上 下
42 / 228
本編

第30話 "流星群"は話し合う。

しおりを挟む

⚫︎レオ

「ふぅ……」

 ショウ……いや、今はマヨイか。
 あいつが走り去っていく姿を確認した俺にあったのは張り詰めた緊張感が弛緩したことによる安堵だった。

「レオ、弱いんだからでしゃばらないで」

「お前が交渉してたら時間掛かるだけだろうが」

 オリオンは俺たちの中で最もVRゲーム適正の高いプレイヤーだ。それは加入したてのメンバーを含めれば50人近いプロゲーマーが所属している"流星群うち"の中でも別格と言っていいほどでシブンギが直々にスカウトした数少ないメンバーだ。
 加入当時は小学6年生だったオリオンだが、その時点で"流星群"に所属する他のプロゲーマーと遜色ないほどゲームが上手く、4年が経った今では"流星群"の顔ともいえる存在になっている。

「別に、気にしない」

 だが手を抜くということが出来ない彼女は"流星群"にスカウトされる以前から同世代の中で孤立していた。その影響なのかコミュニケーション能力が拙く、特に思った事をすぐ口に出すので"流星群"の中にも彼女を苦手とする奴も少なくない。

「そりゃオリオンはな。けどマヨイは明らかに急いでたろ。それで万が一決闘とか吹っかけられたらどうすんたまよ」

「そうなればいい、今なら良い勝負になるはず」

 昨日のワールドアナウンスの後、夜中に1人で行動していたらしいオリオンはいつの間にか"カイシンの巫女"という覚醒を獲得していた。
 オリオンが覚醒と同時に手に入れたスキルの効果は"公式チートいい加減にしろ"と言いたくなる代物だった。それに加え覚醒したことで上昇したステータスは現在の平均的なプレイヤーとはかけ離れているのだからオリオンの自信も頷ける。

「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」

「マヨイが怖くて、考えるしてたチキンハートは黙って」

「ショウくん、いえ、今はマヨイくんですね。彼から得られた情報は非常に有意義なものでした。アルテラに戻ってメンバーと情報共有、オリオンの覚醒入手をモデルに私たちも覚醒を入手、そして可能な限り早急にエリアボスの討伐とドロップの一時的な独占を狙いましょう」

「……むぅ」

 リーダーはオリオンの毒舌をスルーして今後の暫定的な目標を並べる。確かにオリオンのおかげで覚醒は専用の特殊なアイテムさえあれば誰にでも獲得の機会があるのは分かっているし、専用のクエストの難易度もオリオンの話を聞く限りでは特に難しいものじゃない。

「オリオンを含めたメンバーで先にエリアボスに挑戦しとくのも悪くねぇだろ」

「そうですね、ここのエリアボスはヘビのモンスターでしたね。再出現の条件はフラグ管理されている可能性がありそうですので、ここにメンバーを招集して待ってる間に普通のヘビを倒しましょうか。100体くらい狩っても何もないようなら別のパターンを検証しましょう」

「分かった。ホーリーレイン」

「「!?」」


[Grass Snakeを17匹倒した]
[素材:草原蛇の魔石を17個獲得した]
[素材:草原蛇の抜け殻を15個獲得した]
[素材:草原蛇の血を4個獲得した]


 オリオンの頭上に現れた魔法陣のようなものから手の平サイズの光の塊が放たれた。狙いは20mくらい先の草むら、着弾と同時にメッセージから着弾地点にはヘビが17匹もいたらしい。

「このゲームってクレーター作るゲームだったか?」

「オリオン、そのスキルの情報は聞かされてませんよ」

「気分で名前付けただけ。ただのホーリーレイ、マヨイが模倣できるって」

 ホーリーレイは神聖魔法という補助メインの魔法スキルの中に含まれる貴重な聖属性の攻撃手段だ。ただホーリーレイはレーザービームのような形状だったはずだ。

「オリオン、どういうことか具体的に」

「スキル、私たちの意思でカスタムできる」

「習得した時点のスキルは加工前、デフォルトでしかないということですか。これは盲点でしたね」

「おっきな借り、できた……」

「そうだな。ゴブリンの情報なんかじゃ釣り合わねぇわ」

「たぶん、生産や加工も、カスタムできる」

「そうなれば大事ですね。これはチームで共有するに留めてマヨイくんから許可をもらうか、誰かが発見して掲示板に書き込むまで秘匿しましょう」

「それがいいな」

「アイに聞く?」

 そういえばオリオンはアイと仲が良かったな。
 オリオンは相手を見下したような毒舌もあって同世代の友達が少ない。ところでアイも名前を変えてたりしないだろうな?変に絡んでマヨイの逆鱗に触れたら洒落にならんぞ。

「そうですね。オリオン、アイくんを通じてマヨイくんにアポを取ってくれませんか。やはり直接尋ねるのが筋でしょう」

「事情、話していい?」

「もちろんです。どうせマヨイくんから聞いているでしょうから問題ないでしょう。それと生産や加工のスキルをカスタムできるようなら生産や加工に手を出すプレイヤーが増えるでしょう。需要過多になる前に素材を買っておいた方がいいかもしれませんね」

「腹黒チキンハートだ」

「転売か?さすがに非難されると思うぞ」

「なんとでも。素材は転売するのは角が立ちますから、デルタたちが作った習作を販売しましょう。そうすれば当面の資金繰りは楽になるでしょうし、非難するプレイヤーも減るでしょう」

 デルタは俺を含めて戦闘狂や脳筋と呼ばれる者が多い"流星群"の中では異質な直接的な戦闘行為を好まないストラテジー系のゲームが得意なゲーマーだ。このゲームではチームメンバーの装備などの加工を担当してくれている。

「加工持ちのプレイヤーを敵に回してもチーム内で加工できるから関係ねぇってか。それだとデルタの負担が大き過ぎるぞ」

「デルタは仲間、道具じゃない」

「それに関しては複案があるので大丈夫ですよ」

 オリオンも思うところがあったのか、いつものボンヤリとした表情が真剣なものに変わる。俺としてはオリオンがいつも見下しているデルタを仲間だと断言したことに驚きを隠せないが。
 そうしている間に続々と"流星群"に所属している仲間たちが集まってきた。

「お、皆さん来ましたね。今後の予定ですが──」

 その後、俺たちは森の方でレベリングをしていた"流星群"のメンバーと合流し、エリアボスの出現条件が約1時間の待ち時間と北の草原で倒されたヘビの累計の2つであるという事実を突き止めた。
 かなり苦戦したがオリオンのおかげでエリアボスに初見で勝つことができた。行動パターンはそこまで複雑なものではなかったので、俺たちは深夜の緊急メンテナンスまでにエリアボスを周回し素材とドロップ装備を集めた。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

オリオンのように覚醒を獲得しているプレイヤーは極わずかながら存在しています。マヨイ以外にもの2種類の覚醒を獲得しているプレイヤーもいるので早めに登場させてあげたいですね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

処理中です...