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第2章

変わる態度(2)

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「き、騎士様……?」
「こんにちは」
 
 
 昨日同様、豪快にひっくり返る雛鳥につい笑ってしまいながらすぐさま手を差し伸べる。今回もきっとこの手を取ってもらえることは無いのだろうが、そうと分かっていても行動してしまうのはもはや紳士としての嗜みを徹底的に叩き込まれていたアランの癖だった。しかし、
 
 
「あ、えと……すみません…」
「っ!」

 
 このままスルーされるだろうと思っていた手の上におずおずと遠慮気味に伸ばされる細い指がちょこんと乗る。
 まさかの展開に大きく目を見開きながらすぐさまぎゅっと握り返すと力強く引っ張り起こすも、予想以上に軽い体は簡単に持ち上がり勢いを殺せず胸で受け止めた。
 
 
「……っ失礼、つい力を込めすぎました」
「い、いえ…ありがとうございます」
 
 
 繋いでいた手をパッと離しそそくさ離れると、お互い絶妙に視線を逸らせる二人の間に流れる異様なまでの気まずい雰囲気に、はたから全てを見ていた双子はその口を挟まずにはいられなかった。
 
 
「ちょいちょいちょいちょい!なんすかその一夜の過ちを犯してしまった者同士の雰囲気…」
「あきらかに何かありましたよね…」
「っ!?」
「ルイカイ!?お前らっ」
 
 
 向かい合って立つアランと雛鳥の間に勢いよくぐいっと割り込み、トーテムポールのように縦に連なった同じ顔が至近距離から雛鳥の顔を覗き込む。
 普段からパーソナルスペースの基準が狂った二人だったが、いきなり詰めすぎだ、とギョッとするアランは咄嗟に双子の襟首を掴む――が、
 

「ひょぇぇっ…」
 
「「「え……」」」
 
 
 それよりも早く、想像以上にびっくりした雛鳥が素早い動きでアランの後ろに逃げ込むのを、アランも含めた三人がポカンと見守った。
 
 自分の背中の裾をぎゅっと握られ、ひとまわり以上も小さい体がすっぽり隠れる光景は―――庇護欲が掻き立てられて仕方がなかった。
 
 
「……なんすかこのかわいいの」
「震えてますね…」
「団長だけ懐かれてずるい。俺らにもぉ」
「ひうぅぅっ」
「ばかばかばかお前ら圧が強いビビらすな」
 
 
 アランの後ろに隠れる雛鳥をさらに興味津々に追いかける双子は、彼らなりに距離を取っているつもりなのか、アランの正面から後ろを覗き込んでいる。
 前からはルイカイの双子に、後ろからは雛鳥という完全にサンドイッチされた状況にアランは盛大にため息をもらした。
 
 
 それにしても、いくら双子の勢いに驚いたとはいえ、いまだ震え続ける雛鳥がだんだん心配になり、チラッと後ろに視線を向けるが、俯いていてつむじしか見えず表情がわからない。
 一旦本格的に落ち着かせた方がいいのかもしれない…そう思うと、ルイカイに視線のみで数歩下がらせ、「大丈夫?」と後ろに向け声を掛けてみるが、背中のシャツを握った小さな手が離れることは無かった。
 うーんこれはどうしたものか…と、双子に目配せをし、もう一度背中に視線を向けると不意に、握りすぎて白くなってしまっている手に視線が止まる。
 
 考えるより先に体が動いていた。
 
 
「手、触れるね」
「え……」
 
 
 一言断りを入れ後ろへ回した手をそっと重ねる。
 冷たいその手に触れた瞬間、肩が大きくビクッと揺れはするが、跳ね除けられることは無かった。

 秘かにホッと胸をなでおろし、そのまま手を握り後ろに向けて語りかける。
 
 
「驚かせちゃったね、ごめんね、怖かった?でもあの二人うるさいけど、悪いやつらではないよ大丈夫」
 
 
 安心しての意味を込め、手の甲をとんとん撫でなだめていると、俯いていた頭がのっそり動き出す。
 つい「お」と声が出てしまうくらい動き出した喜びを視線に込め待っていると、上目遣いの目線とぶつかる。案の定不安そうな表情を浮かべる雛鳥を安心させたい想いで微笑みを浮かべ頷いた。

 それが背中を押すきっかけとなったのか、何かを話そうと口をぱくぱく開いては閉じ、を繰り返す雛鳥。何か話したいことがあるのなら、焦らず辛抱強く待つ、大丈夫だと微笑みを向け待っていると、ついにか細い声が言葉をつむぎ出した。

 が、それは決して平穏な内容ではなかった。
 
 
「陛下……ダメ」
「ん?」
「僕と、関わると…消される…」
 
 
 陛下に、消される―――
 

「だから、お二人と、話せない……」
「そんな」

 
 雛鳥が震えていた本当の理由。

 それは、二人に怯えていたのではなく二人に関わらないようにして二人を守っていた―――この子はそうやっていままで自ら人との関わりを避け、いらぬ火種を生まないよう過ごしてきたのだろうか……そんなとてもじゃないが寂しい生活を想像すると同時に、改めて自分はとんでもない人の懐に入り込んだのでは、と息を呑む。
 
 
「俺のこと――は…」
「騎士様は、いいって…許すと。陛下が王妃様以来初めて許してくれた……嬉しい」
「っ!」
 
 
 小さく頷き、ふにゃと笑う幼い表情―――
 
 
 それはあの玉座で見たこの子の無邪気な笑顔。

 そんな笑顔を自分も向けられたい。

 あの時、あの庭園で、アランが抱いた淡い想い。


 まだピアスも見つけられていないのに、こんな形で突然叶ってしまうなんて不意打ち思ってもみなく、咄嗟に言葉を失い、らしくもなく固まっていた。
 
 
 

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