初恋の王子を奪われた魔法使いは隣国の王太子に攫われる

おこめ

文字の大きさ
上 下
3 / 4

3

しおりを挟む


「……それで、一体何のつもりですか?」

移動して辺りに人気がない事を確認してから問う。
一応防音の魔法もかけておいた。
聞かれてまずい話かもしれないからね。

「何のつもりかだなんて、まるで裏があるみたいじゃないか」

心外だと言わんばかりの態度だが裏がなければこんな茶番ありえない。

「あんなの紹介されそうになって困っていただろ?下手すればもっと変なの紹介されていただろうし」
「ただ助けただけって事ですか?」
「そうは思えない?」

思えない。
私が魔法使いだと知っているという事は先程の会話でわかっているだろうからそれ絡みの頼みでもあるのだろうか。
でもこの人の国には城に専属の立派な魔法使いがいると聞いている。
こんな小国の、父母のように大魔法使いでもないただの魔法使いを助けても何のメリットもないと思う。

悶々と考え込んでいると。

「ふっ、それにしても、見た?あの花嫁さんの顔!!!何あれ王子が運命の人なんじゃなかったの?ふははっ!」
「……」

つい先程の彼女の顔を思い出して噴き出す王太子殿下。
美しい顔は大爆笑しても崩れないものなんだな。
むしろ笑うと人間味が増して良い感じ。

「彼女、中々タチが悪いね。さすがに結婚式当日に乗り換え検討するなんて思ってなかったよ」

ひーひー言いながら笑い続ける王太子殿下。
まるっと同意だがこれはそんなに笑える所だっただろうか。

「彼女を助けなければ良かったのにね」
「そんなところから聞いてたんですか?」
「俺が聞いたのは彼女の『紹介したらどうかしら?』とかいうふざけたセリフの辺りからだよ」
「?じゃあどうして私が助けたって……?」
「見てたんだ」
「え?」
「あの夜、俺もあの場にいたんだよ。王子達が二人で忍んでやってきた中庭にね」
「!!!」

あの日、あの夜。

『ああ、美しい人。俺はもう貴女の虜だ。どうか、俺と一生を共にしてくれないだろうか?』
『本当に?私で良いのですか?』
『貴女じゃないとダメだ。こんな風に胸が熱くなるのは初めてなんだ』
『っ、嬉しい……!』

誰もいない中庭、ライトに照らされた薔薇の下で両手を取り合い語り合う二人。
一応私も若い娘な訳で、パーティーには招待されていた。
彼女を見つけ無事に着けて良かったと思う反面、一緒にいるのが彼だと知りその場で固まってしまった。
彼が私に見せるものとは全く違う顔をしているのもショックだったし、興味ないなんて言っていたくせに彼に嬉しそうにしなだれかかる彼女にもショックを受けた。

あちらはライトで明るいが、こちらには三日月の僅かな明かりしか届かないような薄暗闇。
お互いの差がそんな所にも現れているようで、気付いたら目元が滲んでいたのを覚えている。

「ま、ま、まさか……」

見られていたのかあんな情けない姿を!?

「月夜の下で涙を堪える君は最高に美しかった。月の精が現れたのかと思ったよ」
「いやちょっと鳥肌立つんでやめて下さい」
「そう?彼が言いそうなセリフを選んだのに残念だなあ」
「確かに言いそうですけど……」

彼はそんな甘いセリフを私には言わない。
そういう甘いセリフは『彼女』のものだ。

「まあ冗談はさておき、あの時泣きそうな君を見て気になったのは確かだよ」
「え……?」

一瞬どきりとする。
気になったって……?

思わず王太子殿下の方に視線を戻し、じっと見つめる。
黄金の瞳がこちらを捉えふわりと細められ、鼓動が再び暴れ出しそうになったのだが。

「あんな奴じゃなくて俺が泣かせたいって思っちゃったんだよね」
「…………………………はい?」

思っていたのと違う。
そこは守りたいと思ったとか慰めたいと思ったとかじゃないのか???
泣かされたくないんですけど。

我ながらお偉いさんに向ける視線ではないなと思いつつもじとりとした目を向けてしまう。

「ふっ、魔法使いさんは随分と表情が豊かなんだな」
「!」

ふわりと微笑み手が伸びてくる。
長く綺麗で思ったよりも固い指先が頬に触れる。
こちらと同じようにまっすぐに見つめる瞳は未だ楽しそうに細められたまま。
いや、私の自惚れでなければそこには僅かではない愛おしさが滲んでいるような、いないような……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?

下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。 異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者を奪われた少女は、王弟殿下に溺愛される

下菊みこと
恋愛
なんだかんだで大団円

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

ここへ何をしに来たの?

恋愛
フェルマ王立学園での卒業記念パーティ。 「クリストフ・グランジュ様!」 凛とした声が響き渡り……。 ※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しています。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...