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第2章
初めての友達(2)
しおりを挟む「雛ちゃん21なの!?俺らと同じじゃん!」
「てっきり10代真ん中辺りかと…」
「むむ…ちゃんと成人、してます」
あまりにも幼い幼い言われていることにさすがの雛鳥も思うところがあったのか、ぷくっとほっぺを膨らませ抗議の視線を双子へ送る。
そんな雛鳥を宥めようとごめんごめんと謝る二人だが怒る雛鳥もまたかわいいのなんので顔が完全ににやにや笑ってしまい、しまりがないにも程があった。
それが余計雛鳥を怒らせる。
「~~!僕も、お二人と一緒の大人です!」
「ひぃぃーっ怒ってるぅ激かわほっぺだぁ」
「こらルイあまり言うと雛ちゃんに嫌われちゃうよ」
「そう言うカイもにやにやしちゃってっけどね」
肩を組み、むふふと洩れる笑みを必死に隠そうとする双子に堪忍袋の緒が切れたのか、とうとうその苦情は上司のアランへと飛んできた。
「騎士様…ルイさんとカイさん、とても失礼――」
「わっ!名前!?」
「!?」
「僕たちのこと名前で呼んでもらえるの嬉しいな」
「え、」
「でもさでもさ、どうせならもっと砕けた呼び方してよ俺ら同い年なんだし」
「え、え…」
「「ね!」」
次から次へと話題は切り替わり、完全に双子のペースに圧倒されるばかり。
二人から期待の眼差しを一身に受け、どうすればいいのか困り果て助けの視線をアランに送ってくるも、諦めてと首を横に振るしかしてあげられない。
アランはアランで内心それどころでは無かった。
雛鳥が未成年ではないと判明したとはいえ、昨晩のあれは年齢どうこうの問題では無い。
雛鳥がどのように受け止めているか定かではないが、紛うことなき性行為だった。毒に犯された状態の雛鳥に正気を求めるのは無理な話で、王に促されるまま雛鳥を救うためだったとはいえアランがしてしまったことは結果はどうあれ同意のない行為。
改めてゆっくり話すタイミングがあれば――
そう思いチラッと視線を送ると、双子への対応で悩みに悩んだ雛鳥の心はいまやっと決まったらしい。
マントから覗く小さな手をぎゅっと握り、その表情はまるで一世一代の告白をするかのような覇気迫る雰囲気に見ているこちらもゴクリと緊張してしまう。
沈黙が落ちる中、なんとか絞り出した小さな声はしっかり音となり三人の元まで届けられた。
「ルイ…くん、カイくん…?」
「「「……」」」
「えっ、え!?ダメでした…!?違いますか!?」
黙りこくる三人になにか自分は間違えてしまったのかと顔を真っ赤に染め慌てふためく雛鳥は次の瞬間ルイとカイの腕の中にいた。
「「雛ちゃんまぶだちぃ~~!」」
「っ!」
好きぃ~っと叫びながら雛鳥をぎゅうぎゅう抱きしめる二人は常に高いテンションがさらに振り切れる勢いで上がりきっている。
元孤児という経緯で騎士団へ入団したルイとカイ。その飄々とした性格からだいたい年上からはかわいがられがちだが、同世代からは若干疎まれて過ごしてきた。今となっては団長の右腕ポジションの地位まで登りつめた事から余計遠巻きにされ、親しい友人などできた事がなかった。
今この瞬間、雛鳥が初めて。
「雛ちゃんは俺らの初めての友達!」
「!」
「僕らが一生大切にします」
ともだち…ともだち…と小さく呟きながらその響きを噛み締める雛鳥もまた、友達という存在はルイとカイが初めてだった。
抱きしめる二人の腕を素直にぎゅっと握る姿に「愛い…」と癒され、さらに磁石のようにぴとっとくっつく。
そんな三人をもはや保護者の気持ちで眺めていたアランは、ひそかに自分ひとりだけ「騎士様」呼びであることを残念に思っていた。
これは完全にタイミングを逃したな……そう思いながら今ここで俺も名前で呼んでと始めると、いつまで経っても城門の向こうへ出発できず日が暮れてしまう。
一日はまだ長い。
必ずどこかでタイミングがあるはず――そう気持ちを切り替えると「おさんがた、そろそろ出発したいんだが?」と声をかけ、三人にこれからの目的を思い出させる。
「はぁ~い」と良い返事を返す二人に手を操られる雛鳥。この短い時間の間ですっかりルイとカイに挟まれる雛鳥という凸凹の図が馴染んでいた。
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