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庭園造り
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「奥様、おはようございます」
侍女のカロラインの声に、ウェンディは目を覚ました。
奥様と呼ばれることにも慣れてきたこの頃、ウェンディは、カロラインに朝の挨拶をすると、ぐっと腕を伸ばして、身体をおこした。カロラインは、ウェンディが今日着る服の準備をしてくれている。
ドレッサーの前の椅子に腰をかけると、カロラインが手慣れた手つきで髪を整えてくれた。身支度をする間に彼女と話しをするのが、ウェンディは好きだった。この屋敷には、本当に娯楽がないのだ。
オルガの乳母でもあったというカロラインは、シャルナーク家の昔の話や、オルガやユリウスの話をたくさんしてくれた。ウェンディには母親がいないが、カロラインは母親のような温かさを持つ人で、ウェンディもすぐに打ち解けた。
「このお屋敷は、前は素晴らしい庭園があったのですけどね」
「そうだったの?」
「ええ、ユース様の奥様はお花が好きで、自らお花のお手入れをするような方でした」
今では、そのガーデンは草木だけになっている。手入れはされているが、色鮮やかな美しい庭園という感じではない。この屋敷で花を愛でる人がいなくなったからだろう。
「オルガ様は、お花がお嫌いなの?」
「いえ、そんなことはないと思います。ただ、お屋敷に戻ってからは色々なことが立て込んで、庭園まで手が回らなかったのだと思います」
よし。お花がいっぱいの庭園を造ろう。
実は、ウェンディの夢の一つに、お花を育てることがあったのだ。当然、王宮にいたころは外出禁止令が出ていたから、小さな植木鉢で育てていた頃もあったのだが、せっかくなら大きくてすごい花畑を作りたかったのだ。よし頼みに行こう、とウェンディの決意はすぐに固まった。
何かひと悶着あるかしら、と思っていたのだが、庭園の許可はあっさり下りた。拍子抜けするくらいに。オルガは基本的にウェンディに無関心であるため、そのせいかもしれないが。
ということで、ウェンディはさっそく農作業をするために軽装に着替えた。侍女のカロラインは奥様がする格好ではないと顔を青ざめていたが、ウェンディに貴族の常識は通用しないのだ。彼女は箱入りの聖女であるのだから。
庭園を造ろうという話をすると、ユリウスもついてきてくれた。ユリウスの実の母はマーガレットが好きだったようで、それを見てみたいと言っていた。フィリスやカロラインの助けもあって、養分がたっぷり入った土と、いろいろな種類の花の苗が手に入った。庭の手入れをしてくれる専属の庭師も用意してくれて、準備は万端だ。
まずは、構想から。ユリウスがお花のアーチが欲しいというので、それを入れる。ウェンディはせっかくならお花を見ながらご飯を食べれたらいいなと思って東屋を構えることとなった。
ユリウスやウェンディの主導のもと、それぞれの花の配置が決まってきた。意外にも、花の配置を工夫してハートマークを作ってはどうかと提案したのはカロラインであった。即採用した。
一週間かけて庭師や侍女の意見を募りながら構想を練り、一週間かけて必要な資材を入手し、一か月かけて庭ができあがった。
つまり、へとへとである。
いや、甘く見ていたわけではないのだが、なにぶんこの屋敷は広すぎた。植えるのなら自分の手で植えてみたくて、侍女や庭師の力を借りてはいたが、思ったより時間がかかったのだ。
やっている間は夢中で楽しさのあまり疲れを感じなかったのだが、終わってみれば疲れがどっと押し寄せてきた。しかも、夏に向けて気温もだんだん高くなっていたため、引きこもりの聖女にとっては命がけだった。ユリウスも引きこもり仲間であったため、同じようにくたくたになっていた。
「楽しみですね!ウェンディ」
「そうね。ユリウス」
2人は、土まみれの似たような顔をして、花が見事に満開になった庭園を想像して笑った。
侍女のカロラインの声に、ウェンディは目を覚ました。
奥様と呼ばれることにも慣れてきたこの頃、ウェンディは、カロラインに朝の挨拶をすると、ぐっと腕を伸ばして、身体をおこした。カロラインは、ウェンディが今日着る服の準備をしてくれている。
ドレッサーの前の椅子に腰をかけると、カロラインが手慣れた手つきで髪を整えてくれた。身支度をする間に彼女と話しをするのが、ウェンディは好きだった。この屋敷には、本当に娯楽がないのだ。
オルガの乳母でもあったというカロラインは、シャルナーク家の昔の話や、オルガやユリウスの話をたくさんしてくれた。ウェンディには母親がいないが、カロラインは母親のような温かさを持つ人で、ウェンディもすぐに打ち解けた。
「このお屋敷は、前は素晴らしい庭園があったのですけどね」
「そうだったの?」
「ええ、ユース様の奥様はお花が好きで、自らお花のお手入れをするような方でした」
今では、そのガーデンは草木だけになっている。手入れはされているが、色鮮やかな美しい庭園という感じではない。この屋敷で花を愛でる人がいなくなったからだろう。
「オルガ様は、お花がお嫌いなの?」
「いえ、そんなことはないと思います。ただ、お屋敷に戻ってからは色々なことが立て込んで、庭園まで手が回らなかったのだと思います」
よし。お花がいっぱいの庭園を造ろう。
実は、ウェンディの夢の一つに、お花を育てることがあったのだ。当然、王宮にいたころは外出禁止令が出ていたから、小さな植木鉢で育てていた頃もあったのだが、せっかくなら大きくてすごい花畑を作りたかったのだ。よし頼みに行こう、とウェンディの決意はすぐに固まった。
何かひと悶着あるかしら、と思っていたのだが、庭園の許可はあっさり下りた。拍子抜けするくらいに。オルガは基本的にウェンディに無関心であるため、そのせいかもしれないが。
ということで、ウェンディはさっそく農作業をするために軽装に着替えた。侍女のカロラインは奥様がする格好ではないと顔を青ざめていたが、ウェンディに貴族の常識は通用しないのだ。彼女は箱入りの聖女であるのだから。
庭園を造ろうという話をすると、ユリウスもついてきてくれた。ユリウスの実の母はマーガレットが好きだったようで、それを見てみたいと言っていた。フィリスやカロラインの助けもあって、養分がたっぷり入った土と、いろいろな種類の花の苗が手に入った。庭の手入れをしてくれる専属の庭師も用意してくれて、準備は万端だ。
まずは、構想から。ユリウスがお花のアーチが欲しいというので、それを入れる。ウェンディはせっかくならお花を見ながらご飯を食べれたらいいなと思って東屋を構えることとなった。
ユリウスやウェンディの主導のもと、それぞれの花の配置が決まってきた。意外にも、花の配置を工夫してハートマークを作ってはどうかと提案したのはカロラインであった。即採用した。
一週間かけて庭師や侍女の意見を募りながら構想を練り、一週間かけて必要な資材を入手し、一か月かけて庭ができあがった。
つまり、へとへとである。
いや、甘く見ていたわけではないのだが、なにぶんこの屋敷は広すぎた。植えるのなら自分の手で植えてみたくて、侍女や庭師の力を借りてはいたが、思ったより時間がかかったのだ。
やっている間は夢中で楽しさのあまり疲れを感じなかったのだが、終わってみれば疲れがどっと押し寄せてきた。しかも、夏に向けて気温もだんだん高くなっていたため、引きこもりの聖女にとっては命がけだった。ユリウスも引きこもり仲間であったため、同じようにくたくたになっていた。
「楽しみですね!ウェンディ」
「そうね。ユリウス」
2人は、土まみれの似たような顔をして、花が見事に満開になった庭園を想像して笑った。
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