乳首イキなんてファンタジーに決まってる!

辻河

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「ねえ、こうくん」

 こんな風に彼が名前を呼んでくる時は、必ず面倒なことが起こる。

「乳首イキって本当だと思う?」
「……いきなり何言ってるんですか、光希みつきさん」

  呆れた表情も意に介さず、目の前の恋人は手元のスマートフォンをこちらに向けた。画面にはいかにも胡散臭いネット記事が表示されている。

「夢見ないでください。そんなのファンタジーか演技に決まってますよ」
「そう?試してみないと分からないよ」

 ぽんぽん、と自分の膝を叩いて、彼はそこに座るように促してくる。穏やかだが射抜くような視線は、いつだってこちらには拒否権はないのだと告げている。

「ね、お願い」
「……ほんの少しだけなら」

 抵抗しても無駄ということはもう分かっている。大人しく従った方が早く済むということも。観念したように腰を下ろすと、背後から小さく楽しげに笑う声が降りかかった。

「ふふ、ありがとう。優しくするから」

 力を抜いて楽にしてていいよ、という言葉とともに、するすると手がシャツの上を滑っていく。胸全体を包み込むように優しく揉み込まれるが、ただ触られているという感覚しかない。しばらくそうしていたかと思うと、乳輪を指先でなぞるように撫でられる。

「何か感じる?」
「特に何も」

 ただ長い指が身体の上を滑っていくだけだ。素直に答えると、彼は少し考え込んだ後、おもむろに下腹部に手を伸ばした。衣服の上から性器を触れられ、思わず肩が小さく跳ねる。

「は、何して……?」
「一緒に刺激すると気持ちよくなれるって聞いたことあるから」

 だから試してみよう、と耳元で囁かれる。ゆっくりと形を確かめるように包み込まれると、じわりと甘い痺れが広がった。すり、すり、と焦らすように身体の中心を撫でられ、少しずつ息が上がっていく。

「……っ」

 いつの間にか服の中へ入り込んだ手が、触れるか触れないかという力加減で胸元を這い回る。指の腹でそっと撫でるように触れられる度にぞわぞわとした感覚が背筋を走る。

「気持ちよくなってきた?」
「わ、からない……です」
「でも腰が動いてる」
「それ、は……あんたが下も触るから……!」

 直接的な刺激を与えられれば生理的に反応してしまうのは仕方ないことだ。布越しの緩やかな刺激に、少しずつ熱が集まっていくのが分かる。身体の内側を炙るようにじわじわと高められていく快感は今まで味わったことのないもので、未知の感覚に戸惑うことしかできない。

「も、いいでしょ……そろそろ離してください」
「ん、もう少しだけ」

 くすぐったいようなもどかしいような感覚に眉を顰めていると、不意に胸の先端を指が掠めた。何度か指先で捏ねるように弄られているうちに、少しずつ芯を持ち始めていく。

「……ん、……っ?」

 少しずつ身体が作り替えられていくような感覚が不安を煽る。かりかりと爪の先で優しく引っ掻かれ、押し潰されては優しく撫で上げられる。最初は何ともなかったはずのその刺激が、繰り返されるうちに少しずつ別のものへとすり替わっていく。

「逃げちゃ駄目だよ」
「……ぅ、……!」

 違和感を振り払おうと身じろぎするが、後ろから抱きかかえられているせいでそれも叶わない。逃がしきれない熱に浮かされ、じわじわと思考が鈍っていく。
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