憧れの先輩にお持ち帰りされて両想いになるまで快楽責めされる話

辻河

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憧れの先輩に印を付けられて一生離れられないくらい愛される話

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「ねえ、S社の新しい営業の人、見た?」
「見た見た!超かっこよかったよね……綺麗な顔だけどちょっと影があって」
「わかる!話す声とかも穏やかで落ち着いてて何か雰囲気あるんだよね」

 蛍光灯に照らされた廊下を歩いていると、女子社員の賑やかな声が聞こえてきた。休憩がてら自動販売機で飲み物を買いながら聞き耳をたてる。どうやら取引先の社員について噂をしているらしい。良くないことだと分かっていても、なぜか耳が二人の会話に向いてしまう。

「一度でいいから一緒に食事とかしてみたいなあ」
「いや、流石に恋人が居るでしょ。そもそも難攻不落って感じが滲み出てたし」
「えー、でもあの人指輪とか付けてなかったよ」

 一列に並んで光るボタンの中から、ボトルコーヒーのボタンを選んで押す。しばらくして、がこ、と自動販売機取り出し口から鈍い音が響いた。身を屈めてコーヒーを取り出す間も和気あいあいとした会話は飽くことなく続いているようだった。
 他愛のない話に過ぎないはずなのに、やけに耳に残って離れない。そのまま立ち去る気にもなれず、買ったコーヒーのパッケージをぼんやりと眺めながら噂の渦中の人物について思いを巡らせてみた。
 綺麗で、落ち着いていて、どこか影のある人間。同じような風聞が以前にも耳を掠めたような気がする。彼は自分の知っている人物にどことなく似ているようだ。パッケージの印刷に視線を落としながら、記憶の底からその人物の面影を手繰り寄せる。

佐倉さくら
「うわ、……っ!?」

 思考の海に沈み込む寸前、意識の隙を突くように名前を呼ばれて肩が跳ね上がる。咄嗟に声の方を振り返ると、すぐ後ろには見慣れた人物が立っていた。

「何、そんなに驚いて」
「……び、っくりしました……」

 心臓がばくばくと音を立てる。洗練された格好に、涼しげな印象の容貌。ほんの少し前まで思い出していた人間、ここには居るはずのない人間がいつの間にか自分のすぐ傍に佇んで、じっとこちらを見ていた。

「何でここに居るんですか、せんぱ……っ、柊木ひいらぎさん」
「今日はたまたま営業で挨拶に来ただけだよ」

 そう言って柊木は名刺を差し出した。彼がS社に勤めていること、S社が自分の勤める会社の得意先の一つであることは前々から知っていた。しかし、まさか彼がここに来るとは思ってもみなかった。あの噂の人物は、彼に似た人間どころか彼自身だったらしい。

「佐倉は休憩中だったの?」
「え、あ……はい、でもすぐに戻ります」

 未だ理解の追いつかない頭で、渡された名刺に手を伸ばす。何となく理解はできたものの指先が白い紙の端に触れた瞬間、目の前に居た彼の手が自分の手を包み込んだ。突然訪れた柔らかい肌の感触に、ぴくりと身体が震える。

「俺も仕事があるから……また後でね」
「……っ、はい」

 重なり合った手は微かな温もりを残してすぐに離れる。こちらの胸中など露知らずといった様子で、すぐさま彼は踵を返して立ち去っていった。
訳が分からない。何となく理解はできたものの、感情が追いついていないと言った方が正しいのだろうか。手の中に残された名刺をじっと観察しても、心の乱れが落ち着くことは全くなかった。
 すぐに消えた彼とは違い、道標のように残っているそれをポケットの奥にしまい込む。ふと辺りを見回すと、廊下に居た他の社員が面食らったように皆立ち尽くしていた。口を半ば開いたまま、まるで得体の知れないものでも見たかのように、強張った顔でこちらを呆然と見ている。
 これは厄介なことになったかもしれない。例の好男子に声をかけられる奴が居るなんて、と言わんばかりに周囲の視線が痛いほど突き刺さる。早く戻らないと、このままでは仕事どころの騒ぎではなくなってしまう気がする。何とも言えない気まずさに気圧され、まだ開けてすらいないペットボトルを手に持ち足早にその場を立ち去った。



 自分の部署へと逃げ帰り、残っていた仕事を無心で片付けているうちに、気づけばあっという間に定時を迎えていた。幸いなことに急ぎの案件は全て済ませてある。今日は早々に帰れそうだ。机上を整理し、荷物を纏めていると、不意に隣の席の同僚に声をかけられた。

「佐倉、今日うちに来てた営業の人ってお前の知り合い?」
「……そう、だけど」

 考えないように頭の隅に押し退けていた話題が再び目の前にそびえ立つ。動揺を隠しきれずに口籠ると、同僚はそれを察したのか申し訳なさそうに軽く肩を竦めてみせた。

「ああ、その事をとやかく聞きたい訳じゃなくて……ただ、そいつ目当ての社員がお前を探してこのフロアに来てるぞ」
「え!?あ……確かに、いつもより人がたくさん居る、かも」

 そう言いながら彼は周囲を見渡すように顔を動かす。同じように辺りを見回すと、なるほど確かに普段よりも部屋全体が賑やかな気がする。見慣れない人々がこちらをちらちらと窺っているようで、フロア全体がどことなく雑然としている。

「こんなに人が来るなんて、いったい何したんだ」
「いや……大学の先輩だったから、たまたま会って挨拶しただけ」

 このままでは帰ることすらままならない。しかし、どうすればこの場を穏便に切り抜けられるか見当もつかない。同僚は怪訝そうに目を細めてこちらを見ていたが、やがて諦めがついたのか小さくため息をついた。

「まあいい、見つかる前にさっさと帰ろう。一人よりも二人で出た方がやり過ごしやすいだろう」
「あ、ありがとう」

 促されるまま、上着と鞄を手に取って立ち上がる。二人並んで足早にフロアを後にし、廊下に集まった人々には目もくれず急いでエレベーターに乗り込んだ。運よくエレベーターはすぐに玄関に辿り着いた。誰かに待ち伏せされたり囲まれたりするような事態にも見舞われず、無事会社を出ることができた。

「助かった……この件は後でちゃんとお礼するから」
「ん、今度何か奢ってくれ」

 軽く手を振り、同僚はこちらに背を向けた。通りに消えていく背中をひとしきり見送った後で、自分も家路に就くべく歩き始める。街灯の白みを帯びた光が夜道を冷え冷えと照らし、乾いた石畳の上を革靴の底が擦る音だけが静かに響いていた。
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