【本編完結】欠陥Ωのマタニティストーリー

カニ蒲鉾

文字の大きさ
上 下
34 / 69
2【子育て日記】

2-5 忘れ物(3)

しおりを挟む

 
 
 エレベーターに乗り込むまでにたくさんの人が声をかけてきてくれた。
 丁度昼時だったこともあり遭遇する人が多く、僕に対してお久しぶりです、と言ってきてくれる声もあれば、スーツ姿で赤ちゃんを抱く楓真くんに飛ぶ声、そして一番多かったのが双子に対するかわいいちっちゃいという女性の黄色い声だった。
 たくさんの知らない人に囲まれても二人は泣くことも無く愛想よく振舞ってくれ、親としてどこか誇らしく思えた。
 
 
 エレベーターの中で家族4人だけになると、すかさず楓真くんに抱かれたままの楓莉くんとつくしくんに声をかける。
 
 
「ふぅくん、つぅくん、いい子にできて偉いねぇ~」
「ほんとに!さすがつかささんの子であり、俺の子。ママに褒められる為の点数稼ぎを心得てる」
「「んふふ~」」
 
 
 楓真くんの言葉に呆れながら違うでしょ、と突っ込もうとした僕より先に二人がにんまり笑うから「え、そうなの!?」と驚いてしまう。「さすが俺の子、天使たち~~!」と抱っこひもごと二人を抱き込む楓真くんとキャッキャ楽しそうに笑う双子が見てて癒しだった。
 
 
 まもなく13階で止まったエレベーター。
 
 久しぶりのフロアに足を踏み入れ、ここも何一つ変わっていない光景に感慨深い気持ちになっていると、「つかささん行きましょ」と楓真くんに呼ばれる。楓真くんの腕の中では笑顔で僕に手を振る子供たち。こんな光景を、右も左もわからないまま楓珠さんのお世話になりながら入社した19歳の僕は想像しただろうか……

 愛するつがいと、その子供たちと並んで歩くこの幸せを―――。
 
 
 これが夢ではないと実感するべく、楓真くんの隣に並び、子供たちに両の手を伸ばす。すぐさま小さな手にきゅっと握られるそれぞれの人差し指がじんわり暖かかった。そんな僕を優しく見つめてくれる楓真くんの視線に気付くと、二人して無言で笑いあった。


 
 
 とんとん、とリズミカルにノックをして、すぐさま返ってくる「どうぞ」の声。
 重厚な社長室のドアを開けると、笑顔の楓珠さんが出迎えてくれた。
 
 
「つかさくん、いらっしゃいわざわざアホな息子のためにごめんねご苦労さま」
「お疲れ様です楓珠さん。子供たちも連れてきたので少し騒がしくしてしまうかと思いますが…」
「全然!孫たち~~じぃじだよ~~」
 
 
「「じぃ~~っ!」」
 
 
 楓真くんに抱かれた双子に駆け寄る楓珠さんに、双子は嬉しそうに手を伸ばす。あまりにも二人がそれぞれじたばた暴れるものだから、一旦下ろそうと、僕が勤務中には見かけ無かった部屋の片隅に置かれたフカフカの丸いカーペットを楓珠さんが指さす。
 
 
「父さん、いつでも双子が来てもいいように随分前にカーペットをこの部屋に入れたんです。掃除も毎日自分でしてるんですよ」
「え!?そうなんですか!?」
「愛する孫を眺めながら仕事をしたいというじじぃの欲望です気にしないでください」
 
 
 うんざり顔で説明する楓真くんに対し、そういうこととニコニコ笑顔の楓珠さんは「ささ!早く下ろして」とカーペットへ誘導する。
 久しぶりに地面に足をおろし解放された双子は嬉しそうにフカフカのカーペットの手触りを確認すると早速二人してゴロンと寝転がった。直径大人の身長くらいある丸いカーペットは二人にはとても大きく、ゴロゴロ全力で転がってもはみ出ることはなさそうでキャッキャ楽しんでいる。
 
 
「癒しだ……」
「俺もこの光景を眺めながら仕事したい…」

 
 ぼそりと呟き合う御門親子に苦笑していると、扉をノックする音が聞こえてくる。昼休憩とはいえ緊急の仕事が入ってくるのは珍しくない事を知っているため、邪魔になってはいけないと双子を回収しようと慌てる僕に「大丈夫だよ」と楓珠さんが笑う。
 
 
「私が呼んだんだ」
 
 
 そう言うと、どうぞと扉に向かって返事を返し、まもなく開いた扉から顔を出した顔ぶれに僕まで嬉しくなった。
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...