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2【子育て日記】
2-4 忘れ物(2)
しおりを挟む普段僕一人では双子を連れて外に出る機会が少ない為、あまり出番のない二人一気に抱っこできる抱っこひもをクローゼットの奥底から取り出し、あとの荷物は両手があくリュックに詰めこんだ。
家中の戸締り電源ガス栓を確認して回ったあと、最後に楓真くんのスマホと自分のスマホをしっかり持った事を確認し、全て完了すると抱っこひもの中でいい子で待っていた二人に「お待たせ」と声をかけながら頭を撫でる。二人分を支えるのに負担の少ない頑丈な肩ひもを肩にかけ、気合いを込めて一気に持ち上げた。
その浮遊感が楽しかったのか前で抱っこされた二人はキャッキャと楽しんでいる。
バランスを保つため両手で二人のおしりの下を支え、ギュッとすると腕いっぱいに双子がいる感覚がなんとも愛おしい。むっちりした腕がそれぞれ脇の下に回されしっかり捕まっていることも確認すると、「それじゃあ行きますよ~」とゆっくりした足取りで玄関へ向かった。
呼んでいたタクシーに乗り、順調に会社への道を進んでいく。
出産前までは楓真くんの運転する車で共に通っていた道。この子達を産んでからはなんだかんだ一度も会社へ顔を出せていない為、今日が久々のオフィスになる。スマホを届けたら秘書室にも顔を出してみようと少し楽しみに思いながら双子に目を向けると抱っこひもの中で必然的にとても距離の近い二人は頬っぺたをくっつけ合いながら楽しそうに遊んでいた。
そんな姿に和みながら段々見えてくるビル。
「ふぅくん、つぅくん、あれがじぃじとパパの会社だよ~大きいねぇ」
言っても分からないかと笑いながらもパパ達すごいねぇと続ければ、何かを察したのか二人の真ん中にあるお互いの手でパチパチと手を叩き合っていた。
タクシーが会社の敷地内へ入り正面玄関で停車するとそこには、事前にもうすぐ着くことを楓珠さんのスマホへ連絡し把握していた楓真くんが朝見送ったままのかっこいいスーツ姿で待ち構えていた。
扉が開き、支払いを済ませタクシーを降りようと重い腰をなんとか持ち上げたその時、腰をかがめ扉を覗き込んだ楓真くんがもう一度僕をタクシーの座席に座らせた。
「ここまでお疲れ様でした。ここからは双子は俺が抱きます。抱っこひもパスしてください」
「でも、スーツがシワになっちゃうし大丈夫だよ」
「いやいやスーツなんてどうでもいいんで」
はやく、と手を差し出す楓真くんと攻防戦を繰り広げること数秒後、結局僕が折れ、腰で止めていたベルトのバックルを外していた。
「ふぅくん、つぅくん、ここからはパパが抱っこしてくれるからね~」
「ぱぁ~っ」
「んん~っ」
首を思いっきり車外の楓真くんへ向け手を伸ばす二人を落ち着かせながらそっと抱っこひもの肩ひもを脱ぎ、楓真くんへバトンタッチする。中腰というとても辛い体勢だったにも関わらず、なんなく双子を持ち上げると素早く抱っこひもの腰ベルトをスーツの上から巻き付ける。
僕が車外へ出た頃には完成した抱っこひもの姿をジーッと見つめる。お世辞にもスマートなスーツにはまるっきり似合わないちぐはぐな姿だというのに、双子を抱く力強い腕とあやす顔がすっかり父親の顔で、それを見て一人勝手に胸がじわぁと温まっていた。
「つかささん?どうかしました?」
「ぁ、ううん、なんでもないよ、ふぅくんつぅくんパパに会えて嬉しいねぇ」
楓真くんに抱かれ、丁度同じ目線にいる双子それぞれに笑顔を送りキャッキャ楽しそうなことを確認すると、最後に楓真くんへ笑顔を送る。
「ん?」
「なんか不思議な感じだなぁって思って。スーツの楓真くんと会社をバックに双子と抱っこひもっていう似合わない組み合わせ」
「はは、俺は堂々と歩きますけどね。うちの天使たちかわいいでしょって声高々に言って回りたいですもん」
「……恥ずかしいからやめようね」
本気なんですけどね…とボヤく楓真くんを呆れた目で見ながら、いつまでも正面玄関を塞ぐわけにもいかず二人揃って社内へと入っていった。
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