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本編

第46話 マヨイは胸を撫で下ろす。

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⚫︎マヨイ

 現在、僕らは配信を続けながらソプラの街の北門を出てテコを目指して北上している。急いでないのだからアルテラ経由でもいいと思うけど藍香たちはショートカットする気満々だ。

 訓練場から出た僕らは組合のエントランスでチャラ王との決闘から始まる一連の出来事を見ていたプレイヤーやNPCたちから歓迎された。
 正直、僕は訓練場から組合のエントランスに戻ったところで罵声を浴びせられるのを覚悟していた。しかし、プレイヤーからの反応は予想とは真逆で「よくやった」とか「ありがとう」といった言葉が多く柄にもなく胸を撫で下ろした。

「あれがソプラ壊滅の元凶だったなんてね……」

「他に仲間がいたらしいけど彼が主犯だったみたいね」


【名無し:領主から褒められたもんな……】
【名無し:アンチ少なかったのは意外】
【名無し:棚からぼたもち】
【名無し:何人か睨んでたけど絡んでは来なかったな】


 もちろん中には「やりすぎ」とか「あそこまでする必要はなかった」という声を上げたプレイヤーもいた。だから領主っぽいNPCからの褒賞は辞退した。本音を言えば欲しかったけど、鬱憤を抱えている人の目の前で受け取るとトラブルになりそうだしね。

「似顔絵、貼ってあった」

「ソプラの組合の出入り口に貼ってあった似顔絵ね。あれが彼がワイバーンを刺激した時の仲間らしいわ」

「なんで似顔絵?」

「スクショしたプレイヤーが絵画スキルでスクショに映ったプレイヤーたちを模写したって言ってたわよ」

「犯罪者プレイヤーじゃないのに指名手配?」

「指名手配じゃないわ。単にプレイヤーからの捜索依頼だったみたいね。ちなみに指名手配するためには領都りょうとエイトって街に人を送って承認される必要があるみたいね。指名手配されると懸賞金が掛けられるそうよ」

「そんな情報どこから手に入れたの?」

「アルテラの組合で聞けるわよ。もしかしたら領都まで使いを出さなくてもよくなるかもしれないとも言っていたわ」


【名無し:指名手配は行政手続きが必要なのか】
【名無し:変なところでリアルだよな】
【名無し:よく顔出せたな、とは思う】
【名無し:街だと基本的にPKされないからな】
【名無し:殴りたくても殴ったら犯罪者か】


 つまり彼は自分がいつ指名手配されるか分からない状況なのに僕らに絡んできたのか。自己陶酔が激しかったし、たぶん自分が何を引き起こしたのか理解していなかったんだろう。
 それにしても無抵抗──正しくは"戦闘態勢にない状態"──の相手を攻撃したら即座に犯罪者として認定されるのに、街までワイバーンをトレインしたプレイヤーは指名手配されないと犯罪者にならないのは不思議だな。

「狼のボス、探したい」

「来る時は戦闘を避けたものね。特に急いでるわけじゃないし私は構わないわよ」

「さっきも言ったけど装備スキルの性能はデメリット考えると微妙だよ?」

「んっと、私、状態異常効かないから大丈夫」


【名無し:状態異常無効!?】
【名無し:ショウも似たようなの持ってるらしいけどサービス開始3日目だぞ?】
【名無し:生き急ぎ過ぎ】
【名無し:入手方法が知りたい】


 状態異常が効かない、ということは"灰神の寵愛"かそれに匹敵するスキルや称号を持っているということだ。知っていればどうにかなるという類の情報ではないけど、だからといって吹聴するような情報じゃない。

「ごめんなさい。入手方法、分からない」

「偶然ってこと?」

「覚醒した時」

「覚醒した時に手に入れた称号かスキルの効果ね?」

「うん」

 僕が"灰神の寵愛"を手に入れたの同じタイミングだ。
 ひょっとして……オリオンさんの覚醒先は僕と同じ灰神の使徒なのだろうか。だとしたら手の内がバレるという点で少しマズい気がする。でもステータス関係を聞くのはマナー違反だからなぁ……今は気にしないでおこう。

「なら僕と同じで"狂狼化"をデメリットなしで使えるね。そりゃ欲しくもなる」

「でも魔力を常に消費するんでしょ?オリオンはヒーラーなのにそれでいいの?」

「う」

「あー、アイ。実は魔力の消費量そこまで高くないんだよ。修正されるだろうけど僕みたいに自然回復量の方が多いと発動しっぱなしでも問題ないよ」

「「え」」


【名無し:強すぎ】
【名無し:そういやずっと耳生やしたまんまか】
【名無し:ずっとステータス倍みたいなもんか】


 まぁ……僕としては"灰神の寵愛"とのシナジー強すぎるから下方修正されると思ってるけどね。デメリットもなしにステータスが倍以上になるのは他のプレイヤーに対して優位過ぎる。

「……それは強すぎるわよ。どのくらい減るの?」

「毎秒10だけだよ。魔力の自然回復量が毎秒1%だから魔力が1000以上あれば回復が上回る計算になるね」

「問題ない、1000以上ある」

「でも手軽にステータス倍にするなんてバランス崩壊待ったなしだから下方修正されると思うよ?」


【名無し:いい笑顔】
【名無し:魔力1000以上って覚醒してるの?】
【名無し:さらっと、とんでもないこと言ったよな】
【名無し:まぁ……修正はされるよな】
【名無し:実際、ステータス倍はやべぇ】


「狼さんに私はなる!」

「あー、これね。私も習得可能スキルに状態異常無効があったわ。これで"封魔"と"狂乱"をしてすればいいのね。でも習得コストに経験値が指定されてるのが難点ね……どうしようかしら」

「何それ、知らない」

 そんなスキルあったの?
 オリオンさんが状態異常を無効にするスキルの存在を知って驚いている。これが演技でなければ彼女の言う「状態異常が効かない」というのは称号の効果だろう。
 そんなバランスを崩壊させかねない称号が複数種類あるとは思えない。十中八九、僕と同じ"灰神の寵愛"を持っているんだろう。そうなるとスキルも想像がつく。
 まぁ……"灰の神威"を持っている可能性があることが分かっただけ良かった。この場はポーカーフェイスで誤魔化しながら習得可能スキルを確認しておこう。


名前:状態異常無効(指定)
分類:常時発動 耐性
効果:指定した状態異常を無効にする耐性を獲得する。このスキルは複数回習得することができる。また指定できる状態異常は自身が受けた事のあるものに限る。
条件:覚醒1達成
消費:習得毎に累計獲得経験値1000消費


 見つけた。僕には必要ないスキルだけど強いスキルだ。
 このゲームに何種類の状態異常があるかは分からないけど、状態異常攻撃がメインの相手はどんなMMOでも嫌われる面倒な敵だ。初見の状態異常には無力なのは仕方ないとしても、それらに対する対策としてこれ以上のものは無いだろう。
 ちなみに今更だけどスキルの習得リストに表示されているものには習得にコストを消費するものとそうでないものがある。コストを消費するスキルの方が汎用性が高い傾向にあるが大抵は数値の低い固定値(10~100)なので気軽に習得てまきる。そして状態異常を無効にするスキルは汎用性が高いからか消費する経験値が1000と割高になっていた。

「あ、リスナーさんにも見せるよ。……はい」


【名無し:つよっ】
【名無し:習得コストあるスキルだいたい強いよな】
【名無し:覚醒必須かー】
【名無し:位階下がるのかな?】
【名無し:消費経験値多すぎw】


「今の累計獲得経験値って私たちからは見えないのよね。位階下がったりするのかしら」

「たぶん、お得」

 このスキルを習得する上で問題なのは無効にしたい状態異常を1度は受けないとならない点だ。"狂乱"を受けて制御不能になった覚醒持ちのプレイヤーを止める最も簡単な方法は倒してしまうことだろう。ただ"狂乱"を受けているということは"草原狼王なりきりセット"を装備している──ステータスが倍近く上昇している──ということだ。言うほど簡単なことじゃないだろう。

「皮算用はひとまず置いといてボスを探すためにもアルテラ大森林を突っ切ろうか」

「うん」

「そうね」

 目標が決まったことで明らかに移動速度を上げた藍香とオリオンさんに合わせるよう僕も置いてかれないよう足の動きを早めた。それにしても2人はそんなに耳と尻尾が欲しいのだろうか。


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お読みいただきありがとうございます。

配信シーンはリスナーのコメントを挟むせいで地の文が描きにくいですね。思ったよりも話の進行が緩やかになってしまいました。
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