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第3章

真の狙い(2)

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 従者の言う通り、
  
 毒を仕込んだ犯人は別にいるとしても、最終的にその毒を問題ないと王に渡したのは―――ヒナセ。
 
 ヒナセが、王を―――
 
 
 
「お可哀想に…」
 
 
 とめどなく溢れ頬を伝う涙を当然のように拭っていく彼はそのままヒナセの涙で濡れた自分の指をぺろりと舐め、恍惚とした表情を浮かべていた。
 
 絶望し項垂れるヒナセと、恍惚とした表情でヒナセを見つめる従者。
 
 それはあまりに異様な光景だった。
 
 
 
「ヒナセ様」
 
 
 名を呼ばれるが、反応する気にもなれない。身体が動かない。それでも、反応を見せないヒナセに従者はお構い無しに言葉を続ける。
 
 
「あなたの能力は優秀な盾となるが、時には矛にもなる。思った通りでした。あなたが一度良しとしたものであれば陛下は信用し、口をつける」
「え…」
 
 
 項垂れていたヒナセの身体がピクリと反応する。
 
 
「オリビア様の時は失敗してしまいましたが、毒が効かないあなたなら大丈夫だと信じていましたよ」
「王妃…様…?失敗…?何の、こと……あなたは何を言って―――」
 
 
 突然、なんのことを言い出すのか従者の言葉が全く理解が出来ず、そろそろと顔を上げ震えるヒナセに「やっと顔を上げてくれた」と嬉しそうに微笑む従者はペラペラ饒舌に話し始める。
 
 
「いつからでしょうか…わたくし、昔から人のものが欲しくなってしまうんです。
 食べ物や装飾品、地位、名声、そして―――ヒト。
 それが大切にされていればされているほど、魅力的に思えてしまう……それで言うと、オリビア様は格別でした。あの、まるで人の子とは思えない王が心から気を許し、愛した方。とても美しかった……」
 
 
 王とオリビアをそばで見ていた当時の姿を思い出しているのか、恍惚とした表情で一気に話したかと思えば、不意に残念そうな表情に変わる。コロコロ変化する従者の芝居がかった様子はまるでミュージカルを見ているような気持ちにさせる。
 
 それが無性に恐ろしかった。
 
 
「だから、欲しくなった。
 王が愛す、オリビア様を。
 ……ですが、失敗してしまいました」
 
 
 まるで道を間違えたくらいの軽さで首をこてんと傾げながら話し続けるこの人は、今からとんでもない事を言おうとしている。
 驚愕に見開かれたヒナセの両眼に映る自分の姿に満足しながら、従者は決定的な言葉を吐き出した。
 
 
「まさか陛下に仕込んだ毒をオリビア様が口にしてしまうとは…予想外でした」
 
「っ……」
 
「あの時は心からショックでした。わたしくしのものにできると思っていたのに…ですが、そんな時に現れたのがあなたです。ヒナセ様。
 今度こそ同じ失敗は犯さぬよう、悔しい思いをバネに、何年も何年も機会を伺っては様々な毒を試させて頂き、こちらにたどり着きました。ヒナセ様ばかりが苦しんで終わるのでは意味が無いので、確実に陛下にも口にしていただけるよう効き目がすぐには現れない遅延性に特化した猛毒をご用意しました」
「あ、あなたは……なんて、事を……」
 
 
 懐から取り出した小瓶をヒナセに見せつけるように微笑む従者。
 
 
 涙が溢れて止まらない。
 こんな人のせいでオリビアは死んでしまった。
 この人がヒナセと王からオリビアを奪った。
 
 この人が、この人が―――王までもヒナセから奪っていった。
 

 
「オリビア様も陛下も居ないこの世界で、今この瞬間、あなたの心はわたしくしへの感情で爆発しそうになっている……あぁ、なんて至福でしょうか――
 
 やっと、あなたを私のものにできる……」
 
 
 
 
 
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