VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第48話 アイは蹂躙する。

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⚫︎マヨイ

[技能:調理を獲得しました]
[技能:調薬を獲得しました]
[技能:調合を獲得しました]
[技能:加工の心得を獲得しました]
[技能:錬金術を獲得しました]
[技能:調理は錬金術に統合されました]
[技能:調薬は錬金術に統合されました]
[技能:調合は錬金術に統合されました]
[素質:魔術士は錬金術士に変化しました]
[称号:錬金術士見習いを獲得しました]
[称号:虹神の興味を獲得しました]

「え?」

 僕の頭は一瞬にして許容容量を超えた。
 配信中だぞ、これどうするだよ!?な状態である。

「どうしたの?」

「あっち、500mくらい行った先に1匹いるね」

「調理、覚えた?」

「覚えたよ」

「分かった」

 そう言ってオリオンさんは走り出した。
 慌てて僕らも追いかける。
 どうにか誤魔化せたかな。


【名無し:はやっ】
【名無し:聖術使えるってことはヒーラーだよな?】
【名無し:ヒーラーなのに単騎駆けww】
【名無し:同じパーティに料理や調理スキル持ちいれば食材ドロップするもんね。ショウが倒さなくてもいい】


「ちょっとオリオン!あなたヒーラーなら先行しないで!」

「ここら辺に脅威になりそうな敵はいないって判断かな」

 これで誤魔化せてなかったとしても、内容まで悟られることはしばらなくないだろう。もちろん、本当なら今すぐメニューを開いて確認したいところだけど、とりあえず戦闘には支障なさそうなので配信が終わるまで我慢した方が良さそうだ。

「ホーリーレイ」

 オリオンさんがホーリーレイを使用したのは敵との距離が30mを切った辺りだった。これがホーリーレイの射程なのか、オリオンさんが当てられる自信のある距離なのかは分からないけれど覚えておくとしよう。

「熊じゃなかった」

「もう……なんで"流星群"は戦闘狂のオリオンにヒーラーさせてるのかしら……」

 ホーリーレイが命中したのは鹿だった。
 僕が手を出していないにも関わらず鹿肉がドロップしている。コメント欄にあった通りだ。


【名無し:流星群は脳筋か戦闘狂しかいないからな】
【名無し:それでいいのかプロゲーマーww】
【名無し:FPS畑出身者ばっかだもんな】
【名無し:このパーティ戦闘狂しかおらん】


「そりゃ戦闘が好きか嫌いかって2択で聞かれたら答えは好きになるけど、僕は戦闘狂ってほど戦闘が好きなわけじゃないよ」

「「え」」


【名無し:え】
【名無し:それはないわー】
【名無し:んなわけないやろ】
【名無し:え】
【名無し:え】
【名無し:自覚ないだけでは】
【名無し:それはない】
【名無し:それは無理があるでしょう!?】


「いや、そんな『何言ってんだこいつ』みたいな目で見ないでよ」

「「何言ってんだこいつ」」

「口に出せって意味じゃないよ!?」

 藍香の場合は悪ノリだろうけど、オリオンさんは本当にそう思ってそうだ。もう無理にでも話を変えてしまおう。

「進行方向右側700mに3匹、左側480mに7匹いるね」

「右行く」

「なら私は左に行くわ。真宵、よろしく」

「ねぇ……パーティプレイって知ってる?ってもう走り出してるし!?」

 藍香からもお願いされたので僕はすぐさまオリオンさんを追いかけた。配信主である藍香から離れれば魔力弾を使ってもリスナーにはバレないし、なにより独断専行ばかりするパーティメンバーをいさめるというで魔力弾で試したかったこともできそうだ。




⚫︎アイ


【名無し:あれショウは追いかけてこないの?】
【名無し:万が一がある方に行ったってことだろ】
【名無し:浮気か?浮気なのか?】


「ご想像にお任せするわ……あれね」

 真宵が私を追いかけて来ないのは当然だ。私が真宵にオリオンを叱るようお願いしたのだ。それでも少しは寂しい気持ちはある。でも、それ以上に『藍香なら大丈夫』という変わらない信頼を嬉しく思うのも事実だ。
 ただ、真宵がやり過ぎないことだけが心配なのよね。
 思考を巡らしながら300mほど進んだ辺りでの敵を見つけることができた。


【名無し:ボス狼じゃねぇか!?】
【名無し:大きいのいるな】
【名無し:さすがに仲間待つか】
【名無し:森も行動範囲なのか】


「さて、私も真宵の信頼に応えなきゃね」

 ゲームとはいえ相手は狼だ。既に匂いで気づかれているんだろう。私を獲物だとボスを含めた狼たちが近づいてくる。様子を伺っていると群れから3匹が別々の方向に離れた。たぶん後ろに回り込むつもりなんだろう。

「馬鹿ね、せっかくの群れを分けたら各個撃破してと言ってるようなものじゃない」

 分かれた1匹に突っ込む。こちらを察して威嚇いかくしてきたけれど口に槍の穂先を突き刺して串刺しにして持ち上げる。隙だと判断して接近してきた個体に向かって力任せに振り下ろす。これで2匹撃破だ。
 ちなみに本当なら"緋の衣"が私のアバターを覆うのだけど、この手の効果は相手に悟られない方が色々と便利だから視覚効果だけオフにしてある。

「あと5匹」

 串刺しにした狼を足で抑えて槍を引き抜く。
 分かれていた1匹は遠巻きに私を威嚇しているし、ボスを含めた4匹は私に向かって接近中だ。もうボスとの距離は20mもない。

「挑発」

 わざわざ接近してくれたボスに向かって挑発スキルを使う。本来は敵のヘイトを自分に向けて味方を守るためのスキルのはずだけど、私は相手の足止めにしか使ってない気がする。まぁ……本来の用途以外でスキルを使うのはMMOでは稀にあることだ。気にしても仕方ないわね。

「やぁっ!」

 最初の狼と同じようにボスも串刺しにする。
 持ち上げようとすれば至近距離にいる取り巻きに対応できないので槍を手放して狼の顎下を蹴り上げる。
 これでボス狼の体力は尽きた。あとは取り巻きたけだ。
 徒手空拳武器なしの戦闘は久しぶりだけど勘は鈍ってはいなかったらしい。決して取り囲まれることがないよう立ち回りながら1匹づつ確実に撃破していく。

「ふぅ……これで終わりね」

 ポリゴンとなって消えたボスに刺さっていた槍が地面に落ちるのを拾う。ありがたいことに血はついていない。


[Grass King wolfを1匹倒した]
[素材:草原狼王の魔石を獲得した]
[素材:草原狼王の毛皮を2個獲得した]
[装備:草原狼王なりきりセットを獲得した]
[称号:草原狼王の討伐者]


 目当ての装備は手に入って大満足の結果に終わった。
 索敵スキルを使うと真宵たちは既に私のところへ向かっているようだ。


【名無し:なんだ、さっきの音】
【名無し:グラップラーアイちゃん】
【名無し:つっよ】
【名無し:筋力どんだけあるんだ……】


「音?」


【名無し:戦闘中、なんかドーンって音してたぞ】
【名無し:気がついてなかったのか】
【名無し:まさに蹂躙って感じだったな】


 たぶんオリオンのホーリーレイが木々を薙ぎ払ったか、真宵がまた伐採でもしたんだろう。あの2人は環境に優しくないと思う。
 しばらく待っていると真宵とオリオンがやって来た。
 真宵には変わった様子はないけれど、オリオンは少し挙動不審だ。ちょっと怒られた、というところだろう。

「こっちは熊の手が2個ドロップしたよ」

「私は草原狼王なりきりセットが出たわ」

 こうも欲しいものが簡単に出てしまうと後が怖い。
 ただ僥倖であることも事実だ。

「それじゃテコまで行こうか」

「そうね。あ、そういえばリスナーさんが大きな音を耳にしたみたいなんだけど何が原因か分かる?」

「…………わかる」

「さっきホーリーレイを見せてもらったからね。お返しに僕のとっておきを小ネタを披露したんだ」

 嘘だ。真宵のことだからオリオンの心を折るような事をしたに違いない。その小技っていうのも大概とんでもないものな気がする。

「アイ、決めた。私、今よりもっと強くなる」

 ほら、やっぱり。オリオンが悲壮感すら漂う決意の表情を浮かべて……るかはVRアバターだから判別が付かないけど、声色はまさにそんな感じだ。あとで何をしでかしたのかオリオンから聞き出しておかないと。


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お読みいただきありがとうございます。
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