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本編

閑話-3 夏間藍香は電話する。

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⚫︎夏間藍香

 今の時間は夜の9時過ぎ。既に夕ご飯を食べ終え、宿題を始めてから2時間が経った。ゲームでなら早々尽きることのない私の集中力も勉強、特に大嫌いな古文ともなると長続きしないようでそろそろ限界が近い。
 真宵から電話が掛かってきたのはそんなタイミングだった。

「もしもし、真宵?」

『こんばんは、今日"Continued in Legend"やったよ』

「知ってるわよ。一緒にやろうと思ったのに先にログインしちゃうなんて……明日は一緒にできる?」

『ごめん、それなんだけど僕まだレベリングしてないんだよね、だから合流するの少し待ってもらえないかな』

 それは変だ。真宵のことだからアバターの動作確認も兼ねて適当なモンスターに挑もうとするはず。そして真宵のプレイヤースキルなら早々に死ぬ事もないだろうし、多少はレベルが上がっているはずだ。

「レベリングしてないって何してたのよ?」

『えっとね、最初は────』

「へぇ……私は──────」

 今日あった出来事を教えてあった私たちだったが、真宵はアルテラの西に広がる森でエリアボスらしきモンスターに不意打ちされ死んでしまったらしい。その後、興味本位からアルテラの噴水の中心部の銅像にお供えしたらワールドアナウンスが流れたそうな。
 そんな奇行をすれば間違いなく衆目を集める。それに"1人だけ"というのは何かとトラブルの種になりやすい。

「で、覚醒の細かい条件は真宵にも分からないのね?」

『分からないよ。僕が知ってる手掛かりは"価値あるもの"を捧げろってことくらいだね。そういえば現実からもゲーム内の掲示板は見るだけならできるんだっけ……ちょっと見てみるよ』

 真宵がトラブルに巻き込まれる可能性を少しでも下げるには、覚醒を獲得する方法を公開してしまうのが手っ取り早いが確証のない今の段階では難しそうだ。
 なら次善策として私が早めに覚醒を獲得することで"1だけ"ではなく"極小数のプレイヤーが"にしてししまえばいい。ただ今のままでは情報が少なすぎる。何か見落としてないかしら。

「ねぇ、それって"価値あるもの"なのかしら」

『え、うーん……』

 "価値がある"と判別するには何かしらの基準が必要になる。そして像に捧げたことで覚醒を獲得したという真宵の話からして、その基準はプレイヤーではなくゲーム内の世界観や設定や影響を受けているはず。

『今、掲示板を見てるんだけど像に何か捧げた人は信徒とか神官みたいな神に関連した素質を獲得したみたいだね。僕が強制的に受けさせられたクエストの名前からの推測だけど"彩神"と呼ばれる神様たちの神話体系がゲーム内にあるんじゃないかな。たぶん、あの像は"彩神"に縁がある像なんだと思う』

「なるほど、その彩神っていう神様たちにとって"価値あるもの"を探せばいいのね。真宵の場合は"灰真珠の首飾り"ってアイテムが灰神っていう神様にとって"価値あるもの"だったってことね」

『たぶん、色の名前の入った宝石を加工したアイテムが鍵なんじゃないかな。僕の場合は引きが強かっただけだろうから、どうやって見つけたらいいか見当も付かないけど』

「へぇ……それは悪いことしちゃったかしらね」

 私にPKを仕掛けて来た迷惑プレイヤーを返り討ちにした時に手に入れた"緋翠鏡ひすいきょう"というアイテムがある。おそらくこれが覚醒を獲得するためのキーアイテムだ。迷惑行為の代償としては痛すぎる。
 
『ん、何か言った?』

「いいえ、何でもないわよ」

「そうだ、覚醒の獲得方法の推測って他の人に話しても大丈夫?」

『大丈夫だよ。偶然の産物で情報を独占するのも良心が咎めるしね』

 逆に言えば自分の実力で手に入れたものは躊躇ためらいなく独占するということだ。ここら辺は真宵らしい。
 それから4時間くらいゲーム内の設定の考察や発見した仕様について語り合った。

『また明日の夜も電話するよ』

「ありがと。おやすみなさい」

 電話が切れた直後、すぐに私は動画配信者として活動していた頃に知り合った女の子ぬ電話を掛ける。彼女は絶対に徹夜しないと公言しているが、今ならまだ起きているはずだ。

『んんぅ……もひもひ』

「こんばんは。ごめん、もしかして寝てた?」

『だいじょうぶ。どうしたの?』

 電話の相手は芦屋あしや花奏かなで。今から3年ほど前に起こった不祥事が原因で"流星群"から除名された看板プロゲーマーがいたのだけど、花奏は彼に替わる形で"可愛すぎるプロゲーマー"として"流星群"の顔となったプロゲーマーだ。その実力は高く、私や真宵と戦える数少ない同世代のゲーマーだ。

「ショウから情報なんだけど"Continued in Legend"で覚醒を獲得する方法の目星が付いたのよ。それで────」

「分かった。ちょうど"灰殻かいがらの髪飾り"っていうの持ってるから試してくる」

 覚醒に関する私たちの推測を聞かせると、花奏はすぐに電話を切ってしまった。最後の言葉から察するにログインしたのだろう。話が早いのは助かるけど、すでに持っているなんて思わなかった。入手方法が分かっているなら後で聞いておこう。

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お読みいただきありがとうございます。

番外編より腹黒成分多めのヒロイン。
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