VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第54話 マヨイは試行する。

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⚫︎マヨイ

 スキルの習得で少し寄り道してしまったけれど、組合の加工施設を借りた本来の目的は錬金術を試すためだ。掲示板には錬金術に関する情報はなかったので、調薬や調合で回復薬あるいはヒール・ポーションと呼ばれているアイテムを作るための素材を組合の窓口で前もって購入しておいた。まずは調薬スキルから試していこう。

「自動作成するより雑な手作業の方が回復量が多いって自動作成の意味あるのか……?」

 あるんだろうけれど、初めて作るのだから掲示板の情報を参考に手作業で作ってみることにした。

「葉脈を取り除いた癒草の葉と泥を綺麗に洗い流した癒草の根を布に包んで鉢の中で潰す……って、あれ?」

 この葉脈や癒草の使わなかった部分は混ぜると回復量が下がるらしく、掲示板にはゴミになると書いてあるけれど僕の目から見えるそれらはゴミではなかった。


名前:癒草の茎
分類:素材 植物
効果:癒草の茎の部分。
   抗呪作用を持っている。
状態:生草
性質:回復阻害(7)
   抗呪作用(3)


名前:癒草の葉脈
分類:素材 植物
効果:癒草の葉脈
   抗毒作用を持っている。
状態:生草
性質:回復阻害(7)
   抗毒作用(5)


 まぁ……これらは一旦無視して回復薬を作ろう。

「水分を絞りだしたら魔力を注ぐ?そもそも魔力なんて知覚もできな……ってあれ?」

 アバターの内部、現実の身体なら心臓のある部分に暖かい塊を感じる。その塊から微弱だけど血脈に沿って何かがアバターの内部を流れているのも分かる。これが魔力ってことでいいのか?


[技能:魔力感知を習得しました]
[技能:魔力感知は錬金術に統合されました]
[技能:探索に魔力探知が追加されました]
[技能:魔力操作を習得しました]
[技能:魔力操作は錬金術に統合されました]
[技能:魔力弾の基本威力が強化されました]


「いや、どうやって身体から出すんだよ」

 スキルを覚えられたのは嬉しいけれど魔力(?)を身体の外に出すことが出来ない。調薬スレッドに僕と同じような事に悩んでいる人たちがいた。どうやら出来る人と出来ない人がいるらしい。

「ん?これって……」

 参考になる情報がないか掲示板を読み返して気がついたのは、魔力を外に出せる人に裁縫や料理を習得しているプレイヤーが多いことだ。逆に魔力を外に出せない人の多くは刃物や針などを使わないプレイヤーばかりだ。
 ……もしかして出血が条件なんじゃなかろうか。

「針なんて持ってないから……痛覚設定をオフにして"猪突王の短剣"でいっか」

 指先を切る。すると先ほどまで全く外に出すことのできなかった魔力(?)を傷口から外に出すことが出来た。痛覚設定を元に戻した僕は魔力を放出する場所を変更出来ないのか少し試した。結果としては一度でも外に出せれば何処からでも出せるようになるようだ。

「絞り汁に外に出した魔力を注ぐ?分け与えるイメージでいいのか?……あ、できた」


名前:ヒール・ポーション(原液)
分類:薬品 ポーション
効果:ヒール・ポーションの原液
   希釈することでハイヒール・ポーションになる。
   限界まで魔力を込められている。
状態:原液
分量:47
性質:回復阻害(7)
   体力回復(40)


 掲示板によると原液は回復効果も高いけれど吐くほど凄不味いらしい。火にかけて灰汁を取ってから希釈することで口に出来るレベルになるようだ。
 試しに原液を人舐めしてみた。想像を絶するほどの不味さだ。
 良薬口に苦し、というけれど苦いとかそういう問題じゃない。

「それにしても、これってどういうことなんだ……?」

 僕はおかしな点に気がついた。
 掲示板にあるヒール・ポーションの原液の性質には回復阻害なんて項目はない。それに体力回復の項目も掲示板に出入りしているプレイヤーの中では25~35の範囲だ。灰汁をとって42というプレイヤーはいたが原液のままで40というのはなかった。更に掲示板を確認していくと茎や葉脈にあった抗呪作用や抗毒作用というのも見当たらない。
 そう不思議に思いながら灰汁を取り続けると原液から回復阻害の項目が消えた。灰汁と一緒に原液も少し取ってしまったからか体力回復の数値が39になっている。


名前:ヒール・ポーション(原液)
分類:薬品 ポーション
効果:ヒール・ポーションの原液
   希釈することでハイヒール・ポーションになる。
   限界まで魔力を込められている。
状態:原液(加熱)
分量:39
性質:体力回復(39)


「錬金術を持ってるから細かな性質が見えるとか?あとは水を足して希釈すれ……」

 そこまで口に出して僕は気がついてしまった。
 加工施設の水瓶から取り出した水にも状態と性質の項目があったのだ。そして錬金術は対象の性質を変化させるスキルだ。水を変化させた場合にどうなるのか試したくなった。


名前:水
分類:素材 食料
効果:そこそこ綺麗な水。
状態:生水
分量:100
性質:体力回復(4)


「錬金術……おお!?」

 案の定、性質の項目には体力回復や回復阻害、抗毒作用や抗呪作用といったものがあった。どうやら自分が確認したか触れたものの性質しか項目に表示されないようだ。今後は素材を手に入れたら積極的に確認するようにしよう。
 項目から体力回復を選択すると付与魔力量を選択する項目が現れた。水の場合は1~196まで付与できるらしい。この変数の幅は素材によって変化しそうだ。ちなみに1付与するのに魔力を100消費する。


名前:魔力水
分類:素材 食料
効果:錬金術によって性質を付与された水
   限界まで魔力を込められている。
状態:生水 魔力付与(196)
分量:100
性質:体力回復(200)


「は?」

 性質の体力回復の値が原液の5倍ってどういうことなんですかね?
 まぁ……それは後で色々と試してみるとして、とりあえず原液を魔力水で希釈する。調薬の仕様なのか分からないけれど、魔力水を注いでいる部分が若草色に発光している気がする。
 均一になるようかき混ぜたらヒール・ポーションの出来上がり……のはずだった。


名前:ウーバーヒール・ポーション
分類:薬品 錬金術 ポーション
効果:錬金術によって体力回復の性質を強化されたポーション。
   体力を最大値を超えて回復する。
   服用時[免疫:ポーション]の状態異常を受ける。
状態:新品
分量:139
性質:体力回復(7800)


「ん?んんん?んんんん????」

 ツッコミどころが多すぎる代物になってしまった。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

宵はレシピ通りに料理が作れない人間です。
初見からアレンジして失敗を繰り返すタイプですね。諦めが悪く成功するまで試すので残念ながら(?)メシマズ属性はありません。
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