VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第28話 マヨイはトラブルを回避する。

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「峯村くんたちです……」

「うっわ、現実リアルまんまじゃん……」

 噂をすれば、というわけでもないだろうけど、やはり噂していたミネムラユウジ本人のようだ。取り巻きらしい女性プレイヤーの1人は僕らに気がついているみたいだけど、それをミネムラユウジに教えるつもりはないらしい。

「絡まれて時間を浪費するのも嫌だろ?」

「嫌だけどさ、逃げるだけならワールド切り替えるだけでいいじゃん」

「「え」」

「メニューからマップを開いて左下にある"アルテラ1"っていうのをタップして。それで別のワールドに移動すれば向こうからは私たちが見えなくなるはずだよ」

 僕らは言われるがままメニューからマップを開いて確認すると確かに"アルテラ99"までが存在していた。同時接続によるサーバーの負荷を減らすための処置だろうか。

「クレア、何番に行く?」

「え、じゃあ……23」

「おっけー。先行ってるからね!」

 そう言って何か操作をした暁は僕らの前から姿を消した。これがワールドを移動したということなんだろう。世界観的にはどうなのか分からないけど今の僕らにとってはありがたいシステムだ。

「え、えいっ!」

 掛け声は要らないと思うがクレアちゃんも消えた。
 僕も2人に倣ってワールドを切り替えよう。
 今更だけどユウジが僕ら──もう僕しかいないけど──の方へ向かってきた。おそらくクレアちゃんがワールドを切り替える直前に彼女の存在に気がついたのだろう。

「なぁ、おい、そこのガキ!さっきここに──」

 ワールドを移動する寸前、何か話しかけられたような気がしたがきっと気のせいだろう。自分のことながら器が小さいと思わなくもないけど、僕はゲームで赤の他人から子ども扱いされるのが嫌いなんだ。見下されているようでムカムカする。今回は人を待たせているから無視一択だったけど、もし今度あったらどうしてやろうか……


…………………………………


……………………………


………………………


「あ、お兄さん、来ましたよ」

「兄さん、こっち」

 どうやらワールドを移動すると噴水広場前に戻ってくるらしい。便利なのか不便なのかは別にして何かに使えそうな仕様だ。暁とクレアちゃんは──厳密にはワールドが違うが──先ほどまで僕とクレアちゃんが腰掛けていたベンチに座っていた。
 ベンチに座っているプレイヤーの声が聞こえるということは僕の推測は間違っていたのかな。

「待たせちゃったかな」

「そんなことないですよ」

「あぁ……"私も今来たばかりだよ"かな?」

「ネタが通じたようで何より。さて、時間も限られているし早めに出発しよう」

「ネタ?お寿司のですか?」

「クレア……」

 待ち合わせの定番ネタは古すぎたせいかクレアちゃんには伝わらなかった。僕も父さんたちから聞かされた掛け合い(?)だから元ネタは知らないんだけどね。
 こうしてトラブルを回避した僕らは、北の草原の先にあるらしい街を目指して噴水広場を後にした。





「あ、僕はなるべく手を出さないから」

「え、なんでよ!?」

「経験値の仕組みとかどうなってるか分からないけど、僕が手を出したせいで2人に全く経験値が入らない事態は避けた方がいいでしょ」

 それに僕はクレアちゃんのプレイヤースキルがどの程度なのか知らない。例え妹の親友であっても、安定した技量のないプレイヤーのパワーレベリングはしたくないのだ。
 パワーレベリングとは、レベル制MMOなどでレベルの低いプレイヤーがレベルの高いプレイヤーからの助けを受けて経験値稼ぎをする行為のことだ。偏見だと思うけど嫌悪感を持つ人の半分くらいはコミュニケーション能力の不足からくる妬みだろう。

「あー、兄さん、パワーレベリング嫌いだもんね」

「パワーレベリングというよりレベルが高いのに技量の低いプレイヤーが嫌いなんだよ」

 僕の場合はレベルの低いプレイヤーでもプレイヤースキルがあるならパワーレベリングの恩恵を受けても構わないというスタンスだ。レベルが高くて技量の低いプレイヤーを見ると「お前ら学習能力ないのかよ」とイライラが募ってしまう。

「ならパワーレベリングしてもいいんじゃないかな。クレア、エイムめちゃくちゃ上手いんだよ」

「え、そ、そんにゃことないよ!?」

「へぇ……」

 エイムとはFPSで使われることの多いゲーム用語で武器の狙いや照準合わせのことだ。クレアちゃんの反応も褒められ慣れていないだけで単なる謙遜けんそんのような反応だ。噛んでるけど。

「ほら、あそこ!ゴブリンいるの分かる?クレアなら余裕で当てられるからね」

 暁が指を刺した先、だいたい50mくらいの距離に緑色の人型が見える。プレイヤーにしては小柄だが暁が言うにはゴブリンらしい。このゲームでは初めて見る。
 ゴブリンといえばファンタジー作品では定番のモンスターの1種だ。このゲームでのゴブリンは14~15歳の子どもと同程度の身体能力を持っていると現実の方の攻略サイトに書かれていた。しかも戦闘が長引くと援軍を呼ぶらしく、援軍の中にはゴブリンの進化したモンスターや亜種が含まれていることもあるそうだ。

「そうなの?」

「このくらいなら大丈夫ですよ?アカちゃん、倒しちゃってもいい?」

「もちろん!」

 クレアちゃんは現実で弓に触れた経験があるらしいが、物理法則が現実と同じだったとしても50mも離れたゴブリンに当てるのは難しいだろう。

「えいっ」

 可愛い掛け声と共に放たれた矢は綺麗な放物線を描いてゴブリンの頭部に命中。そのままゴブリンは倒れてしまった。

「どうですか!」

 初めて見るクレアちゃんのドヤ顔は褒められたくて尻尾を振る仔犬のようだ。いや、女の子を仔犬に例えるのは失礼だろう。でも他に例えようがない。

「いや、凄いね。ほんと凄いよ」

 僕はアーチェリーや弓道に明るくないが、これが異常なことくらいは分かる。それを当然のようにやってのけるということは僕らと違うものが見えているのかもしれない。

「やったよ、アカちゃん!お兄さんに褒められた!」


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

クレアちゃん人外ムーブ回でした。
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