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本編

第13話 マヨイはリベンジする。

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 アルテラ大森林に近づくと徐々にプレイヤーらしき人影が増えていった。たぶんアルテラ大森林がオープンフィールドになった影響だとは思うけれど、他に何かあったのではないかと思った僕はゲーム内の掲示板を確認することにした。それによると森を抜けた先にある街まで既に到着しているプレイヤーがいるようだ。

「うっわ……晒されてるよ」

 掲示板に僕のレベルが僕の了承を得ないまま無断で掲載ていた。こういった本人に確認を取らずに掲示板などに個人情報を書き込む行為を晒し行為や晒しなどと呼ぶのだけれどマナー違反どころか今回の場合はゲームの利用規約にも抵触している。

 お問い合わせから削除の要請を出しておく。
 僕を晒したプレイヤーと便乗して叩いている暴言を書き込んでいるプレイヤーの書き込みの削除を申請、ついでに利用規約違反で通報もしておこう。

『はい、運営のワタリです』

「こんにちは、マヨイと言います。先ほど掲示板に僕の位階などが書き込まれているのを見つけました。また僕に対する根拠のない誹謗中傷もありました。削除ならびに書き込んだプレイヤーへの対応をお願いします」

『っ……確認します。少々お待ち下さい』

 掲示板の該当する部分を見ながら1分ほど待つと削除を申請したコメントが全て削除された。

『個人情報を類推できるコメントならび誹謗中傷に当てはまるコメントを全て削除しました。ご確認下さい』

「確認しました。ありがとうございます」

 サービス開始から間もないということもあるのかもしれないが対応が早い。てっきり数時間は掛かるものだと思っていた。

『今後ともContinued in Legendをよろしくお願いします』

 僕を晒したプレイヤーや誹謗中傷したプレイヤーがどうなったのかは気になるところだけど、そこを聞くのは相手と同じ穴のむじなになるようで聞くのを躊躇ためらった。プレイヤー名は覚えたので彼もしくは彼女らと今後もし会うことがあれば気をつけよう。

 そうこうしている間にアルテラとアルテラ大森林と境界まで来た。ここまで来ると森の中を探索しているプレイヤーの人影も見えてくる。

「ふざけんな!俺が戦闘してただろうが!」

「はぁ!?私が先に攻撃当てたの見てなかったの!?」

 少し離れたところでオープンフィールドになったせいかターゲットの奪い合いによる揉め事が起こっていた。
 このゲームだけでなくMMOに登場する雑魚モンスターは倒されても一定時間で再び出現する。そのモンスターの需要が高い場合、あのようにプレイヤーによる復活するモンスターの奪い合いによるトラブルが発生することもある。

(クエストの消化もしたいけどプレイヤー多いなぁ)

 僕はアルテラ大森林の猪を倒すクエストを受けている。
 だから多くのプレイヤーに混ざってターゲットの奪い合いに参加するのもありだ。
 しかし、どう考えても効率が悪い。ここは掲示板の情報を元に森の先にあるらしい街へ向かいながら、猪は倒せれば倒す程度の心積りでいいだろう。

「───!!」

 森に入ってから10分ほど西に真っ直ぐ歩いていると進行方向から何やら男性の叫び声のような音が聞こえてきた。

「逃げろ!エリアボスだ!」

 エリアボスの情報も先ほど確認した掲示板に書いてあった。その目撃された姿の情報では通常の森猪よりも2回りほど大きな森猪らしい。たぶん僕を後ろから襲った猪がエリアボスだったのだろう。鎧を着込んだ位階10前後のプレイヤーでも突進で半分近い体力を失うそうなので僕が一撃で倒されたのは道理とも言える。

「おい、そこの初心者!逃げるぞ!」

 逃げてきたプレイヤーがすれ違いざまに声を掛けてきた。掛けられた声の内容からして本人にはそのつもりは皆無なのだろうけど、これはMPKやなすりりつけと呼ばれるマナー違反行為の1つだ。

 MPKとはPKと呼ばれる他のプレイヤーを殺傷するプレイスタイルの1種だ。トレインや擦りつけなどもと呼ばれ、ターゲットのプレイヤーがモンスターを襲われるよう仕向ける手法のことをいう。

 しかし、これは僥倖ぎょうこうだ。こんなにも早くリベンジする機会があるとは思わなかった。わざわざ僕のところまで連れて来てくれたのだと思えば迷惑行為擦りつけも許容できる。

 僕は念のためエリアボスと戦闘中、もしくは戦闘を挑もうとしているプレイヤーが周りにいないことを確認する。ほとんどのプレイヤーはエリアボスから背中を向けて一目散に逃げようとしている。例外は樹の上や裏からエリアボスを観察しているプレイヤーと棒立ち状態の僕くらいだ。

「魔力弾×10」

 戦闘中のプレイヤーがいないことを確認した僕は牽制としてエリアボスに魔力弾を放った。見た目は今までと変わらない。てっきり異様に高くなったステータスの影響で弾が肥大化したりするのかと思っていた僕としては拍子抜けだった。

 ──どーんッッ!!

 魔力弾が命中したエリアボスは1発目が命中した直後に蒸発、目標物を見失った残り9発はそのまま地面に着弾して爆発した。その爆発で発生した土煙で着弾した場所がどうなったかはまだ確認できないけど、絶対にロクなことになっていないだろうことは予想が付く。

 僕はステータスの影響をもっと真剣に考慮すべきだったのかもしれない。魔力弾の威力を決定する知力のステータスだけ見ても昨日の1270倍以上もあるのだ。それを牽制として10発も撃てばどうなるのは自明の理だった。

 土煙の晴れた先では着弾したとおぼしき場所を中心に森が禿げてしまっていた。まるでショベルカーでひっくり返したかのようだ。

(これは威力調整する方法を見つけないとオープンフィールドじゃ気軽に使えないなぁ……)


[Forest Big Boarを倒した]
[素材:森大猪の魔石を獲得した]
[素材:森大猪の大牙を獲得した]
[素材:森大猪の背苔はいたいを獲得した]
[装備:森大猪の翔蹄を獲得した]
[称号:森大猪の討伐者]

[Forest Boarを4体倒した]
[素材:森猪の魔石を4個獲得した]
[素材:森猪の牙を2個獲得した]
[素材:森猪の背苔を3個獲得した]


 どうやら爆発の余波でなのか組合で受けたクエストのターゲットの森猪も倒していたようだ。エリアボスも含めて跡形もなく吹き飛んでしまっているがドロップアイテムはアナウンスと同時に僕のアイテム欄に追加されていた。

 それに嬉しい誤算だったのはエリアボスが靴装備をドロップしたことだ。まだ初期装備のままの僕にとって装備のドロップは非常に助かる。


名称:森大猪の翔蹄
分類:装備 靴
部位:靴
効果:Soul of Bore
   筋力+10%
   敏捷+10%
制限:[称号:森大猪の討伐者]


 靴だからなのか防御力は全く上がらないのは残念だけど効果の方は十分以上に有用なものだ。
 "Soul of Bore"は一定速度以上で移動している間、自身にスーパーアーマーを付与する効果だ。スーパーアーマーとは他のプレイヤーからの攻撃やオブジェクトからの影響を受けない状態のことをいう。

(さて、これからどうしようか)
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