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しおりを挟む※少しシンデレラパロディっぽい要素を含みます
「ありがとう、あなたのおかげよ!」
「君のおかげだ」
きらきらと輝く瞳に幸せそうな笑みを讃える唇。
彼の手は彼女の肩へ、彼女の手は彼の腰へ、その指先にはそれぞれ対の指輪が光っている。
義理の母と姉妹に虐められていた少女。
城の舞踏会にも参加出来ずに泣いていた少女に力を貸し、飾り付け、舞踏会へと送り出したのはつい先日の事。
王子様と出会い、恋に落ち、一度は途切れた糸が再びガラスの靴で結ばれ、今日は彼らの結婚式。
一国の王子様の結婚式なだけあって流石の規模だ。
国の貴族や市民はもちろん隣国の王侯貴族や遙か遠くの国の商人までいる。
街中はお祭り騒ぎで至る所に商店が出店を構えどこもかしこも笑顔で溢れ、自国他国問わず未婚の者は一様に出会いを求め目を輝かせている。
ただの魔法使いである私にとっては場違いすぎる空間。
「本当にありがとう」
「どういたしまして。でも本当に私なんかが式に参列して良かったの?」
「君は恩人なんだから当然さ」
にっこりと微笑むその瞳に、私への想いは微塵も感じられない。
(本当はこんな所に来たくなかった)
彼らに笑みを返しながら思うのはそんな事。
幼い頃、森で迷子になっている彼と出会ってからずっと彼の相談を聞いてきていた。
父親が厳しい、母親には甘えられない、王子としての責が彼の肩に重くのしかかっていた。
偉大な功績を残す魔法使いの両親の元へと生まれた私は同じく重圧に耐えられなくなっていた。
何でも出来る両親、その半分の実力もない私。
彼の気持ちが痛いくらいにわかる。
彼を慰め、自信を持たせ、共に成長し、共にお互いを見守ってきた。
『好きな人が出来た』
その告白を聞いた時、目の前が真っ暗になった。
どこの馬の骨かと思えば、育った環境は可哀想だが黄金の絹のような髪に爽やかで澄んだ青空の瞳、肌は陶器のような白さで驚く程滑らか。
容姿は花丸、磨けば輝くダイヤの原石のような少女。
対する私は両親譲りのくるくるの赤毛に地味な顔、肌も浅黒くちんちくりん。
何故私では駄目なのか聞く事すら憚られる程、私と彼女は差がありすぎた。
(相手があの時の子だったなんて)
あまりにも可哀想な境遇に同情してしまい助けた女の子。
それが彼の想い人だった。
一目惚れしたんだと。
そりゃそうだ、私の魔法ですごくすごく素敵になったんだから。
元々良かったのが更に良くなったんだから。
どうしても、一度だけでも良いから舞踏会に行きたい、王子様なんて興味ないって言ってたくせにちゃっかりと彼の心を掴むなんて。
こんな事なら手を貸さなければ良かった。
そうしたらまだ彼は私と一緒にいてくれたはずなのに。
「でもあの時の魔法使いさんがあなたのお友達だったなんて本当にびっくり!こんな事ってあるのね」
「俺だって驚いたさ、まさか出会いのきっかけをくれたのがこいつだったとは」
ああ、吐き気がする。
目の前でいちゃつきながら話さないで欲しい。
「でも私達ばっかり幸せで申し訳ないわ。そうだ!ねえ誰かを紹介したらどうかしら?」
は?
「それが良いわ!だって今日はたくさん人が来ているんだもの、きっと魔法使いさんに合った人がいるはずよ!」
いや、いやいやいやいやいやいやいや。
何を言ってるんだこの子は。
良い事を考えた!とばかりに両手を合わせて目を輝かせる花嫁に思考が停止する。
幸せで申し訳ない?
だったら今すぐ別れてその王子を私にくれよ。
誰かを紹介?
好きな人から誰かを紹介される程惨めな事はない。
「ほら、あの方とかあの方とか、お似合いじゃない?」
「あれは……」
彼女が指差した先にいたのは背が低くそばかすだらけの貧相な男。
もう一人はでっぷりとした体躯に禿げ散らかった頭の持ち主。
嫌がらせとしか思えない人選だ。
初めて会った時には気付けなかったが、この花嫁中々計算高い。
そしてプライドも高い。
私の同情を誘うような態度も計算。
それにまんまと騙されてしまったと気付いたのは彼女を紹介された時。
『ごめんなさいね、彼を取っちゃって』
彼に聞こえないようにそう囁いたその表情は、血の繋がりなどないのに彼女の義理の母親とそっくりだった。
意地の悪い笑みだ。
彼女は私が彼を好きだと気付いている。
彼から色々と話を聞いて、そして実際に私と再び会って確信したのだろう。
いつまで経っても彼は気付かないというのに、女の勘は鋭い。
見た目と同じく心根も美しい子だったら心から祝福出来たのに。
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