレムの10000Rだ。この情報は流星群も手に入れているだろうし、案外簡単に100万Rを用意するんじゃなかろうか。
「ボス素材より稼げそうだし、夕飯食べたらゴーレム狩りに行くか」
現在の時刻は午後4時を過ぎている。夕飯の支度を手伝うことを考えれば今から長時間の狩りは難しい。
僕は一度ログアウトすることにした。
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