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嘘ばっかり
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「シルビィはミラン様にチョコレートあげないの?」
「なんで?」
「なんでって、貴方の婚約者でしょう」
友人の言葉に、シルビィは瞬いた。
この国では一年に一度感謝祭と呼ばれる行事がある。感謝祭では好きな人やお世話になった人にチョコレートを渡す伝統がある。ミランは律儀にも毎年チョコレートを贈ってくる。それに返したことはないが。まあ彼は、毎年大量のチョコレートを貰っているから私のチョコレートがなくても大して気にもしないはずだ。
学園の中では、カップルたちが浮足立っている。ちょっと騒がしくなるが、仕方ない。実際、お互いが相手を想い合ってプレゼントする姿は微笑ましい。私も早く恋人がほしいと切実に思う季節である。
友人が、恋人に手作りチョコレートを渡したいというので、私は学校の調理室で友人とチョコレートケーキを作っていた。勉強はできないが、料理なら多少自信があったので友人に教えていたのだ。
「そんなに冷たいと愛想つかされちゃうよ」
「願ったり叶ったりだけど」
「え?」
「…いやなんでも」
きょとん、と友人が首をかしげる。うまく聞き取れなかったようだ。別に不仲であると知られてもいいが、それはそれで面倒になるので、ほっと胸をなでおろす。
「感謝祭はお世話になった人にもあげていいんだよ?いつも勉強みてもらってるじゃん」
「いつもじゃない」
「駄々こねない!ミラン様に渡してきなさい!」
はい、と友人から綺麗に包み紙に入ったチョコケーキを渡される。思わず手を出して受け取った。私がお手本に作っていたケーキをラッピングしてくれたようだ。後片付けが終わってさっさと調理室から去る友人の背を見送って、シルビィはどうすることもできず佇んでいた。
「…どうしよう」
ひとり言が誰もいない調理室に響く。
確かに、ミランに時々勉強を教えてもらっていたのは事実だ。それのおかげもあってか、3年生になってシルビィはCクラスからBクラスにあがった。でも、今日この日にチョコレートを渡すなんて。まるで恋人みたいじゃないか。いや、一応婚約者だけどさ。
シルビィは項垂れていた重い頭を勢いよくあげた。考えても仕方にない。彼女は勇気を振り絞って、調理室を後にした。
「シルビィ、いつもありがとう」
いつものように図書室で、ミランはシルビィに会いに来た。いつも何かしら手にお菓子を持っているミランだが、今日はとびきり可愛くラッピングされた大きな箱を渡してきた。
「年々大きくなってないかしら」
「愛の大きさかな?」
「嘘ばっかり」
シルビィは照れくさそうに笑っていった。期待してはダメ…。そう頭ではわかっているのに、彼の言葉に素直に喜んでいる自分がいる。彼のことだ、今日だっていろんな人にチョコレートを渡しているはずだ。ミランが眉を顰めていたことにシルビィは気が付かなかった。
シルビィもカバンの中からラッピングしたチョコレートを取り出す。頭の中で少し葛藤して、後悔しないうちにと勢いよくミランに手渡した。
「毎年もらってばっかりだもの。美味しくなくてもちゃんと食べてね」
「もちろんだ。でもせっかく君が作ってくれたんだ。一生飾っておこうかな」
「馬鹿ね」
「君は特別だから。そりゃ馬鹿になるさ」
また!!息をするように甘い言葉を吐く男だ。次の日、砂糖の塊のような甘い言葉とともに、彼はちゃんと食べた感想をくれた。
「なんで?」
「なんでって、貴方の婚約者でしょう」
友人の言葉に、シルビィは瞬いた。
この国では一年に一度感謝祭と呼ばれる行事がある。感謝祭では好きな人やお世話になった人にチョコレートを渡す伝統がある。ミランは律儀にも毎年チョコレートを贈ってくる。それに返したことはないが。まあ彼は、毎年大量のチョコレートを貰っているから私のチョコレートがなくても大して気にもしないはずだ。
学園の中では、カップルたちが浮足立っている。ちょっと騒がしくなるが、仕方ない。実際、お互いが相手を想い合ってプレゼントする姿は微笑ましい。私も早く恋人がほしいと切実に思う季節である。
友人が、恋人に手作りチョコレートを渡したいというので、私は学校の調理室で友人とチョコレートケーキを作っていた。勉強はできないが、料理なら多少自信があったので友人に教えていたのだ。
「そんなに冷たいと愛想つかされちゃうよ」
「願ったり叶ったりだけど」
「え?」
「…いやなんでも」
きょとん、と友人が首をかしげる。うまく聞き取れなかったようだ。別に不仲であると知られてもいいが、それはそれで面倒になるので、ほっと胸をなでおろす。
「感謝祭はお世話になった人にもあげていいんだよ?いつも勉強みてもらってるじゃん」
「いつもじゃない」
「駄々こねない!ミラン様に渡してきなさい!」
はい、と友人から綺麗に包み紙に入ったチョコケーキを渡される。思わず手を出して受け取った。私がお手本に作っていたケーキをラッピングしてくれたようだ。後片付けが終わってさっさと調理室から去る友人の背を見送って、シルビィはどうすることもできず佇んでいた。
「…どうしよう」
ひとり言が誰もいない調理室に響く。
確かに、ミランに時々勉強を教えてもらっていたのは事実だ。それのおかげもあってか、3年生になってシルビィはCクラスからBクラスにあがった。でも、今日この日にチョコレートを渡すなんて。まるで恋人みたいじゃないか。いや、一応婚約者だけどさ。
シルビィは項垂れていた重い頭を勢いよくあげた。考えても仕方にない。彼女は勇気を振り絞って、調理室を後にした。
「シルビィ、いつもありがとう」
いつものように図書室で、ミランはシルビィに会いに来た。いつも何かしら手にお菓子を持っているミランだが、今日はとびきり可愛くラッピングされた大きな箱を渡してきた。
「年々大きくなってないかしら」
「愛の大きさかな?」
「嘘ばっかり」
シルビィは照れくさそうに笑っていった。期待してはダメ…。そう頭ではわかっているのに、彼の言葉に素直に喜んでいる自分がいる。彼のことだ、今日だっていろんな人にチョコレートを渡しているはずだ。ミランが眉を顰めていたことにシルビィは気が付かなかった。
シルビィもカバンの中からラッピングしたチョコレートを取り出す。頭の中で少し葛藤して、後悔しないうちにと勢いよくミランに手渡した。
「毎年もらってばっかりだもの。美味しくなくてもちゃんと食べてね」
「もちろんだ。でもせっかく君が作ってくれたんだ。一生飾っておこうかな」
「馬鹿ね」
「君は特別だから。そりゃ馬鹿になるさ」
また!!息をするように甘い言葉を吐く男だ。次の日、砂糖の塊のような甘い言葉とともに、彼はちゃんと食べた感想をくれた。
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