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本編

第18話 マヨイは草原を耕す。

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「マジかよ、狩場盗られてんじゃねぇか」

「どうするミライちゃん。移動する?」

「えー、ここがいい!」

「おい、そこはミライが使ってたんだ。邪魔だから移動しろや」

 僕と暁が陣取っていた場所にやって来たのは男女6人のプレイヤーたちだった。唯一の女性プレイヤーが近接系の装備であるにも関わらず、彼女を囲むような陣形をしていることから姫プレイに近いパーティなのだろう。

「はぁ!?なんで私たちが「はいはい、少し落ち着いて」……なんでよ!」

「だって、ここで狩り続ける必要ないでしょ?」

 既にクエストを達成するだけの魔石は確保しているし、草原狼の素材だって1時間ほぼ最高効率で狩り続けられたおかげで飽和気味だ。という、ここで狼を狩り続ける必要はもうない理由を丁寧に暁に説明する。

「へぇ……そっちの男はどいてくれるわけ?」

「ミライちゃんが使ってたんだから当たり前なんだよなぁ」

「あんた、いい奴じゃない!そんな女は捨てて私と狼狩りしましょうよ!そんな胸の大きなアバター、どう見ても男意識してるし、どうせ現実リアルじゃブスだよ?」

 女性プレイヤー(ミライと言うらしい)のこの発言に僕は少しイラッとした。別に僕はシスコンではないが、見も知らぬ人から妹を馬鹿にされて何も思わないほど身内に関心がないわけじゃない。
 それと暁の胸部装甲に関して言えば、金属製の装備をしているからかもしれないがアバターの方が少し控えめだ。

「いや、遠慮するよ。これから組合に戻ってクエストの達成報告もしたいし」

「えー」

 しかし、この手のプレイヤーに正面から口論しても時間の無駄だ。それにミライという女性プレイヤーは現在進行形で動画を配信しているらしい。下手に騒ぎ立ててトラブルの種にわざわざ水をやるつもりはない。

「ミライちゃんからの誘いを断るとか何様だよ」

「まぁいいじゃん、狩場も手に入ったし」

「それじゃ」

 僕は暁を連れて足早にこの場を去ることにした。しかし、だからといって悪質プレイヤーに唯々諾々と従うわけじゃない。それなりの報復はしてやろうと思う。





「何なの、あいつら!マジむかつく!」

 陣取っていた場所から離れてすぐ暁は愚痴を零し始めた。彼らの位階は全員が15以上、ミライとかいう女性プレイヤーは17だった。位階だけなら間違いなくトッププレイヤーに分類されるだろう。

「兄さんも何であんな奴らの言いなりになってるの!」

「言いなり?」

「そうよ、兄さんなら勝てたでしょ!?」

 彼らの中に魔術士の素質を持ったプレイヤーはいなかった。全員が剣を持っていたことからも遠距離攻撃の手段に乏しいことが窺い知れる。暁の言う通りターゲットの奪い合いなら魔力弾で先制できる僕に分があっただろう。

「確かにターゲットの奪い合いなら勝てたと思うよ。けど実際に狼を狩り続ける意味もなくなっていたし、変にトラブルになって時間の無駄遣いしたくなかったからね。それに報復はしっかりするし」

「え、どういうこと?」

 陣取っていた場所から既に目算で150mほどは離れている。この辺りはPOPの頻度が激しいらしく他のプレイヤーの姿もチラホラ見える。だが見て見ぬ振りをしていた彼らを巻き込んでも僕の良心が痛むことはない。

「こういうこと。ちょっと近くに来て」

「に、兄さん!?」

 魔力弾の射出点は僕から約3m以内であれば自由に設定できる。最大射程距離は少なくとも200m以上、距離による威力の減衰はほぼないが、重力の影響なのか水平に射出した魔力弾は200mほどで地面に落ちる。多少の角度をつければ500mくらいまでは射程は伸びるだろう。

「探索……魔力弾×1000」

「ちょ、ちょっと兄さん!?」

 僕は対人攻撃設定を
 プレイヤーに命中すれば相手にダメージを与えるだろう。普通に考えたら悪質な無差別PK行為だ。バレれば非難を受けるのは間違いないし、バレなくても犯罪者プレイヤーにはなってしまうだろう。

「きゃあッッ」

 魔力弾が僕らを中心に満遍なく広がる。
 こちらに気がついたプレイヤーもいたが既に魔力弾は放たれた。きっと彼らは必死に回避しようとするだろう。もしかしたら罵詈雑言を並べているのかもしれないが魔力弾が地面に炸裂したことによる轟音のせいで他の音は聞こえてこない。


[称号:環境の破壊者]を獲得しました。
[称号:星に爪痕を刻む者]を獲得しました。


 何か称号を手に入れたらしいけど、そんなことより探索スキルの範囲内に生き残っているモンスターとプレイヤーがいたので追い討ちを掛ける。今度は彼らの周囲にだけ的を絞ろう。

「魔力弾×1000」

 ミライたちの悪質な行為を見て見ぬ振りぬしたのだから、僕の悪質な行為無差別PKも見て見ぬ振りぬをしてくれるだろう。これで僕も犯罪者プレイヤーだ。いっそ悪役のロールプレイというのも面白いかもしれない。

───兄さん───────────これ洒落にならないって!」

 探索スキルで僕と暁以外のモンスターとプレイヤーが死んだのを確認した。もう少ししたいところだけど、これ以上は必要ないだろう。気になったのは1度目の魔力弾を耐えたプレイヤーがいたことだ。たぶん僕が知らないだけで確定で耐えるスキルがあったりするのかもしれない。

───兄さん──────兄さんっば─────聞いてるの!?

 あと問題があるとすれば魔力弾が炸裂した轟音のせいで聴覚が一時的に使えなくなっていることくらいだ。だから聞こえないんだ。ごめんね、暁。





 その後、僕らは何人かのプレイヤーとすれ違いこそしたものの、特筆するようなトラブルもなく暁からお小言を貰いながらアルテラの街まで戻ってきた。それと、無事に街に入ってしまってから気がついたけど、僕は犯罪者プレイヤーにはなっていなかった。

「いや、なんで犯罪者になってないのよ」

「ほんとにね」

 もちろん不具合でないか運営には問い合わせた。すると細かな仕様までは教えてもらえなかったものの、どうやら僕の行為は現在のシステムでは犯罪者プレイヤーの判定にはないらしい。
 まぁ……ラッキーだったとでも思うしかないだろう。

「見てこれ、掲示板めっちゃ荒れてんじゃん」

「まぁ……ちょっとやり過ぎた感はあるよね」

「え、ちょっと?」

「うん、ちょっと」

 身内を馬鹿にされて怒るのは人として当然だろう。
 それに悪質プレイヤーを見て見ぬ振りをしたプレイヤーたちから文句を言われても痛痒つうようは感じない。

「あ、でも2人組みのパーティの仕業だって書いてる人がいる」

「そりゃ目撃証言くらいあるよ。あの時、1番近いプレイヤーは30mくらいしか離れてなかったから性別くらいまではバレるんじゃないかな」

 そうしている内に僕らはアルテラの組合前まで戻ってきた。ただ僕らが北の草原に出掛けた時より明らかにプレイヤーが多い。それに何やら入り口近くで口論しているプレイヤーがいる。こんな所で何を言い争ってるんだろう。

「だ、か、ら、あれはプレイヤーがやったんだって!」

「はぁっ!?嘘を言うのも大概にしろや!特殊なNPCか何かに決まってんだろうが!」

 うん、関わらない方がいいだろう。
 僕らは組合でクエストの報酬だけ受け取ると若干早足でクレアのいる作業場へと向かった。


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お読みいただきありがとうございます。

明後日の更新は久しぶりの運営サイド回です。
やっと佐藤さんに下の名前が付きました(๑>◡<๑)
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