上 下
20 / 228
本編

閑話-1 夏間藍香は相談される。

しおりを挟む

⚫︎夏間藍香

「クラスに馴染めていない?」

 高校に入学してから3ヶ月が経った夏休みの直前、私は幼馴染の真崎まさきショウから相談を持ち掛けられた。

「うん、避けられてる気がするんだよね」

 5月半ばからクラスの男子から避けられているという内容の相談だけど私はその原因を知っている。
 もっとも真宵まよい──真崎宵を略した愛称──は原因が自分にあることに気がついていない。たぶん、自分がクラスメイトとの交流を怠ったからだとか思ってるはずだ。

「真宵は自分からじゃ女子に話しかけられないヘタレだもんね。これを機に少しはコミュ力磨いたら?」

「簡単にできたら相談しないよ……」

 真宵は現実では自分から異性に話し掛けることは滅多にしない。例外があるとしたら真宵の家族と私くらいだ。
 もっとも、真宵は同い年とは思えないほど保護欲を掻き立てる容姿をしているので、中学時代には真宵を遠巻きに見守っていたグループもあった。

「どうすればいいかなぁ……」

 本気で悩んでいる真宵には申し訳ない気持ちもあるけれど、私は真宵をゲームの世界に還す機会が訪れたのだと内心で歓喜している。

「1番簡単なのは共通の話題を作ることね」

「共通の話題……?」

「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」

 "Continued in Legend"は来週末からサービスが開始されるVRMMOのタイトルだ。まだサービスが始まっていないけれど、前評判が十分に高いだけでなく既に賞金付きの大会を開催するという予告を出している。

「まだ発売されてもないゲームがクラスメイトとの共通の話題になるの?」

「既に話題になってるわよ」

 賞金付きの大会が開催されるということはプロゲーマーも少なからずやってくる。私の知っている範囲でも、若手中心で勢いのあるプロゲーマーを数多く擁する"KING'S"や不祥事による低迷から復活した"流星群"など私たちと少なからず因縁のあるプロゲーマーたちが既に参加を表明している。

「VRMMOかぁ……」

「いいじゃない、また一緒にゲームしましょうよ」

 もしパパたちが許してくれるなら配信も再開したい。
 私はゲームが好きなのではなく、真宵とゲームをするのが好きなのだ。私のせいで真宵がゲームから遠ざかって2年以上、自身の軽率な行動を後悔しなかった日はない。

「分かったよ。帰りにお店に寄るね」

 私の家は小さなゲームショップを経営している。
 店の名前の由来は麻雀用語で「和了あがれる時に和了れ」という意味らしいが、何故その名前を選んだかまでは知らない。プロの雀士として活躍しているママではなく、下手の横好きを体現したように麻雀が弱いパパが付けたらしいのでロクな理由ではないだろう。

 足早に教室から出ようとする真宵の背に向かって私は

「おかえりなさい」

 と呟いた。これは真宵がゲームの世界に戻るのなら言おうと決めていた言葉。誰にも最初を譲りたくないという自己満足だ。

「なんか言った?」

「いいえ、なんでもないわよ」

 聞き取れていなくても構わない。
 私が最初に言ったという事実が欲しかっただけなのだから。


…………………………………


……………………………


…………………


「今日の夕方過ぎに宵君が来たよ。やはり俺と顔を合わせるのは気まずかったようだが"Continued in Legend"を予約していったよ」

 その日の夕飯時、パパから真宵が"Continued in Legend"を店で予約したことを聞かされた。

「うん、私が誘ったの。もう高校生になったし別にいいでしょ?」

 アイ&ショウという名前の動画配信者として活動していた私たちが引退を余儀なくされたのは、私が暴走して軽率な行動にはしったからだ。
 ことが互いの両親に露見した時、協議の末に言いつけられたのは高校学卒業までの私の活動自粛だけだった。真宵は単独で動画配信者として活動することも、中学生プロゲーマーとして活動することだって出来た。


 ──藍香と配信できないなら僕も引退する。


 それは真宵にゲームをして欲しかったパパや真宵の両親にとって一種の脅迫だった。この一言が切掛で再び私たちの両親は協議して、私が中学卒業までアイ&ショウとしての動画配信活動の自粛ということになった。
 真宵の両親は若気の至りということで注意だけにしてもいいと言ってくださったそうだけど、それに関してはママが猛反発したらしい。

「また動画配信も再開するのか?」

「私は真宵と遊びたいだけよ。配信に関してはどうなるかしらね」

 動画配信を自粛するように言われただけで、ゲームで遊ぶことに制限を掛けられることはなかった。これは私たちにゲームの世界からは離れて欲しくなかった互いの両親が意図的に作った抜け道だ。
 しかし、それからというもの私たちは暇つぶしや息抜き以外ではゲームをしていない。特にMMOのような不特定多数と接するようなジャンルは意図的に避けていた。

 私たちは両親の胸中を理解していながら、それを無視したのだ。私は自省と若干の反抗心から、真宵はおそらく競い合う相手のいない環境を想像してモチベーションが上がらなかったからだろう。

「そうか、何にせよ彼の名前は間違いなくゲーム史に刻まれるだろう。能動的な思考速度の加速ができるゲーマーは過去にもいたと言われているけれど、それと同時に並列思考が可能だなんて聞いたことがない」

 私は真宵の才能の一片を見て全てを理解したつもりになっているパパの語りが大嫌いだ。そもそも精度こそ違えど思考加速と並列思考の併用までなら

「それに宵君は────」

「ごちそうさまっ」

 まだ真宵の才能について語り足りないらしいパパが話を続けようとするのをさえぎるように私は夕飯の席を立った。
 少し乱暴な態度だっかかもしれない。

「藍っ!」

 パパの真宵自慢は聞いていて無性にイライラするのだ。
 私はママの声を無視して少し乱暴気味に食器を洗い自室に戻った。


───────────────
清純なヒロインを期待してくれていた読者の方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。夏間藍香はヤンデレ風味の腹黒系ヒロインです。夏間藍香の暴走もとい暴挙に関しましては若さ故の過ちというやつなので書くことはないと思います。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

処理中です...