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しおりを挟む「ではまた、明日」
「はい、ありがとうございました」
わざといつもよりもゆっくりめに歩いて部屋まで送ってもらい、ドアの前で別れる。
どう考えてもゆっくりな歩調に文句ひとつ言わないで、それどころか終始嫌な顔もせず付き合ってくれたアーノルドに惚れ直す。
騎士団の訓練場も教会も私達聖女が暮らす棟も全てお城の敷地内にあるから時間をかけるといってもたかがしてれいるが、それでも大満足だった。
ぺこりとお辞儀をして部屋に入り、先程までの二人きりの時間を反芻して噛み締める。
(はああああああほんと、好き、やばい、好き)
語彙力など好きな人の前では意味がない。
だって言葉が出て来ないんだもん。
良いんです出てこなくて、だってそれ以外に浮かんでこないんだから。
「あーあーまーた緩みきってるよシルク、その顔やばいよ崩れすぎ」
にへにへと緩みまくる頬をどうにかしようともせずにいると、部屋の中から声をかけられた。
声の持ち主はもう一人の聖女、大当たりのリーアだ。
長い髪を緩く三つ編みにして横に流し、人のベッドで優雅に寛いでいる。
「リーア、来てたの?」
「遅いよ、待ちくたびれた!」
聖女である私達は一人に一部屋ずつ与えられていて、部屋は隣同士。
何かあった時の為に避難出来るようにお互いの部屋は中にある扉一枚で繋がっており、リーアはいつもそこから寝巻きのまま入り浸っている。
大当たりとはずれと呼ばれている私達だが仲は悪くない。
むしろ二人しかいない聖女同士、仲は良い方である。
リーアが見た目の可憐さ儚さを裏切り、その実陰ではずけずけ物言うわ毒舌だわきっぱりさっぱりした性格なのも好ましい。
聖女として前に出る時は本当に天使のように優しく口調も改めていて、その仮面を毎回完璧に被るリーアを密かに尊敬している。
だが儀式の時以外はほとんど外で一緒になる事がないからか、巷では完璧な聖女であるリーアに対して私が劣等感を募らせ一方的に敵視し嫌っているという噂が飛び交っている。
凄い顔でリーアを睨んだとか転ばせようとして逆に私が転んで恥をかいたとかその他リーアに陰湿な嫌がらせをしているだとか噂は様々。
儀式の時は厳粛な空気の中きゃっきゃうふふといつも通りみんなの前で話す訳にもいかないから、それでまた私がリーアを無視しているという噂に繋がっている。
根も歯もない噂だから放っておいているけど、リーアは今すぐ根絶するといって憚らず幾度となく私の良い話をするのだが、それも私に気を使って言っているのだ、リーア様に気を使わせやがってやはりあの女は嫌な奴だという結果に落ち着いてしまうらしく流石のリーアも頭を抱えていた。
「その顔は今日もアーノルド団長に送ってもらったんでしょー?わかりやすいなあ」
「そういうリーアは今日はウィレム団長?サーシャ
王子?それとも隣国の、なんだっけ」
「パスカル皇太子?」
「それ」
「残念、今日は第一騎士団のアレクくん」
「あーあの大型犬みたいな」
「ふふ、可愛いのよ彼」
思い出してふわりと笑うリーアは文句なしの美少女だ。
そしてリーアは私がアーノルドを好きな事を知っている唯一の人。
隠していたはずなのに雰囲気であっさりとバレてしまったのだ。
どこが好きなのかいつから好きなのか洗いざらい吐かされたのは記憶に新しい。
「その話がしたくて来たの?」
「もちろん!だってこんな話シルクにしか出来ないんだもの!」
「またこっちに泊まっていくつもり?それにご飯は?」
「あら、一時間やそこらで終わると思ってるの?食事は後で持ってきて貰いましょうよ!」
これは泊まる気満々のようだ。
一体何時間お話に付き合わされる事やら。
幸いベッドは広いので私達二人が寝ても十分余裕はある。
「ほらほら早くこっち来て!横になって!」
「はいはい、その前に着替えさせて。お菓子もいるでしょう?お茶は?」
「紅茶が良いわ!」
「はいはい、わかりましたよー」
まるで姉妹のようなやりとりも嫌いじゃない。
準備を整えリーアの隣に転がると、待ってましたとばかりに大型犬の話が始まり、段々と聖女としての仕事の愚痴や笑い話などに変わっていく。
「そういえば最近第二騎士団の奴らはどう?」
「相変わらずかなあ」
「もしかして未だにはずれなんてこと言うバカがいるの?今度怪我した時に放置してやろうかしら、いやそれとも一部だけ治さずに放っておく?」
リーアの目が据わりこめかみに青筋が浮かぶ。
私がはずれと言われるのもこうして笑い者にされるのもいつもの事なんだから今更怒らなくてもいいのに、良い子だなあ。
そして私と同じような報復を考えているところに笑ってしまう。
でも、一番に言ってるのはあいつよね?あいつのブツ使い物にならなくしてやろうかしらなんて物騒な事呟かないで。
あいつとは言わずもがな、いつもいつも人の顔を見る度に文句ばかりの第二騎士団の一人である。
名前はニールと言っただろうか。
短い髪に吊り目の三白眼で、見るからに人を小馬鹿にしたような態度をとっている人である。
「あはは、まああの人は私の事嫌いみたいだからねー」
「あれは可愛さ余って憎さ百倍って感じに見えるけど」
「???可愛さ余って???」
あの人が私を可愛いなんて思うはずがない。
と言う事は?
ああ、なるほど、リーアが好きすぎてでも想いはどう頑張っても届かないから近くにいる私が憎いと。そういう事かな。
「絶対違う事考えてるでしょ」
「え?」
「はあ、まあいっか、あんな奴の想いになんて一生気付かなくても良いし」
「???」
「何でもない」
「?うん」
「ねえねえそれよりアレクくんなんだけどね!」
なんて再び大型犬の話に戻り、途中食事をとりながらも話は尽きずあっという間に夜は更けていった。
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