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第2章

お茶会(2)

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 カップが再び王の元へ返されるまでのやり取りを見届けながら、毒味という現実離れした光景に、アランや双子はつい無意識のうちに息を飲んでいた。
 
 初めてその光景を目にした時、他国の事に不用意に口出しはしない方がいいと飲み込んだ言葉たち。例えヒナセが自ら望んでその大役を果たしているのだとしても、やはり黙って見過ごすことはできそうになかった。
 
 
 戻ってきたカップにそのまま優雅に口をつける王へ視線を向けたアランに、王もすぐさま気付くとバチッと短いアイコンタクト。
 覚悟を決め、ぐっと口を開いた。
 
 
「陛下、発言しても?」
「……なんとなくお前の言いたいことはわかるが、とりあえず聞こう。なんだ?」
 
 
 わざわざ許しを乞うて何を発言するのか、カップを下ろし楽しそうかつ期待を込めた王の視線とハラハラした双子の視線、そしてすぐ隣からきょとんと見上げるヒナセの視線、四つの視線を一身に受けながらアランは自分の考えを話し出した。
 
 
「私の祖国でも確かに毒味役がいました。ですがそれはもう随分昔の話です。技術が進歩し今ではありとあらゆる毒に反応する機械を通して判断し、王族へ食事が提供されます。ですから……」
 
 
 ここで一旦言葉を切る。
 本当にこの先を発言してしまってもいいのか、姉の件で多少の言動を許されていたとしても、ここまで込み入ったことへ口を出すことはやはり不敬に値すると王の逆鱗に触れるのではないか、そう一瞬頭をよぎるアランの背中を押すよう、当の本人――王が続けろと小さく頷いた。
 それに大きな勇気を貰い、いま一度心を落ち着かせると、王に語るようにしてヒナセにも届くよう心を込めて話を再開する。

 
「ですから、ヒナセのこの素晴らしい能力は、ヒナセや……他にもまだどこかに存在するヒナセと同じ一族が、自分の身を守るためだけに使う事を、私は願います。以上です」
 
 
 アランが言いたい事を全て言い終えると、その場はシンと静まり返っていた。
 双子はもちろん、カップに視線を落とす王も、目を見開きアランを見つめるヒナセも何も言わない。
 
 自分のこの考えは、王を守ってきたヒナセの十数年を否定することかもしれない。
 けれどアラン自身、王や国を守る騎士として避けられない戦いはあれど、常にマクレーン家の教えとして、命はすべて平等であり、誰かを守るために犠牲にしていい命などない、という信念のもと最善の方法を取るよう騎士の務めを果たし部下にもそう言い聞かせてきた。
 
 
 ヒナセの力を使わずとも、アランの国の技術を用いれば王を守ることができる。
 これ以上ヒナセが苦しい思いをする必要は無い。
 
 
 もしここにオリビアもいたのなら必ず同じ事を言ったに違いない。これだけは自信をもって言える。

 
 
 
 長い長い沈黙。
 
 
 気まずく重い空気が流れる中、それを破ったのは、くっくっく、という王の小さな笑いだった。

 全員の視線が一気に王へと集まる。
 王もそれをわかっていて豪快にカップの中身を煽ると全てを飲み干しトンっとテーブルへ置く。
 
 
 そして―――
 
 
「やはりお前はいいな、アラン。どうだ、我の息子になるか?」
 
「……はい?」
 
 
―――何を馬鹿なことをと笑い飛ばされるか、

―――もしくは不敬だと怒鳴られるか、

―――はたまた奇跡が起き、我も同意見だと賛成を得られるか、

 
 せいぜいそこら辺のリアクションを想定し各種頭の中でシュミレーションをしていたアランは、誰もが予想し得ない、突拍子もない返事となり返ってきた王の言葉に脳の処理は一歩も二歩も三歩も出遅れていた。

 それはアランだけでなく、ルイやカイ、ヒナセまでも同様の事。

 
 そんな困惑する全員の様子を王だけは楽しそうに満足そうに、眺めているのだった。
 
 
 
 
 
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