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しおりを挟む「……それで、一体何のつもりですか?」
移動して辺りに人気がない事を確認してから問う。
一応防音の魔法もかけておいた。
聞かれてまずい話かもしれないからね。
「何のつもりかだなんて、まるで裏があるみたいじゃないか」
心外だと言わんばかりの態度だが裏がなければこんな茶番ありえない。
「あんなの紹介されそうになって困っていただろ?下手すればもっと変なの紹介されていただろうし」
「ただ助けただけって事ですか?」
「そうは思えない?」
思えない。
私が魔法使いだと知っているという事は先程の会話でわかっているだろうからそれ絡みの頼みでもあるのだろうか。
でもこの人の国には城に専属の立派な魔法使いがいると聞いている。
こんな小国の、父母のように大魔法使いでもないただの魔法使いを助けても何のメリットもないと思う。
悶々と考え込んでいると。
「ふっ、それにしても、見た?あの花嫁さんの顔!!!何あれ王子が運命の人なんじゃなかったの?ふははっ!」
「……」
つい先程の彼女の顔を思い出して噴き出す王太子殿下。
美しい顔は大爆笑しても崩れないものなんだな。
むしろ笑うと人間味が増して良い感じ。
「彼女、中々タチが悪いね。さすがに結婚式当日に乗り換え検討するなんて思ってなかったよ」
ひーひー言いながら笑い続ける王太子殿下。
まるっと同意だがこれはそんなに笑える所だっただろうか。
「彼女を助けなければ良かったのにね」
「そんなところから聞いてたんですか?」
「俺が聞いたのは彼女の『紹介したらどうかしら?』とかいうふざけたセリフの辺りからだよ」
「?じゃあどうして私が助けたって……?」
「見てたんだ」
「え?」
「あの夜、俺もあの場にいたんだよ。王子達が二人で忍んでやってきた中庭にね」
「!!!」
あの日、あの夜。
『ああ、美しい人。俺はもう貴女の虜だ。どうか、俺と一生を共にしてくれないだろうか?』
『本当に?私で良いのですか?』
『貴女じゃないとダメだ。こんな風に胸が熱くなるのは初めてなんだ』
『っ、嬉しい……!』
誰もいない中庭、ライトに照らされた薔薇の下で両手を取り合い語り合う二人。
一応私も若い娘な訳で、パーティーには招待されていた。
彼女を見つけ無事に着けて良かったと思う反面、一緒にいるのが彼だと知りその場で固まってしまった。
彼が私に見せるものとは全く違う顔をしているのもショックだったし、興味ないなんて言っていたくせに彼に嬉しそうにしなだれかかる彼女にもショックを受けた。
あちらはライトで明るいが、こちらには三日月の僅かな明かりしか届かないような薄暗闇。
お互いの差がそんな所にも現れているようで、気付いたら目元が滲んでいたのを覚えている。
「ま、ま、まさか……」
見られていたのかあんな情けない姿を!?
「月夜の下で涙を堪える君は最高に美しかった。月の精が現れたのかと思ったよ」
「いやちょっと鳥肌立つんでやめて下さい」
「そう?彼が言いそうなセリフを選んだのに残念だなあ」
「確かに言いそうですけど……」
彼はそんな甘いセリフを私には言わない。
そういう甘いセリフは『彼女』のものだ。
「まあ冗談はさておき、あの時泣きそうな君を見て気になったのは確かだよ」
「え……?」
一瞬どきりとする。
気になったって……?
思わず王太子殿下の方に視線を戻し、じっと見つめる。
黄金の瞳がこちらを捉えふわりと細められ、鼓動が再び暴れ出しそうになったのだが。
「あんな奴じゃなくて俺が泣かせたいって思っちゃったんだよね」
「…………………………はい?」
思っていたのと違う。
そこは守りたいと思ったとか慰めたいと思ったとかじゃないのか???
泣かされたくないんですけど。
我ながらお偉いさんに向ける視線ではないなと思いつつもじとりとした目を向けてしまう。
「ふっ、魔法使いさんは随分と表情が豊かなんだな」
「!」
ふわりと微笑み手が伸びてくる。
長く綺麗で思ったよりも固い指先が頬に触れる。
こちらと同じようにまっすぐに見つめる瞳は未だ楽しそうに細められたまま。
いや、私の自惚れでなければそこには僅かではない愛おしさが滲んでいるような、いないような……
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