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本編
閑話-2 アイはPKに容赦しない。
しおりを挟む⚫︎アイ(藍香)
"Continued in Legend"のサービス開始初日、私は真宵と合流しようと思って昼過ぎに真宵の家に電話した。しかし、応答してくれた謙吾さんの話では既にゲームを開始してしまったようだ。
あらかじめ連絡を入れておかなかった私が悪いのは百も承知だけど少しだけモヤモヤする。今日の夜にでも電話して明日からは一緒に遊びたい。そのためにもキャラクターの方向性はレベリングしやすく、かつ真宵とパーティを組んでも邪魔にならない組み合わせが理想的だ。
真宵はどちらかというと一方的に攻撃するタイプの戦闘スタイルが好みだ。戦闘面を重視してキャラクターを作成する場合、遠距離攻撃やヒットアンドウェイによる相手からの攻撃を受けにくい戦闘スタイルを選ぶことが多かった。それでいて探索面で足を引っ張ることを嫌がる傾向にある。
なら間違いなく魔術士か狩人を選択して探索スキルを習得しているはずだ。対人戦を前提にするなら前に出て味方を守るようなキャラクターと相性がいいはずだが、探索行動を共にするなら私も探索スキルを取った方がいいだろう。
と1時間近く悩んだ末に出来上がったキャラクターがこれだ。プレイヤーネームは本名をもじった安直な名前だけど、ゲームをする際は大抵この名前を使っている。
◼︎パーソナル
名前:アイ
性別:女
位階:1
属性:戦士/魔術士
◼︎ステータス
体力:28
魔力:29
筋力:8
耐久:7
器用:6
敏捷:6
知力:7
精神:8
◼︎スキル
①挑発
②索敵
挑発スキルはターゲットの攻撃対象を自分に固定するというものだ。効果の説明を読む限りソロでは使う意味があまりないスキルだけど、パーティを組むのなら確保しておきたいスキルだ。
"Continued in Legend"の世界に触れた最初の感想としては「現実味が濃すぎるのではないか」という懸念だ。今までVRゲームをいくつもプレイしてきたが、吐息や服の擦れる感覚まで再現されたゲームは初めてだ。予算掛けすぎではないだろうか。
その後、私は組合という施設に併設されている武器屋で適当な槍と革鎧を購入した。金属製の鎧は値段が高いわりに防御力の補正値で革鎧とそこまで差がなかったため今回は購入を見送ることにした。
そして組合で北の草原に生息する狼の討伐依頼を受けた私は、男性プレイヤーからの下卑た視線から逃れるように組合を後にして北の草原へと向かった。残念なことに後を尾けられてしまったが、振り払うために労力を割きたくはなかったので放置することにした。
…………………………………
……………………………
………………………
「おい、そこの女!俺たちとパーティ組もうぜ」
北の草原に移動して狼を探し始めた直後、ここまで後を尾けてきた男性プレイヤーたちの1人が声を掛けてきた。やはりゲーム開始時に相当アバターの容姿を試行錯誤したのだろう。真宵の言うところの「僕の考えた最強のイケメン(笑)」という感じのアバターだった。
狩場の共有を考えればパーティでのレベリングは悪くははい提案だが、私は声を掛けてきた男性に振り向くことなく狼狩りを始めた。そもそも私は名前と性別、素質の戦士という部分までは公開設定にしているのだ。いや、名前で呼ばれるのも怖気が奔りそうなので全て非公開に再設定しなおそう。
「チャラ王、お前ガン無視されてんじゃんマジウケる」
「るせぇ!」
先ほど声を掛けてきた男性プレイヤーの仲間たち、もしくは顔見知りなのだろう。続々とプレイヤーが集まってきた。このまま狼を狩っていてもいいのだが、経験値効率を考えれば移動した方が良さそうだ。
「ねぇねぇ、そこの彼女さん。よかったら俺らとパーティ組まない?」
「組まない」
「そう言わないでさ、パーティを組んだ方が色々と効率的だよ?」
確かに集団を形成ことによることでお互いの弱点を補完し合う安心感がパーティプレイにはある。しかし、効率に関しては情報が少なすぎて断言するほどじゃない。もし効率が良いのだとしても私は真宵以外の男とパーティを組みたくないのだ。
「まだ情報の出揃っていないゲームで根拠のないまま効率という言葉でパーティに勧誘するのはちょっと軽薄よね。あ、この場合の軽薄というのは"考えが浅くて信頼に欠く"という意味よ?わざわざ信頼に欠く相手とパーティを組むほど私は酔狂じゃないのよ」
そう言って私が狩場を変えるために移動しようとすると後ろから肩を掴まれた。掴んだ相手は最初に声を掛けてきたチャラ王という名前のプレイヤーだ。"王"を"偉そうな奴"というニュアンスで使うのであれば、まさに"チャラチャラした偉そうな奴"という印象を受ける。
そういうロールプレイをしているだけという可能性もあるが、それはそれでとんでもないルーニーだ。
「この女、さっきから何様のつもりだ!」
まぁ……十中八九、彼の性格は素なのだろう。
これでロールプレイだったら俳優として活躍でき……はしないだろうが、それなりの役が貰えるのではないだろうか。
目の前に[異性プレイヤーからの接触を確認しました。ハラスメント行為として通報しますか]という文章とYESとNOの2択が表示された。どうやらYESを選ぶと対処してくれるらしい。これ以上の問答は労力の無駄でしかないので丁度いい。
「はぁっ!?」
「どうした?」
「こいつ、ハラスメントで通報しやがった!ふざけんな、肩を触っただけじゃねぇか!」
ここまで来ると哀れね。ハラスメントというのは行った側ではなく、受けた側の主観でそれに該当するか判断されるものなのだから、私がハラスメント行為だと思えばハラスメント行為なのよ。嫌いなものや気に障った物を何でも「◯◯ハラスメントだ!」とか言って騒ぐような恥知らずになるつもりはないけれど、こういった便利な方便は利用してこそよね。
「死ねぇ!」
私が再び移動を開始しようとした矢先、今度は2番目に話しかけてきた男性プレイヤーが私の背中に斬り掛かってきた。予想していなかった暴挙ではあるが、掛け声の時点で不意打ちになっていない。
背後からの攻撃を私は前方へ跳躍することで回避した。着地直後を狙われても対処できるよう、空中で身体の向きを相手に向けるのも忘れない。彼我の距離は目測で2mほど、剣なら1歩踏み込んで切りつけてもギリギリ届くかどうかという間合いだ。もちろん、私の槍ならば半歩前に出て突くだけで届く。
「ちっ」
「おい、何やってんだよ!」
「どうせ赤になるなら初心者ばかりの今がチャンスだろうが。少し予定が早まったくらいでアタフタすんなよ」
このゲームでのPK行為(プレイヤーがプレイヤーを殺傷する行為)の扱いは比較的軽い。軽いとは言っても第三者に目撃されれば名前を未遂であってもプレイヤーネームが赤文字で表示されるようになる。また名前や性別、素質などのパーソナルを非公開情報にすることが不可能となるようなので犯罪者のロールプレイは難しそうだ。
「油断大敵よ」
犯罪者のロールプレイを更に難しくしているのが赤プレイヤーを攻撃しても赤プレイヤーにはならないという仕様だ。これによって私が目の前のプレイヤー、名前はロンというらしい彼を攻撃しても私の名前は赤くならない。
「ぐえ゛」
私はチャラ王に視線を向けたロンの喉を槍で突き刺す。このゲームのありがたいところは、相手の体力や防御力に関わらず急所を突けば一撃で死に至らしめることが可能なところだ。想像よりも手に返ってくる衝撃は重かったが、無事に一撃で仕留めることができた。やはりプレイヤーを殺傷することで得られる経験値はモンスターを倒した場合よりも少し多めに貰えるらしい。それに彼の持ち物らしき装備やアイテム、それにお金までもが私の持ち物一覧に追加されている。今後、赤ネームは経験値袋として積極的に狩っていこう。
ちなみにチャラ王たちは逃げ出した。感心するほどの逃げ足だけど、彼は赤プレイヤーではないのだから私から攻撃を仕掛けるメリットがない。だから別に逃げなくてもいいのに……
「あら、いつの間にか空いたわね」
チャラ王たちだけじゃない。いつのまにか周囲にいたプレイヤーが消えていた。これなら狩場を移動する必要はなさそうだ。
こうして終始ソロで狼を狩り続けた私は、組合でクエストの達成を報告し、倒したプレイヤーから得たものや狼の素材の売却を済ませてから"Continued in Legend"における1日目を終わらせた。ただ"緋翠鏡"という持ち手のない手鏡のようなアイテムは買取を拒否されてしまった。どうやら宝石店のような専門店でないと買い取ってくれないらしい。
狩り途中でワールドアナウンスが流れたが、それに関する情報収集はログアウトしてからすればいいだろう。
───────────────
連休に入り夏場との気温差が顕著になってきましたね。
たぶん季節の変わり目というやつです。
私のように体調を崩さないようお気をつけ下さい。
感想、応援、とても励みになっています。
可能な限り返信しますが、通知が届いてから感想を書くためタイムラグが生じてしまうことはご寛恕ください……。
これからもよろしくお願いします。
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