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本編
閑話-5 アイは徹夜する。
しおりを挟む私がログインして向かったのはアルテラ大森林だ。
目的はエリアボスの撃破とレベリング、掲示板を流し読みすると有志を募る書き込みを見つけた。最終的に30人近くで挑むことになったようだ。
「見つけた、やっぱり戦闘中か」
掲示板には勝ったとも負けたとも書かれていないことから今も戦闘中である可能性は考慮していた。近づくと私以外にも何人か野次馬がいるようだ。
「ん、お姉さんも野次馬?」
すると野次馬の1人が話し掛けてきた。
プレイヤー名は"社員〼カット"というらしい。位階や素質に関しては非公開にしているようだが、その装備から前に出て戦うようには見えない。
「いいえ、あのモンスターと戦いに来たのよ」
「そりゃ無茶ってもんでしょ。さっき分かったばかりだけどエリアボスは覚醒持ちだってよ」
「ステータスも分かってたりするの?」
「筋力、耐久.敏捷が200超えだってよ」
「あら、それしかないなら余裕ね」
「え、お姉さん、それって……覚醒してるってこと?」
「ええ、ステータスも平均300超えてるわよ」
私の体力と魔力を除いたステータスの平均は911なので嘘ではない。エリアボスよりステータスが高いという事実さえ伝わればいいのだから構わない。
「つっよ……覚醒ってどうやったらできるの?」
「言えないわ」
いくら真宵から許可を貰っていても初対面の相手に簡単に教えてあげるのはやめておきたい。なんか口が軽そうだし、花奏に教えたのは"流星群"が──というか腹黒シブンギが──覚醒方法を秘匿すると考えたからだ。
「あ、タンクが死んだ。こりゃ戦線崩壊したな」
「ここから立て直しは……回復役も倒れたようだから無理でしょうね」
「最後まで戦う姿勢は素直に尊敬するなぁ」
確かに今のタイミングで逃げ出せば囲むようにしてエリアボスと彼らとの戦闘を眺めていた野次馬たち、その内の誰かがMPKの被害に遭ったでしょう。
「うっわぁ……漁夫の利狙いか」
「でもダメね。ボスの体力が凄い勢いで回復してる」
「お、あれって配信者のミライか」
知っている顔がエリアボスに向かっていく。
あ、不用意に突っ込んだ剣士風の男が死んだ。出落ちにしても少し早すぎないかしら。
「彼女たちが全滅したら行こうかしら」
「あ、戦闘の様子をスクショしてもいいか?」
「情報保護にチェック入れてあるから、しっかり撮れるかどうか分からないわよ」
このゲーム、プレイヤーのプライバシーの保護に関しては随分と親切な設計になっていて、メニューから操作できる設定の中には情報保護という項目がある。これにチェックを入れると写真を撮られても本人特定が困難になるようになるらしい。モザイクが入るのか、ぼかしが入るのか、そこら辺は書いてない。
「そりゃ覚醒してりゃ目立つもんな」
「あ、そろそろミライたちが死ぬわね」
「あのままだとトレインしそうだな」
「大丈夫よ、MPKにはならないわ」
「なんでだ?」
「ミライは金属鎧のペナルティで足が遅いのよ。取り巻きは彼女を庇って死んでくから、ある意味でMPKしてるようなものだけど。よし、ミライも死んだし行ってくるわ」
良いところなく死んだミライたちのアバターが消えるのを待たずに飛び出す。社員〼カット以外の野次馬が何やら私に向かって色々と言っているが気にする必要はないわね。
野次馬の声に反応したわけではないでしょうけど、エリアボスが私に対して身構えたように見える。今にも飛び掛かってきそうだ。
「挑発!」
エリアボスのステータスは私からすれば完全に格下である。そのおかげなのか"恐怖"の状態異常を与えることができた。"恐怖"の状態異常になったエリアボスは動けない。
ただし、いつ状態異常から回復するかは分からないから油断禁物だ。きっと状態異常から回復すれば暴れ回るに違いないわ。
「やぁっ!」
私は急所を狙うという選択肢もあったけど、先に前脚を攻撃した。何故なら先ほどまでの2組の戦闘を観察したかぎり、エリアボスの最大の強みは強烈な突進攻撃にあるからだ。"恐怖"から回復して暴れられる前に強みを奪ってしまいたい。
「──フシュゥ……フシュゥ……」
足に槍の突きを受けたボスは思うように動けず転んでしまった。立ちあがろうと産まれたての子鹿のようにもがいている姿は哀愁を誘う。
「ん、あぁ……これが緋の衣かしら」
ダメージを与えたからだろう。私の身体と槍を緋色のオーラのようなもが包み込んでいる。これは遠目から見ても目立ちそうだ。
「フゴォ……」
[Forest Big Boarを倒した]
[素材:森大猪の魔石を獲得した]
[素材:森大猪の大牙を2個獲得した]
[素材:森大猪の硬皮を2個獲得した]
[素材:森大猪の背苔を獲得した]
[称号:森大猪の討伐者]
「あら、もう終わりなのね」
まともに動けないボスを槍で数回突いたら倒せてしまった。これなら足を無力化する必要はなかったかもしれないわね。やっぱりステータス差がありすぎて戦術が意味をなさないというのは虚しさが残る。
「おめでとう。やっぱすげぇな!」
「ありがとう。それじゃ」
この数分後、社員〼カットが撮ったらしい私とボスとの戦闘の写真が掲示板に貼られていた。掲示板に載せることまでは許してないので、普通に考えれば通報一択だ。
しかし、覚醒を持っているプレイヤーが1人じゃないという事が広まる切掛になりそうなので今回は黙認することにした。
「真宵、レベリングどのくらい進んでるのかしら」
今の上位勢が20前後だとするなら17~18くらいと考えるのが妥当だけど、多めに見積って25くらいを目標にレベリングをしよう。
こうして翌朝までアルテラ大森林でボスや熊、食人花など他のプレイヤーが挑もうとしないモンスターをメインに狩り続けた私は気がついたら位階を27まで上げることが出来ていた。
「ログアウトっと」
お風呂に入って2時間寝たら真宵とパーティ組むんだ!
おやすみなさい。
───────────────
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