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本編
第43話 アイは実況する。
しおりを挟む⚫︎アイ
私は真宵がチャラ王と決闘することが決まった時、このままでは真宵が悪者にされてしまうのではないかと危惧した私は決闘の様子と経緯を生配信することで予防しようと考えた。
チャラ王が装備を取りにいくということで時間的にも余裕ができたし、今なら決闘が開始される前に事情を話すくらいはできるはずだ。
不本意な復帰配信だけど、ここは頑張りどころよね。
「あー、あー、てす、てす、2年と半年振りの配信だなら緊張するね。アイ&ショウのアイです」
【名無し:え、本物?】
【名無し:アイ&ショウ?】
【名無し:もしかして生配信?】
「生配信よ。実はショウと"Continued in Legend"っていうVRMMOで遊んでいるんだけど、ちょうどショウが迷惑プレイヤーを処刑するみたいだからリスナーの皆んなと一緒に見たくなっちゃったのよ」
【名無し:唐突すぎるww】
【名無し:復帰早々に処刑配信は草】
【名無し:俺もCiLやってる】
【名無し:迷惑プレイヤー何やったのさ】
「えっとね、ショウはCiLでマヨイっていうプレイヤー名で遊んでるんだけど、ゲーム内の掲示板に名前と位階、ようするにレベルのことね。それを晒されちゃったのよ」
【名無し:晒しはよくないな】
【名無し:暴力は全てを解決する!】
【名無し:適当にボコして終わりだろ】
【名無し:余罪次第やろな】
確かにそうなる可能性は高い。
あ、あれを真宵に言ってなかった。
「真宵、思い出したことがあるんだけど、ちょっといい?」
『いいよ、なんでか知らないけど決闘相手が来ないし』
【名無し:チャットしてる?】
【名無し:これは燃料投下の気配】
【名無し:ショウの声が聞こえないのは残念】
「なんか修理中の武器を取りに行ったみたいよ。あとチャラ王ってプレイヤーの顔を見て思い出したんだけど、私も初日に絡まれたのよね」
【名無し:は?】
【名無し:これはアカン気配】
【名無し:トラウマ作成タイム?】
【名無し:そこまではいかんやろ、たぶん】
【名無し:火に油を注ぐなw】
『絡まれたって何をされたの?ナンパ?』
『ナンパしてきた彼にハラスメント行為を受けただけよ』
【名無し:アウト】
【名無し:終わった……】
【名無し:相手は強いの?】
【名無し:現地にいるけど相手は最前線のプレイヤー】
【名無し:ショウは?】
【名無し:決闘する時点で勝算あるんじゃない?】
『……それ、このタイミングで僕に教えた意図は?』
「ハラスメントの仕返し、まだしてないから真宵にお願いしようと思って」
『任されましたよ、お姫様』
「もぅ……私はオリオンと一緒に見てるからね」
『りょーかい』
【名無し:オリオンて流星群の?】
【名無し:あれだけ揉めたのに一緒にいるのか】
【名無し:それより照れ顔アイちゃん可愛い】
【名無し:何を言われたし】
「え、えっと、真宵がね、私のこと、お姫様って……」
「惚気乙」
【名無し:どなた?】
【名無し:開口一番で惚気乙は笑う】
【名無し:ほんとに流星群のオリオンじゃん】
【名無し:可愛い】
「やった。褒められた」
「もう気づいてる人もいるけど彼女は"流星群"のオリオン、実は例の配信の後に友達になったのよ」
【名無し:オリオンちゃんかわわ】
【名無し:へぇー】
【名無し:前のオリオンはどうなったの?】
【名無し:社会的に死んだ】
「ショ……マヨイからフレンドコール来た」
「え、なんで!?」
決闘の開始まで時間はそんなにないはず。
それなのにオリオンにフレンドコールするなんて何があったのか。オリオンは私と違ってフレンドコールを周りに聞こえないようにしているらしく会話の内容は分からない。
オリオンが微笑むなんて何を言われたんだろう。
「伝言『アイのことだから配信すると思う。もし配信するならリスナーさんに僕の計画を話して。たぶん、その方が面白い』だって。話していい?」
「う……分かった」
私は真宵の計画を知らない。知っているのは真宵本人と彼から聞いたであろうオリオンだけだ。そうなると説明は自然とオリオンがすることになる。
私にも教えて……あ、もしかして真宵は配信するのはこれからだと思ってたのかも。オリオンが説明するのを頑張って通訳しないと……
【名無し:嫌な予感しかしない】
【名無し:奇遇だな俺もだ】
【名無し:想像の斜め上の事態になるに1票】
「決闘、"重体"が原因」
【名無し:渋滞?】
【名無し:圧縮言語すぎぃ】
【名無し:アイちゃんお願い】
「私から説明するわ。まず決闘の発端は──」
…………………………………
……………………………
………………………
「カウントダウン中、治療する」
「つまり迷惑プレイヤー視点だとカウントダウンが0になった時点で助けたいNPCは死ぬけれど、実際はオリオンが治療するのね」
「うん」
「ということみたい。やっぱ真宵は優しいわね」
「うん、マヨイはツンデレ」
【名無し:ツンデレ?】
【名無し:アイちゃんにはデレデレだろ】
【名無し:全てのツンは敵に向かうからツンデレ】
【名無し:通訳お疲れ様】
「あ、始まった」
「そうね、大剣の二刀流なんて……って投げた!?」
【名無し:大剣の二刀流()】
【名無し:回避したとこに攻撃か】
【名無し:避けた!】
【名無し:スプラッタ!?】
「ダメージを与えられない武器を使うってマヨイは言ってたのよね?」
「うん」
「右腕斬り飛ばしちゃったわよ?」
「でもダメージはない」
【名無し:犬耳と尻尾!?】
【名無し:左腕も逝ったぁ】
【名無し:え、どこ?】
【名無し:CiLに獣人なんてあるの?】
「公開する許可を真宵から貰ってないから詳しくは言えないけど耳と尻尾を生やす方法はあるわよ」
「かわいい、あとでモフる」
「ダメよ、私が先」
「一緒に」
「……それで手を打ちましょう」
【名無し:美少女2人にモフられるとか】
【名無し:残った右脚も切断するのか】
【名無し:もう拷問だよな】
【名無し:首裂いたぁぁ!?】
「首を切っても死なないのね」
「普通に喋れてるみたい」
「バグかしら」
「仕様の穴、かも」
【名無し:見た目はホラー】
【名無し:スプラッタ映画のワンシーンだよな】
【名無し:これでダメージないのはおかしい】
【名無し:運営に報告した方がいいかも】
「そうね、この配信が終わったら報告しておくわ」
「あ、カウントダウン始まったから治療してくるね」
「いってらっしゃい」
【名無し:1500って長いな】
【名無し:なんで距離を取ったんだ?】
【名無し:いってらー】
【名無し:わからん】
「喋れるってことは魔術が使える可能性があるのよ。だから魔術を使った不意打ちを避けるために距離を取ったんだと思うわ」
真宵は喋らなくても魔術が使えるから余計に警戒しているのかもしれないわね。
【名無し:頭打ち付けてるのはなんで?】
【名無し:自殺したいんだろ?】
【名無し:でもダメージ受けてないよな】
【名無し:CiLは自傷ダメないの?】
「あるわよ、でも何で頭をあんな強く打ち付けてダメージがないのかしら」
「訓練場だと自傷ダメージは無効」
「おかえり。上手くいった?」
「ばっちし。もう決闘する意味ない」
【名無し:すごい吼えてるな】
【名無し:ここから彼にチャンスはないの?】
【名無し:両手両脚なしでどう勝てと?】
【名無し:魔術は?】
【名無し:使えないっぽいな】
「ここまで何も魔術スキルを使ってこないってことはそういうことなんでしょうね」
「ん、物理一辺倒の脳筋スタイル」
【名無し:ならいっそ殺してやってやw】
【名無し:トラウマものだよ】
【名無し:そう考えると過剰反応だよな】
【名無し:いつものことでは?】
「さて、少し暇になったから彼から迷惑を掛けられた私たち以外の事例を紹介していくわね」
こうして掲示板に書き込まれたチャラ王の所業を一通り説明した頃にはカウントダウンは残り50を切ろうとしていた。この頃になると絶望感が焦燥感を上回り始めたらしく、支離滅裂な非難を多く口に出すようになって聞くに堪えない。
そして自業自得だと指摘され、最後のテンカウントの途中でチャラ王は忽然と姿を消す。タイミング的に強制ログアウトかな。
【名無し:なんで消えた?】
【名無し:心拍数の異常でログアウトだと思うぞ】
【名無し:これ助けたかったNPCが死んだと思ってるんだろ?ログインしたら死んだと思ってるNPCが生きてたら無力感でどうにかなるんじゃ……】
「ただいま、やっぱり配信してる?」
「おつかれさま!配信してるわよ」
雑談しながら帰り道も配信しましょうか。
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