VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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番外編

ハロウィン 真崎暁は動画を観る。

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本編と関係のないハロウィン回(?)です。
本編は夏休み始まったばかりですけど書きたかったので笑
───────────────

⚫︎真崎暁

「やっぱすごいなぁ……」

 私は今、お兄ちゃんたちが動画配信者として活動していた頃に投稿された配信動画を見返している。明日からサービスが開始される"Continued in Legend"は対人戦が禁止されていないVRMMOなので参考になりそうな動画を探していたら、ちょうど動画をまとめたアーカイブを見つけたのだ。

「お兄ちゃんもやるみたいだし、またアイ&ショウ復活しないかなぁ……」

 お兄ちゃんたちが動画配信者アイ&ショウとしてデビューしたのは小学3年生のクリスマス、引退したのは中学1年生のバレンタインの日だ。お兄ちゃんたちが投稿した動画は引退してから2年以上が経っているのに未だに動画の再生数は伸び続けている。それは単純にお兄ちゃんたちが上手いから、そして自分たちの動きや考え方を丁寧に解説しているからだと思う。

『──だから、対人戦でのリーチ、間合いの広さっていうのは素人だろうとプロだろうと無視しちゃいけないんだ』

『特に相手からの攻撃が届かないところから攻撃できるのは大きなアドバンテージよね。だからショウはDFSでリーズを愛用してるのだし』


【名無し:ショウのリーズはもはや別キャラ】
【名無し:使用率ワースト3位なんだよなぁ】
【名無し:流星群、VRなのに目が死んでない?】
【名無し:フルボッコだったからな……】
【名無し:1vs12の変則マッチで負けたからな】
【名無し:1番の敗因はアイちゃんを泣かしたこと】
【名無し:泣いても最後は普通に終わらせるの偉い】


 DFSというのはVR格闘ゲームのタイトルだ。
 選択したキャラクターの武器や特性を使って戦うタイプの格闘ゲームで、お兄ちゃんが愛用していると言っているリーズというキャラクターは槍使いのアマゾネスだ。コメントにもあるように使いにくいキャラとして有名だったんだけど、この動画の配信後に少し使用率が上がったらしい。

『もちろん、間合いの長さだけじゃなくて他にも愛用してる理由はあるけどね。というわけで今日はVRゲームでの戦闘における間合いの重要性について説明しました』

『ゲストはプロゲーマーチーム"流星群"の皆さんでした。次の配信は10月31日、ハロウィンの日です。お楽しみに!』

【名無し:8888】
【名無し:おつかれ】
【名無し:おつかれー】
【名無し:おつかれ】


「まだ時間あるし、もう1本くらい見れるよね」

 しかし、そこで私の手は止まった。
 アーカイブに登録されている次の動画の投稿日が11月7日になっていたのだ。ハロウィンの日に投稿されたはずの動画は見当たらない。

「あれ、なんでないんだろ?」

 そのアーカイブに登録されてないだけだと思った私は意固地になって『アイ&ショウ ハロウィン』で検索を掛けた。それでも見つかったのはお兄ちゃんたちが小学6年生までのハロウィンに投稿された動画で、お兄ちゃんたちが中学1年生の年のハロウィンに投稿された動画は見つからなかった。


…………………………………


……………………………


………………………


 アイ&ショウのことが書かれたWiki⚪︎ediaまで見たけど、さすがに情報量が多すぎて全て読むには時間が足りなかった。なので夕御飯の席でお兄ちゃんに直接聞くことにした。

「で、なんで兄さんが中学1年生のハロウィンの配信だけネットにないの?」

「え、あ、あぁ……権利者権限で削除したからね。Wikipe⚪︎iaも偶に覗いては書き込まれてないか確認してるし」

「え、何があったの?」

 もしかして現実リアルの情報を漏らしてしまったとかだろうか。お兄ちゃんたちは生配信もしていたけど基本的に録画だし、そもそもプロゲーマーの真崎謙吾の息子だと最初から公開されている。最初から現実リアルバレしているようなものだ。

「ふふっ……暁、それくらいにしてあげなさい」

「そうだぞ、暁。誰にだって知られたくない黒歴史の10や20はあるんだ。宵も睨むなって、お前が藍香ちゃんに騙されて女装させられただなんて言わねぇから」

「「「………………………………………」」」

 夏だというのに鳥肌が立つほどの寒さを感じる。
 発生源は見なくても分かる。お兄ちゃんだ。
 お兄ちゃん至上主義のお姉ちゃんがお兄ちゃんを騙したとか、お兄ちゃんが女装させられたとかいう衝撃的な話の詳細を聞くような空気じゃない。

「ごちそうさま。母さん、未亡人にしちゃうけどいいよね」

「それは困るわ。でも謙吾さんも悪いし、どうしましょう」

 お母さん、もしかしなくても止める気ない!?
 お兄ちゃんもミトンを着けて棚からトロフィーを取り出さないで!?

「え、あ、ちょ、ちょっと待ってくれ、悪かった、悪かったから!」

「父さん、辞世の句はそれでいいの?」

「わ、分かった、今度の大会のは宵に渡すから!」

「あら、家には入れてくれないのかしら」

「ご、ごちそうさま!」

 お父さんへの折檻という名のコミュニケーションから逃げ出すため、残りの夕御飯を掻き込んでダイニングを後にした。





 後日、藍香お姉ちゃんに当時の動画を観せて貰った。
 そこに映っていたのはお兄ちゃんが現実で女装させられ、男装した藍香お姉ちゃんとデートする姿だった。

「え、これが兄さんなの?」

 お兄ちゃんが女装した経緯も動画を観て分かった。
 お兄ちゃんとお姉ちゃんが『相手に好きなコスプレをさせる権利』を掛けてゲームで対戦してお姉ちゃんが勝ったのだ。お姉ちゃんは『アニメのコスプレ』としか言ってなかったので、お兄ちゃんも軽い気持ちでOKしたみたい。
 ハロウィン当日、女キャラのコスプレをさせられると分かった瞬間、お兄ちゃんの顔色は真っ青になっていた。お姉ちゃんの圧に負けて「これはコスプレ、これはコスプレ」と呟きながら女装していた。

「可愛いでしょ!」

「う、うん」

 街へ繰り出した2人は動画が終わるまで4回もナンパされていた。女装したお兄ちゃんはアニメの世界から飛び出してきたかのような美少女だったし、藍香お姉ちゃんは男装していても女性らしさを完全に消せてはいなかった。傍目から見たら美少女2人組みにしか見えなかったんだと思う。

「兄さんがこれの削除申請してるのってなんでですか?」

「あー、それは単に恥ずかしかったっていうのもあると思うけど、絡んできたナンパの1人が現実リアルを特定されちゃってね。それを気にして削除申請したみいよ」

 お兄ちゃんらしいといえばらしい。
 その頃の私は反抗期だったので、お兄ちゃんが女装をしていたなんて知らなかった。これは是非とも現実で、生で見たい。ハロウィンまで2ヵ月近くある。しっかり作戦を立ててお兄ちゃんを女装させる方法を考えなきゃ。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

一部不適切な表現を修正しました(2020/11/1)
本編との矛盾点を修正しました(2020/11/14)
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