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憧れの先輩に印を付けられて一生離れられないくらい愛される話
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「……っ、……ん」
泥のような微睡みから意識が浮上し、重い瞼がゆっくりと持ち上がる。未だ朦朧とした頭で周りを見回せば、閉じたままのカーテンの隙間から光の筋が伸びていた。いつから気を失っていたのかも、どれくらい寝ていたのかも分からない。隣を見ても、先輩の姿はどこにも見当たらなかった。
軋む下半身を庇いながら身を起こし、毛布を羽織ってベッドから降りる。身体は痛むものの、不快感は残っていない。事後の記憶はおぼろげにしか思い出せない。優しく身体を洗われ温かな湯に浸かった時のふわふわとした感覚だけは妙に身体に残っていた。
ちょうど寝室から出ようとした瞬間、かちゃりと音を立てて扉が開いた。
「おはよう、佐倉」
「……おはよう、ございます」
扉の向こうから、マグカップを両手に持った先輩が顔を出した。昨晩の様子は既に影も形もなく、髪や服は全て小綺麗に整えられている。
「まだ寝てても良かったのに。身体も痛むだろうし」
「……さむかったので、先輩をさがしてました」
「ふふ、ごめんね。身体が冷えるといけないから、とりあえずこれ飲んで」
手渡されたホットココアは白い湯気を立てていた。じわりとした熱が少し冷えた指先を温める。ベッドに腰掛け、人肌程度の温度に落ち着いたそれを口に含むと、ほんのりとした甘さと温かさが全身に染み渡った。
「せんぱい、あったかい……」
ようやく隣に戻って来た温もりにそっと凭れ掛かる。ふと視線を向けると、服の隙間から覗く肩口には薄らとした歯形や赤い跡が浮かび上がっていた。
「あの、これ……痛くない、ですか?」
「大丈夫だよ。傷にはなってないから、すぐに消える」
彼は特に気にした様子もなくマグカップを傾けている。どうにも居た堪れない心地になり、そっと首筋に触れるだけの口づけを落とした。この人に跡を付けることができるのは自分だけなのだ、という仄暗い優越感が罪悪感に混じって密かに頭をもたげる。
「……そんなに気に入った?」
勢いよく顔を上げると、緩やかに細められた瞳と視線が交わった。あまりに分かりやすい行動だったと自覚し、頬が急激に熱を帯びる。縮こまった身体を抱き寄せられ、毛布ごとすっぽりと彼の腕の中に収められた。
「ねえ、佐倉。手、ちょっと貸して」
手に持っていたマグカップを取られ、代わりに両手を軽く握られる。よく分からずに手を開いて彼の好きなようにさせていると、ひやりとした感触が薬指に伝わった。
「っ、あ……」
気がつけば指の付け根にはシンプルな銀色の指輪があった。いつの間に測ったのか、少しの隙間も無くぴたりと指に嵌っている。
「これなら時間が経っても消えないから。恋人の印、もらってくれる?」
重ねられた手には同じ意匠の指輪が着けられていた。ささやかな光を放つそれは、肌にしっくりと馴染んでいながらも確かな存在感を主張している。
「駄目だった?」
俯いた顔を覗き込むように首を傾げられる。穏やかだが射抜くように真っ直ぐな瞳に見つめられ、喉から掠れた音が鳴った。
「……だめじゃ、ない、です」
嬉しい、と小さく呟けば、先輩は満足げに微笑んだ。両手で頬を包まれ、耳の後ろを軽く擽られる。面映ゆさに思わず目を瞑ると、唇に柔い熱が触れた。
「……ッ、んぅ、……ふ、ぁ」
啄むような口づけが何度か落とされ、とうに静まったはずの熱が再び腰の奥に燻り始める。縋りつくものが欲しくて彼の首に手を伸ばすと、小さな笑みが唇の表面を掠めた。
「これでもう俺が傍に居なくたって、誰にも盗られないよね」
「……こんな身体にしておいて、今更何言ってるんですか」
「ふふ、確かに……ごめんね」
不服の意を込めて目の前の身体を軽く小突くと、彼は滑らかな笑い声を立てた。
毛布の裾から入り込んだ手に臍の周りをくるりと撫でられる。指先が太腿の内側をなぞり、脚の付け根の際どい部分を這うだけで、堪え切れない声が唇の隙間から漏れて落ちた。
「頭から爪先まで、全部責任は取るから……ずっと一緒に居てくれる?」
小さく跳ね続ける腰にするりと手が添えられる。優しく、しかし決して逃げることはできないほどの力が込められ、互いの体温が肌を伝った。全身が熱くて仕方がないのに、先輩の腕の中に閉じ込められるのはひどく心地が良い。
「おれ、も……すきです、せんぱい……ずっと、傍にいます……」
混ざり合った温もりが身体の境界を曖昧に溶かしていく。一切の音が消え、熱に浮かされた意識の中、そっと指輪を嵌めた手を口元に寄せた。
泥のような微睡みから意識が浮上し、重い瞼がゆっくりと持ち上がる。未だ朦朧とした頭で周りを見回せば、閉じたままのカーテンの隙間から光の筋が伸びていた。いつから気を失っていたのかも、どれくらい寝ていたのかも分からない。隣を見ても、先輩の姿はどこにも見当たらなかった。
軋む下半身を庇いながら身を起こし、毛布を羽織ってベッドから降りる。身体は痛むものの、不快感は残っていない。事後の記憶はおぼろげにしか思い出せない。優しく身体を洗われ温かな湯に浸かった時のふわふわとした感覚だけは妙に身体に残っていた。
ちょうど寝室から出ようとした瞬間、かちゃりと音を立てて扉が開いた。
「おはよう、佐倉」
「……おはよう、ございます」
扉の向こうから、マグカップを両手に持った先輩が顔を出した。昨晩の様子は既に影も形もなく、髪や服は全て小綺麗に整えられている。
「まだ寝てても良かったのに。身体も痛むだろうし」
「……さむかったので、先輩をさがしてました」
「ふふ、ごめんね。身体が冷えるといけないから、とりあえずこれ飲んで」
手渡されたホットココアは白い湯気を立てていた。じわりとした熱が少し冷えた指先を温める。ベッドに腰掛け、人肌程度の温度に落ち着いたそれを口に含むと、ほんのりとした甘さと温かさが全身に染み渡った。
「せんぱい、あったかい……」
ようやく隣に戻って来た温もりにそっと凭れ掛かる。ふと視線を向けると、服の隙間から覗く肩口には薄らとした歯形や赤い跡が浮かび上がっていた。
「あの、これ……痛くない、ですか?」
「大丈夫だよ。傷にはなってないから、すぐに消える」
彼は特に気にした様子もなくマグカップを傾けている。どうにも居た堪れない心地になり、そっと首筋に触れるだけの口づけを落とした。この人に跡を付けることができるのは自分だけなのだ、という仄暗い優越感が罪悪感に混じって密かに頭をもたげる。
「……そんなに気に入った?」
勢いよく顔を上げると、緩やかに細められた瞳と視線が交わった。あまりに分かりやすい行動だったと自覚し、頬が急激に熱を帯びる。縮こまった身体を抱き寄せられ、毛布ごとすっぽりと彼の腕の中に収められた。
「ねえ、佐倉。手、ちょっと貸して」
手に持っていたマグカップを取られ、代わりに両手を軽く握られる。よく分からずに手を開いて彼の好きなようにさせていると、ひやりとした感触が薬指に伝わった。
「っ、あ……」
気がつけば指の付け根にはシンプルな銀色の指輪があった。いつの間に測ったのか、少しの隙間も無くぴたりと指に嵌っている。
「これなら時間が経っても消えないから。恋人の印、もらってくれる?」
重ねられた手には同じ意匠の指輪が着けられていた。ささやかな光を放つそれは、肌にしっくりと馴染んでいながらも確かな存在感を主張している。
「駄目だった?」
俯いた顔を覗き込むように首を傾げられる。穏やかだが射抜くように真っ直ぐな瞳に見つめられ、喉から掠れた音が鳴った。
「……だめじゃ、ない、です」
嬉しい、と小さく呟けば、先輩は満足げに微笑んだ。両手で頬を包まれ、耳の後ろを軽く擽られる。面映ゆさに思わず目を瞑ると、唇に柔い熱が触れた。
「……ッ、んぅ、……ふ、ぁ」
啄むような口づけが何度か落とされ、とうに静まったはずの熱が再び腰の奥に燻り始める。縋りつくものが欲しくて彼の首に手を伸ばすと、小さな笑みが唇の表面を掠めた。
「これでもう俺が傍に居なくたって、誰にも盗られないよね」
「……こんな身体にしておいて、今更何言ってるんですか」
「ふふ、確かに……ごめんね」
不服の意を込めて目の前の身体を軽く小突くと、彼は滑らかな笑い声を立てた。
毛布の裾から入り込んだ手に臍の周りをくるりと撫でられる。指先が太腿の内側をなぞり、脚の付け根の際どい部分を這うだけで、堪え切れない声が唇の隙間から漏れて落ちた。
「頭から爪先まで、全部責任は取るから……ずっと一緒に居てくれる?」
小さく跳ね続ける腰にするりと手が添えられる。優しく、しかし決して逃げることはできないほどの力が込められ、互いの体温が肌を伝った。全身が熱くて仕方がないのに、先輩の腕の中に閉じ込められるのはひどく心地が良い。
「おれ、も……すきです、せんぱい……ずっと、傍にいます……」
混ざり合った温もりが身体の境界を曖昧に溶かしていく。一切の音が消え、熱に浮かされた意識の中、そっと指輪を嵌めた手を口元に寄せた。
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