不確定要素の罪人~地下道からの異世界転移?!〜

にしん青

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黙ってちゃわかんねーって。

第4話 さて?定まって?さぁ黙って?

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 さて、予定調和、終了。

 いや、通過儀礼か。

 最初の時点、塀から上がった時点で僕は気づいていた。というかあれで気づかないのは無理がある。
 それでも、現実的な思考でいけばもちろん当たり前にあり得ないので、僕はこの世がノンフィクションである事に賭けたのだ。

 結果、この世界はフィクションだったし、全然ライトノベル感満載だった。

 この世界は有り体に言って『異世界』だったのだ。

 あの後僕はシンデレラ美少女にこの世界のことを少しだけ教えてもらった。
 まずここは王政の統治国家、『超越アパシー』だった。『超越』は六角形の城壁に囲まれており、中央に巨大な城がある。つまり僕がシンデレラ城だと形容したアレのことだ。

 『超越』は城を中心にして段々畑のように下がっていくつくりになっている。なので中央の城がどこからでも荘厳にしっかりと見えるというわけだ。

 そしてその六角形はピザのように均等に分けられ、その地域一つ一つに、六人の『軍団長』がそれぞれ担当しており、地域を管理しているのだ。

 僕がシリアちゃんと出会ったのは第二区域で、その番号を冠する第二軍団長がここを管理しているという訳だ。他の区域も同様である。

 ……はてさて、あんなスリリングな所にいたのに、また非日常を謳歌せねばならんのか。

 大学を入学式で中退、奴隷として拾われ、奴隷として雇われ、そして。

 異世界。

 もとの世界ではない。
 本物でもなく、かわりに偽物でもない。
 異なる、世界。

「まだ確信を得たわけじゃないけどね……」

 シリアちゃんの店の裏にあるベンチに座って、僕は呟いた。
 そう、まだ確信を得てはいない。証拠が出てきたというだけ。もしかすると、『超越』はもとの世界に存在するかもしれない。僕は世界の国々なんてせいぜいアメリカ、ツバル、バチカン市国くらいしか知らない。フランスはおろか、ヨーロッパがどこからどこまでなのかもよくわからない。なので、ここが異世界ではない可能性は決して否定できないのだ。

 それこそ魔法でも見ない限り。

 僕は店の脇から店通りを歩いている町人とおぼしき人々を眺める。その恰好はやけに旧世代的で、中世ヨーロッパが連想される。

 もしここが異世界なのだとして、そもそもなぜ僕はここにやってこれたのだろう。要は理由、である。何の脈絡もなく突然に、なんの予兆もなくまるで必然であったかの如く唐突に。いや、忘れているだけで予兆も脈絡もあったのかもしれないが、それでもそれでもこれは現実感が無さすぎるだろう。第一僕は死んでしまった覚えも無いし、女神様にすら出会っていない。異世界転移というのなら、いささかテンプレートを踏み外しているだろう。

「そもそも僕がこんなのところにくる原因なんて……」

……あの地下道が原因だという可能性は無いだろうか。そもそもそうだ、あの町だ。他の町ならともかくあの町の地下道だとすれば原因になりうるだろう。そう、あの町のあの地下道が、ある時間、ある状況でのみ、どこか遠くへワープさせてしまう地下道ならば?

 そこまで考えて、僕は思考をやめた。
「それだったらまだ異世界転移の方があり得るな……」
 僕はそう思いなおした。実際には異世界転移の方が至ってあり得ないのだが、僕の脳はこの時混乱しきっていたので、その辺の事情を慮っていただきたい。

 結局のところ、何もわからないということがわかっただけだった。
 僕は通行人の見物をやめ、店番をしているシリアちゃんに向かった。

「シリアちゃん、いろいろ教えてくれてありがとう。また今度くるよ」

 と言った。シリアちゃんは相変わらずの仏頂面で返す。
「もういくのだいね。いろいろ気を付けるのだいね」
 と、なんだか適当に言った。少なくとも心はこもってない。

 僕は踵を返して、またどこか適当に歩くことにした。

 と思ったのだが、シリアちゃんにあなた、と呼び止められたのでもう一度振り返る。
「第二軍団長には会わないようにするだいね。他の軍団長にもだいね。あなたはここの勝手を知らないようだから一応伝えておくだいね」

「うん、わかったよ」
 それじゃ、といって今度こそ出発した。
「それと」
 またもシリアちゃんに呼び止められる。しかし今度は振り返らない。

「あなた、そのものすごく馴れ馴れしいその態度。非常に不愉快だから抑えた方が良いと思うだいね」

 ……締まんねぇなぁ全く。
 僕は返事をせずにその場を去った。ちょっとだけもう一度ここに来る気が失せた。ちょっとだけ。
 馴れ馴れしい態度は僕のいいところだと思うんだけれど。
 そしてどうせ僕のことなので直す気は全くないけれど。

 それにしても、第二軍団長か。

 慈愛にして残酷、野蛮にして騎士、最悪にして最頼、赤黒にして凝血。
 その名は、メヒード・アルトライザ。
 二つ名というか異名というか畏怖名は『嘲笑する緋眼ブラッドレッド』だ。

 このように、いい印象が全く得られない紹介だった。シリアちゃんが気をつけろというのもよくわかる。
 他にも、第一軍団長『賢断の赫輝セレクター』アイリ・アルトライザ。
 第三軍団長『審判と涼青レイジトライアングル』ゼルエイス。
 第四軍団長『超えれぬ橙ハイアンドアップ』ポス・バインドー。
 第五軍団長『牢なる濁徒ロックロックロック』ロク。
 第六軍団長『黒い天才オーバーアビリティ』クローク。
 そしてそれらをまとめる総軍団長『ラスト』ハイングレー・ワーズ。

 以上、七名。これらが『超越』を管理、守護している軍団長様たちだ。

 そんな物思いに耽りながら、僕はすっかり日の昇った通りを歩く。僕とすれ違う人々は、格好の全く違う僕を横目で一瞥しながら、あるいは背中から強い視線を当てながら通り過ぎていく。もしかしたらもしかしなくとも、僕は相当浮いているのでは?もしかするともしかしなくても、浮いている=異端で異常ってことにならないか?もしかするともしかしなくても、この世界に限らずとも前の世界でも異端とか異常って、『悪』として扱われないか?扱われるよな?例えば、そんな悪を見逃さない人間って、いや職業って言ったらなんだ?前の世界だと警察。今の世界だと衛兵か?多分。

 じゃあ例えばそんな衛兵に僕が見つかりでもしたらそれは―――――

 僕には好きなものと嫌いなものが意外なことにしっかり存在している。そして、そんな嫌いなものの中に僕は『例え話』を入れている。

『例えば、目の前に熊と虎がいたとしよう。戦ったら一体どっちが勝つと思う?』という風に。

 嫌いな理由は単純だ。
 そんな出来事は存在しないからだ。
 あり得ないからだ。
 事実ではないからだ。
 嘘だからだ。
 虚構でしかないからだ。
 だから僕が例えば~なんて使うときはつまり、それが事実であることを意味する。それは真実であり事後である。
 それでも絶対に口には出さない。
 まぁ何が言いたいのかというと。
 僕は意外と正直者だってこと。

 僕の思考はある呼びかけによって妨げられた。

 おい!と、何もしていないのに何かしたかのように突然怒鳴られる。

「そこのお前、よそ者か?ふん、変な格好だな。この辺りは特別区域だ。あまりウロチョロするんじゃない!」

 どうやら僕に言っているらしい。特別区域?シリアちゃんに見せてもらった地図に、そんな所はあっただろうか。
 そう思って僕は一度周りを見渡す。すでに先の道は存在せず、店通りでも無くなっていた。かわりに、僕の身長の数倍の高さの壁、最初の堀の高さくらいの壁、そしてその壁を遥かに見下ろす、

 城がただ、そびえ立っていた。

 例の中央の城である。

 ……えーっと、確か城の名前があったはずだ。シリアちゃんに教えてもらったハズなんだけれど、あー、なんだっけ?まずい、思い出せない。断片すら出てこない。いや、そもそもそんな話してたっけ?あー自分の愚かさが恨めしい。

「おい!お前!聞いているのか?!」

 僕は再度呼びかけられたので、その相手をしっかりと認識する。手には槍を、体には『超越』のシンボルマークが描かれた鎧、そして全身から滲み出る、いや滲み出させている、威圧感のようなモノ。

 それは、戦士とも不審者とも形容できず、その中間にある存在。

 つまりは、この世界観に合わせていうのなら、衛兵、兵士、守衛、だ。

 ん?待てよ。僕、衛兵でもなんでもそういうのに今見つかるのって非常にまずいんじゃないか?だって、今の僕って身ぐるみがなくて、ここに住んでるわけでもなくて、知り合いだってシリアちゃんだけだしシリアちゃんにこれ以上迷惑かけるわけにもいかないし、だから僕には今頼れる人がいない訳だしつまり――――

 衛兵は応答しない僕に苛立ったように続ける。

「お前、名前は何だ。いや、やっぱりいい。入国許可証と滞在許可証を見せろ。」

 僕は答える。
「えーっとその、持ってないです。今。」
「そうか、では宿はどこだ。そこへこいつをついて行かせる。着いたらこいつに見せろ。」
 と言って、隣にいた若い衛兵がこちらを見る。いることに全く気づかなかった。少々びっくり。

 僕は質問する。
「あの、それって拒否したらどうなるんですか?」
 それを聞いた僕に呼びかけた衛兵は悪みの含んだ笑みを浮かべ、答える。
「なに、すこし話をしてから、ここを出て行ってもらうだけよ。不法入国、不法滞在は大罪だからな!」
 と、大袈裟にいった。……っておい、犯罪なのかよ、シリアちゃんはそんなことおくびにも出さなかったぞ。

 まったく、なんでこうも僕はこういうのによく絡まれるんだ?(身の回りの安全を確保してくれている偉大な人々をこういうの扱いとはどうとは思うが)そんなに僕って危険人物に見えるのか?

 ……あぁいや、違うのか。

 そういえば、僕は罪人だった。

 さすがに脳みそがスポンジケーキ並みにスッカスカの甘々でも、こればっかりは忘れちゃいけないんだ。
 いや、忘れたくても、忘れられないのか。
 なんだかそう言ってみたらロマンチックなジョークにも聞こえるが、実際はドロドロネトネトとした半分吐瀉物みたいなものだ。

 思い出の定義が忘れられない過去なんだとしたら、僕のこれも思い出になるのだろうか。僕の過去は辛い経験と、嫌な体験と、最悪な不運に満ちているけれど、それらを合算して融合して結合して、その果てにあるものを思い出と呼ぶのだろうか。

 思い出とは、楽しさとか嬉しさとかだけで構成されているのだろうか。
 僕の過去には、楽しさ嬉しさ喜ばしさなど、あっただろうか。
 僕に、かけがえのない過去なんてあっただろうか。
 僕の過去ってなんだっけ…………

「………あっ。」

 ふと意識せず声が漏れる。嫌な過去に身を引き摺り下ろそうとしたため、それに抵抗するように出した声。衛兵の彼らはそれに反応する。

「どうした。まさか、宿なんて取ってなかったのか?そうかそうか、だったら別のところで話を聞かねばなぁ。俺は犯罪者は嫌いだが、正直者は好きだぞ?」
「あぁ、いえ。なんでもありませんよ。宿は第三地区にあります。こっちです。」

 僕に呼びかけた方の衛兵は、ふんと鼻を鳴らして不満さをアピールする。そして若い衛兵に僕についていくように支持する。若い衛兵は、何も言わずただ僕についてきた。しかし、その目つきは僕に呼びかけたよく喋る衛兵よりずっと厳しい。

 しかし、一人でついてきたのが運の尽きだろう。
 そう、僕の逃走作戦はすでに始まっているのだ。
 そして僕は、どこの宿へ行くでもなく、ただ適当に、まるで道をよく知っているかの如く、最初のように歩き回っていた。

 たまに、若い衛兵に「このあたりのいいスポットはありますか?」とか「この国はどういうシステムで動いてるんですか」とか聞きながら。話しかけながら。

 ……全部ことごとく無視されたけど。

 そして、それなりに歩いて、見ず知らずの全く関係のない宿っぽいところに着いて僕はこう言った。

「衛兵さん。ここが僕の宿まっている宿ですよ。ちょっと荷物を取ってくるので待っていてください。」
 衛兵は頷いて、宿の前に留まった。

 僕はといえば、この宿には縁もゆかりもかしわもないので、受付の人をほんの一瞥して、まるで図々しく、あたかも宿泊客であるかのように二階へ進む。

 そして、二階の部屋の一番奥。そこで足を止め、ドアノブに手をかけ、一捻りしてドアを開ける。
「うぉお?!え、誰?なんですか急に?!」
 あ、中に人がいた。幸いなことに男性だ。よかった。これで女の人だったりしたら、泡立あわたちちゃんに左手の薬指が取られてしまう。

 まぁ、人がいようと化け物がいようと怪異がいようと僕の作戦にはいたって関係ない。
 僕が用があるのはこの窓だ。

 そして僕はこの男を完全完璧に無視して、窓に向かって突進する。
 窓の近くまできて、僕は利き足の右足に思い切り力を込め、そして。

 体を丸めて、窓を突き破るジャンプを繰り出した。

 脇目に、男の唖然とする顔。

 後ろから、衛兵の駆けてくる足音。

 そしてすぐに、全身を襲う鋭痛。一応受け身は取ったのだが、2回から落ちるのは結構痛い。

 さて、こうしちゃいられない。僕は服についた砂を払うこともせず、走り出した。

 それにしても、本当にあの衛兵、僕のこと警戒してなかったんだな。怪しい人物なのは認めるけれど、警戒にも値しないとは結構傷つくぜ。

 ま、そんなんだからこうなるんだけどね。
 そして僕は路地裏を右往左往し、何度かガラクタやゴミに足を取られながら、やっとのことで通りに戻ることができ………なかった。

 路地裏の終着点。すぐそこにはたくさんの人々が天下の往来を闊歩している。

 しかし、僕の目の前に立ちはだかる人間が一人。

 そこにいたのは、先ほどの、若い衛兵だった。

「ふん。お前。油断屋なんだな。」
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