上 下
51 / 228
本編

第36話 マヨイはソプラの現状を聞く。

しおりを挟む

[動画被写体通知:許可/不許可]

 軽い運動を済ませた僕が藍香と合流するために再び移動を開始してすぐに"動画被写体通知"というのが来た。これはメニューの設定から操作できる項目の1つで、僕がうつっている動画や写真を掲示板に載せようとしたり、外部出力しようとした人がいた際に届く通知だ。
 許可しなければ投稿や外部出力は不可能になる仕組みだ。

「あー、動画撮られてたのか……ま、隠したいとこは隠せたし大丈夫でしょ」

 少し悩んだけど僕は許可することにした。
 どうせいつかはバレるし、本当に隠したいのは僕のステータス──特に神様関係のスキル──だ。その隠れ蓑としてわざと狂狼化を使ったわけだけど、これは狼のボスが安定して倒されるようになれば簡単にバレる情報だから隠す意味合いは薄い。

「あれ流星群の人たちかな」

 アルテラまで残り3分の2というところまで進んだ頃、遠目に見覚えのあるアバターが集まっていた。まだここにいるということは僕からの情報を元にボスを狩ろうとしているのだろうか。

「おはようございます」

「タイミングばっちり」

「おはよう、マヨイくん。この後は何か予定があったりするだろうか」

「はい、アイと合流する予定です。どうしましたか?」

「どこから説明すればいいだろうか……マヨイくんはソプラで今朝未明に起きた事件について聞いているかな?」

「掲示板に書かれている断片的なものしか知らないです」

「そうか実は────」

 シブンギさんの話を整理すると、今日の午前3時頃にソプラがワイバーンに襲われたことで街に大きな被害が出たそうだ。その原因がプレイヤーによるトレイン行為ということでソプラの復興作業をしていたプレイヤーは怒り心頭らしい。

「さらに問題なのがワイバーンに襲われたソプラの住民、ようするにNPCだね。幸い死者はいないが10名ほどの住民が"重症"というバッドステータスを受けているらしい」

「"重症"って初めて聞くんですけど」

 バッドステータス、つまり状態異常のことだ。
 ヘルプから調べられる範囲には"重症"という状態異常はない。

「余命6時間」

「は?」

「"重症"を受けると余命のカウントダウンが表示されるらしくてね。カウントが0になると"重症"を受けたNPCは全員死ぬそうだ」

「余命が見えるとか、悪辣すぎませんか?」

「即死しないだけ温情?」

 死ぬのが確定的な状態でも助かる可能性があるのを温情というなら確かにそうかもしれないけれど、街のNPCと交流が深かったプレイヤーからすれば最悪に近いんじゃないかな。

「カウントダウンは既に2時間を切っていているんだが、その"重症"を回復させられるには聖術で"欠損回復"の能力を解放しなければならなくてね。今からではまず間に合わない」

「既に解放済みの人は?」

「分かるってるのはオリオンとヒーラーというプレイヤーだけなんだ。他にもいると思うけどね」

「ならオリオンさんが行けば問題ないんじゃ」

「アルテラに戻ってからだと間に合わない」

「既にカウントダウンは2時間を切っているんだ。私たちも状況を知ったのは10分くらい前でね」

「アルテラからソプラって何分くらいなんですか?」

 ここからアルテラまで約30分だとすればアルテラからソプラまで1時間20分くらいなら間に合うはずだ。

「ふむ、アルテラ大森林があるから正確な時間は分からないが……」

「アルテラ大森林でモンスターを倒しながらだと2時間近く掛かるぜ。無視して進めばMPK同然だしよ、せっかく悪評から立ち直った俺たちにゃ無理な手段だ」

 地図のようなものを広げながら口を挟んできたのはペルセウスさんだ。中性的な高身長のアバターなので性別の判断はつかないけど、ただ喋り方からして男性の可能性が高そうだ。
 僕らとトラブルがあった時のペルセウスさんは女性だったので、もしかしたら代替りしたのかもしれない。あとで"流星群"のサイトで確認しておこう。

「ここから直接ソプラへ行けばどのくらい?」

「距離だけなら……そうだな、ここからテコまでと大差ねぇくらいのはずだ。ただ道中で狼型のボスと熊型のボスのいるところを突っ切らなきゃならねぇ。ノンアクの熊ならともかく、アクティブの狼との戦闘は不可避だ」

「熊も4人以上のパーティで近くと襲って来るようですから"流星群"のメンバーで集団行動すれば戦闘回避は無理でしょう」

「そういえばヒーラーといつプレイヤーはログインしてないんですか?」

「それがね……現地にいるプレイヤーの1人とヒーラーくんの間でトラブルがあったらしくてね、とてもじゃないが協力してくれと言える状況にないらしい」

 それは後でヒーラーさんという方が非難されるんじゃなかろうか。僕からすればNPCは個性という特徴を持たされたデータだ。そうと分かっていても感情移入してしまうのだけど、それは小説の登場人物に感情移入するのと同じようなものだと思っている。

「まよいー!」

「あ、アイが来たので僕はこれで」

 そう言ってこの場を離れようとした僕の腕をオリオンが掴む。

「待って。私にいい考えがある」


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

距離設定の誤りを修正しました(2020/12/1)
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...