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※エミール視点



思った以上にすんなりと『俺が手伝う』という馬鹿げた提案に頷いてくれたアリシア。
それからというものの、次の例の日が早く来て欲しいような、まだ来て欲しくないような、そんな矛盾した感情に襲われていた。

(どうしたら良いんだろう、アリシアは初めてだし、覚悟をしているとはいえ突然触れられるのは怖いよな)

とはいえ今の俺達の関係で普通に愛撫など出来るはずもない。
政略結婚なのだから身体に触れる事に何の躊躇いがあるのかと思わないでもないが、初夜での自分の発言もある。
それを覚えているだろうから、アリシアも最初は俺ではなく医師に頼むのだと言っていたのだろう。

(いっそきちんと話し合って普通に身体を……)

そうも考えなくもないが、それこそありえないだろう。

アリシアにどう触れれば良いのか。
その前に俺は一人でしなければならないし、手伝うと言った手前俺がしっかりとリードして彼女の中にアレを入れなければならないのだがちゃんと出来るだろうか。
そもそも俺はアリシアに触れて我慢出来るのだろうか。

(……なんて考えている時点で、もう自分の気持ちをしっかり自覚するべきだな)

自分の気持ちは明らかにレイチェルからアリシアに移ってしまっている。

アリシアと過ごす内にどんどんと彼女に惹かれていった。
自分でも不思議なくらい、アリシアが嫁いできてからレイチェルの事を考えなくなっていて今ではすっかりアリシアの事しか考えられない。

レイチェルを好きだった気持ちは嘘じゃない。
本当に好きだったはずだ。
レイチェルだけを愛していると……

(そう思い込んでいただけなのかもしれないな)

淡い初恋。
幼いあの日に話した少女との思い出を忘れる事は出来ない。
レイチェルと過ごした日々の中で確かに彼女を大事にしたいとも思っていた。

けれどどう考えてもそれよりアリシアに抱いている気持ちの方が大きい。
今思えば長い間、手すら繋いだ事のない、ましてや自分にこれっぽっちも興味のない相手をよくもずっと想い続けていたものだ。

好きなのは好きだが、いざこうして自覚してみるとそれが恋だったのかどうかすらも怪しい。

(アリシアに伝えるべき、だよな)

初夜に放った自分の言葉は忘れて欲しいと。
今はアリシアに惹かれていてアリシアだけを想っているのだと。

気持ちを自覚すればする程、初夜での自分を殴り倒したくなってくる。
どの口が『愛する人がいる』『君を抱くつもりはない』だなんて言ったんだ。

どんなに後悔しようと頭を抱えようと過去は変えられないし口から出た言葉は取り消せない。
謝罪したところで信じてもらえないかもしれないし、信じてもらえたとして許してくれるのかどうかもわからないが伝えるべきだろう。

そう思いながらも言えずに時は経ち、日に日に近付く例の日に緊張してしまい、俺は普段ではやらないような失敗をしまくった。
父には『お前はいつからポンコツになったんだ?』と真顔で聞かれるし、母には『アリシアちゃんと何かあったのなら早急に解決しなさいね』なんてまるで何かに勘付いているような物言いに思わず怯んでしまった。
ポンコツなのは言われるまでもなくその通りなので素直に頭を下げた。


そして迎えた当日。

(……っ、この格好は……!)

まずはアリシアの格好に視線を奪われた。
普段は夜着の上から薄手のガウンを羽織っていたので気付かなかったが、無防備すぎる格好に無意識に喉が鳴る。

(まずは気持ちを伝えて、いや、それよりも急いだ方が良いのか?いやしかし何も言わずに触れるというのも……)

悶々と悩みつつアリシアを自分の前に座らせると、アリシアががちがちに緊張しているのがわかった。
当たり前だ、男の俺がこんなにも緊張しているのだから受け入れる側のアリシアが緊張しないはずがない。
ましてや触れられるのは初めてなのだから尚更だ。

(ひとまず緊張を解してからにするか)

そう思いアリシアの肩をマッサージしていく。
少しずつ力を抜き、時折り漏れる吐息に先走りそうになる自分を押さえる。

気持ちを伝えて話し合う。

そう決めていたはずなのに気が付けばあれよあれよと勝手に手が動いてしまい、気付けばアリシアのそこからは何とか入れた俺のものが溢れていてその姿に暴走しそうになる自分を、なけなしの理性でまたも制した。

(はあ、可愛すぎる)

アリシアの声も仕草も反応も何もかもが可愛すぎて堪らなかった。

『旦那様……っ』

触れた足は滑らかで弾力もあり、中に触れるとびくびくと反応して気持ち良さに戸惑いつつ漏れる声も震える身体も全てが可愛かった。
こっそりと盗み見た顔も真っ赤で瞳は潤み、何とか声だけでも我慢しようと口元に手を当てている仕草も堪らなかった。
本音を言うのなら後ろからではなく正面からじっくりと見たかった。

当然解散した後で眠れるはずもなく、妙に興奮して疲れているはずなのに目が冴えてしまった。

(アリシアはしっかり休めているだろうか)

休めていると良い。
昨日のうちにゆっくり休ませるようにとマーサに伝えておいたけれど、余計なお節介ではないと良い。

なんて考えると同時に、気持ちを伝えもせずコトに及んだ自分に盛大に頭を抱えた。

(俺は馬鹿か、馬鹿なのか)

思春期の青臭い子供でもあるまいし、好きな子を前にしてしたい話も出来ずにいるだなんて情けない。

(いや、絶対に伝えるぞ。こういうのは早い内にしないと拗れると相場が決まっているんだ)

アリシアに勧められて読んだ小説でも、自分達の気持ちを伝えずすれ違いが続き破局、またはその一歩手前まで陥った恋人や夫婦の話が多数あった。
それだけは避けたい。

言おう言おうと思い続け、結局言えずに時が過ぎてしまうのをこの時の俺はまだ知らない。




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