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本編

第25話 マヨイは待ち合わせ場所へ向かう。

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⚫︎真崎宵

 父さんのパスポートが見当たらないと言い出したのは暁がコンビニに出掛ける直前だった。シャトルシェフのカレーを食べた父さんに腹を立てていたのか、暁はそのままコンビニに出掛けてしまったが、暁が出掛けてからすぐ無事にパスポートは見つかった。

 それから父さんは迎えに来た同僚の方と一緒に空港に向かうのを見送った僕は手持ち無沙汰になったため、今はスマホで"Continued in Legend"関連の情報を調べている。


「やっぱりスキルの派生に関する情報はないなぁ……」

 予想はしていたけど、やっぱりスキルの派生に関する情報はなかった。これはクレアちゃんに注意しておいた方がいいだろう。

「うっわ……魔力弾の評価低すぎない?」

 スキルの有用度を点数化している攻略サイトを見つけた僕は、メインフェポンである魔力弾の評価が気になってサイトを覗いてみた。正直なところ魔力弾は下方修正されても仕方ないと諦めがつくほどに強い。しかし、僕の予想に反して評価は10点満点で3点と低評価だった。この3点というのは初期に習得できるスキルの中では最も低く、レビューの中には「動いている的に当てられない」「近づいて殴った方が強い」「DPS低くて使い物にならない」「バランス設定ミスとしか思えない」など文句しかない。

「でもレベル1の時点で森猪の体力を3割以上削れてたよな?」

 この疑問に対する解答はすぐに見つかった。
 森猪は魔術系統の耐性が低く、魔力弾でもそこそこのダメージが与えられるのだとか。弱点部位は背中の苔と顔だという推測も載せられていた。ちょうど僕が初めて森猪と遭遇した際に魔力弾を命中させた部位だ。弱点を晒して岩に擬態するのは生物としてどうかと思うが、組合のNPCから得た情報らしいので信憑性は高そうだ。

「まー、サービス開始2日目だしサイトが虫喰い状態なのは仕方ないとして……テイムの評価めっちゃ高いな」

 テイムしたモンスターは組合で登録すればプレイヤーと同様に死亡しても復活できるようになるらしい。代わりにテイムされたモンスターが他のモンスターを倒してもテイムされたモンスターには経験値が入らなくなる。ならどうやって経験値を獲得するのかというと、プレイヤーが獲得した経験値と同じ量の経験値をテイムしたモンスターで等分するのだそうだ。

「今からテイムしても成長速度的に微妙だよなぁ」

 僕の位階は既に30になっている。今からアルテラ近辺のモンスターをテイムしても囮役に使えれば御の字というところだ。テイムしたモンスターのパワーレベリングはゲーム的にはありふれた光景だが、そこまでして相方に困っているわけではない。

「でも欲しいんでしょ?」

「欲しい。具体的にはもふもふが欲しい」

「「……………………」」

 何この居た堪れない空気。
 いつの間にか帰って来ていた暁が物音を立てず僕の部屋に入り込んでいた。

「おかえり」

「ただいま。兄さん、これ飲みかけだけどあげる」

 ノックもせず黙って兄の部屋に入り込んだ文句を言おうとした僕に暁は飲みかけのモ◯スターを差し出してきた。藍香が好きなので僕も買って飲んだことはあるが好き嫌いの分かれる味だ。

「賄賂のつもりか?」

「ううん、藍香お姉ちゃんが買ってたから気になって買ったんだけど……」

「無理だったと」

「うん、でも捨てるのもったいないし」

「分かった。ありがたく頂戴するよ」

 そう言って受け取ったモンス◯ーを呷る。
 この独特の味が好きだという人の気持ちもなんとなく分かる。この味を僕は嫌いじゃない。だから勝手に部屋に入り込んだことは問い詰めないでやろう。

「っぷはぁ……で、用事はこれだけ?」

「よく一気飲みできるね……あ、違う違う。朱莉と電話して待ち合わせは3時に噴水前集合ってことになったから伝えに来たの」

「あと20分ちょいか。分かった」

「遅刻しないでね!」

 そう言い残して暁は僕の部屋から出て行った。
 組合から噴水までの移動時間を考えれば10分後にはログインしておいた方がいいだろう。僕は時間に余裕を持ってログインすることにした。もちろん、トイレも歯磨きを済ませてある。

「さて、そろそろログインしますか」


…………………………………


……………………………


………………………


 ログインした僕がいたのはログアウトした作業場ではなかった。

「あれ、ここって組合のエントランスか?」

 この原因の検討はすぐについた。おそらく作業場を借りたクレアちゃんがログアウトしたからだろう。作業場を占有しないよう強制的に作業場から追い出されてしまったのだ。
 これによるペナルティは目に見える形ではまだないが、今後は施設を借りている時にログアウトする場合は気をつけるとしよう。

「なぁ……マヨイってプレイヤーを探してんだけど──」

(!?)

 組合のエントランスを満たす喧騒の中、僕のプレイヤー名が聞こえてきたので思わず振り返ってしまった。どうやら僕を探しているプレイヤーがいるらしい。僕を探しているのは大剣を背負った金髪のオールバックが特徴的な男性プレイヤーだ。プレイヤー名はチャラ王、記憶違いでなければ掲示板で僕をチート呼ばわりしていたプレイヤーだ。

(絡まれて約束の時間に遅れるのも嫌だし、少し早いけど噴水に移動するか)

 目に見えるトラブルの原因から逃げるように僕は組合を後にした。もし絡まれたら適当に挑発して決闘を受けさせてから魔力弾で蜂の巣にしてやる。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

既にチャラ王を蜂の巣にされた後ですが、マヨイは無差別PKした相手の名前を(本来のターゲットであるミライたた以外は)知りません。またログアウト中にチャラ王が掲示板での指摘から過去の行動を反省し、直接謝るためにマヨイを探していることを知りません。

やったね、チャラ王!死亡フラグだよ!
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