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本編
第17話 マヨイは絡まれる。
しおりを挟む「…………ねぇ、もう兄さんだけでよくない?」
思った以上の惨状に現実逃避していた僕は暁の言葉で我に返った。
「と、とりあえずドロップ確認しようか」
「あとで絶対に説明してよね」
「……とりあえず蛇の分のノルマは達成できたな。兎のクエストは捕獲ってことだったから倒したのはマズかったかもしれんけど」
「あれは保護ってわけじゃないみたいだから大丈夫でしょ。それより白蛇がいるなんて初耳なんだけど」
「たぶんアルテラ大森林のエリアボスと似たような扱いのモンスターじゃないかな。あれも倒した時に称号が貰えたし」
草原白蛇というモンスターが北の草原に出現するという話は組合でも掲示板でも耳していない。単に発見したプレイヤーが隠していたり、見落としているだけかもしれないので後で情報を探ってみよう。
「あ、私は見てただけだからドロップは兄さんが貰ってね」
「いや、パーティなんだから等分でいいだろ」
その後、しばらくドロップ品の確認もしないまま僕と暁はお互いの主張は平行線を辿ったが、装備は暁のプレイスタイルと相性が悪いことが判明したので僕が貰うことになった。
名称:白蛇の皮ベルト
分類:装備 ベルト
部位:腰
効果:Soul of Snake
敏捷+10%
知力+10%
精神+10%
筋力-20%
耐久-20%
器用-20%
制限:[称号:草原白蛇の討伐者]
ステータスの上昇値は決して弱くはないだろう。
Soul of Snakeの効果は『移動する際に発生する音を減少させる効果』と『不意打ちで攻撃した場合に発生するダメージを増加させる効果』だった。
ただデメリット効果である筋力・耐久・器用のステータスの2割減少がネックだ。特に前衛で味方を守るプレイスタイルを選択したプレイヤーにとってはメリットを上回るデメリットになるだろう。
それに[称号:草原白蛇の討伐者]を持っていなければ装備できない(もしくは装備しても効果が発揮されない)ようだ。クレアちゃんへのお土産にするわけにもいかない。
「このまま進んで狼の出る場所を爆撃すれば手っ取り早くクエスト終わるんじゃない?」
「いや、プレイヤーがいれば巻き込んじゃうから!」
「あれ、知らないの?メニューの設定から対人攻撃をオフにすれば事故で他人を巻き込まなくて済むよ?」
「マジで?」
「マジで」
もしかして攻撃威力調整のスキルを取る必要性はなかったのではないだろうか。いや、単発の攻撃威力を上げられるという点で使い道がないこともないはずだ。それに対人攻撃の設定をオフにしたからといってPKに狙われなくなるというわけではないらしい。少し逡巡したものの、僕は対人攻撃の設定をオンにしままメニューを閉じた。
「というかデフォルトがオンなんだな」
「あー、それは私も思った。不親切だよねー」
こうしている間にも歩を進めていた僕らの視界にチラホラとプレイヤーが映るようになった。何人かは狼の集団と戦っているらしく、戦闘音らしきものも聞こえてくるようになった。
「兄さんなら狼もワンパンでしょ?タンクいる?」
「さすがに敵の集団がバラけていると狙いにくい。間違えて横殴りするなんてことは避けたいからアカトキには期待してる」
「それ私が巻き込まれるよね?」
ここまで魔力弾を何度も使ってきた。
魔力弾は直線状にしか飛ばないものの思い描いた場所へ飛んでいくためタンクに当たらないようにするのは難しくないはずだ。
「まぁ……大丈夫だろ」
「当てないでね?絶対だよ、いい?」
信用ないなぁ……気持ちは分かるけど。
プレイヤーたちが戦闘を繰り広げているのを横目に見ながら僕らは更に先に進み、他のプレイヤーから少し離れた場所に陣取った。
「いくよ、挑発!」
やや離れた場所に出現した狼の集団を暁がスキルで引きつける。狼は17匹だ。それが多いのか少ないのかは分からないが、さすがにソロで相手をするのは面倒な数だ。
「(攻撃威力調整1%)魔力弾(×14)」
僕の放った魔力弾は本来の威力の1%の威力でありながら命中した狼を一撃で仕留めた。だが暁の影に隠れて3匹ほど狙えなかった。
「ごめん、仕留めきれなかった!」
「大丈夫!」
「魔力弾(×3)」
暁が狼を引きつけている内に移動して仕留める。
その直後、暁の至近で狼の群れがPOPした。
「はやっ」
「魔力弾(×12)!」
今度の群れは14匹だったが、やはり今回も暁の影に隠れてしまった2匹を取りこぼしてしまった。その2匹は僕が射線を確保する前に暁が仕留めてくれた。
それとボスやネームドモンスター以外の戦利品のアナウンスは邪魔なのでオフにした。ネームドモンスターとは通り名を持ったモンスターのことだ。このゲームでは遭遇していないが、一般的なMMOに登場するネームドモンスターは通常の個体よりも強敵であることが多い。
「キツイねー、ここ人がいないのってPOP位置に近いからかな?」
「だろうね。僕のように殲滅させる手段がなければパーティでも数に押されて死に戻りするんじゃないかな」
「でも兄さんいるから余裕だね。……っとホントにPOP早いね」
これだけPOPが早いと位階の低いプレイヤーではパーティを組んでいても対応が追いつかない。僕らも今以上にPOP速度が早くなれば暁が耐えられないだろう。
POP位置が出現範囲内でランダムなのか、一定の法則があるのか分からないけど、こうなったら戦闘中に至近へPOPしないことを祈るしかない。
「ふぅ……」
「いやー、兄さんいると楽だね」
その後、祈りが通じたのか杞憂していた事態にはならず1時間ほど同じ場所で狼を狩り続けた。そして集中力も散漫になってきた頃、後方からプレイヤーらしき集団が近づいてきた。
「マジかよ、狩場盗られてんじゃねぇか」
「どうするミライちゃん。移動する?」
「えー、ここがいい!」
「おい、そこはミライが使ってたんだ。邪魔だから移動しろや」
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
MMOのオープンフィールドで狩場は貴重なリソース元ですからね。こういったトラブルは珍しくないと思います。
閑話を間章に分類しました(2020/10/15)
閑話は基本的に1章の夏間藍香などマヨイと行動を共にしていないキャラクター視点の話にする予定です。
今後ともよろしくお願いします。
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