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プロローグ
しおりを挟む王都の片隅にひっそりと建つ一軒の食堂。
そこで貴族らしき身なりのいい男が、その店の看板娘の前に跪き、彼の瞳と同じ色の宝石が嵌められた指輪を差し出す。
ハッと息を呑む彼女。
「俺と結婚してくれないか」
彼女の顔に込み上げる喜びと溢れる笑み。
明らかに身分の差がある二人の恋路に、周りはついといった風に聞き耳を立て視線を向けている。
「喜んで!」
一瞬の沈黙の後に是の返事を出し彼に抱き付く彼女。
ヒューヒューと囃し立てる音と黄色い悲鳴。
照れ臭そうに周囲に応えながら、指輪を嵌める彼。
キレイ、と嬉しそうに呟く彼女。
どちらも芝居に出てきそうな美男美女で絵になるし、身分差を乗り越えてのプロポーズは暫く語り継がれる事だろう。
とても美しい瞬間だ。
今まさにこれから人生の一歩を踏み出そうとする二人を温かい拍手で祝福したい気持ちが溢れてくるはずだ。
そこで跪いて愛を囁いているのが、あと数ヶ月で結婚式を挙げる予定の私の婚約者でなければ。
「……はあああ」
婚約者が他の女にプロポーズをする瞬間を目撃してしまった私は大きな大きな溜め息を吐き出した。
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