【本編完結】欠陥Ωのマタニティストーリー

1【妊娠】

1-24 安定期(2)

　
　
「つかさくんの場合は双子だから世間一般的な産休取得はここら辺からみたいだけど――」
「いやいや、父さん、ここだと遅い」
「じゃあ…ここら辺から？」
「……まぁ、それなら。でもつかささんの状態次第で早めるのも頭に入れといて」
「わかってるよ大事な嫁と孫たちのためだからね」
　
　
　僕が口を挟む隙間もなく、楓真くんと楓珠さんで決めていくこれからの僕の産休予定。この会社ではオメガ男性の出産は会社で定められている産休取得に当てはめず、その人に合わせた日数を人事部と本人で相談し決めている。それを今回、社長と社長の息子が直々に決め、人事へ下ろしていくようだ。
　
　
　オメガ男性の出産は女性体の出産とは違う点が多々ある。
　そのうちの一つ、出産方法は必ず帝王切開ということ。それは僕も楓真くんも知識として知っていたし、妊娠発覚してすぐ大崎さんからもしっかり説明は受けている。子が欲しいと思った時点でとっくに僕の覚悟は決まっていて今さらの話だったのだが、楓真くんは実際僕のお腹にメスを入れるという事をとても心配していた。過去全てのオメガ男性や女性の方達も乗り越えてきているのだし、双子達に会う為だから、と言ってもその心配は消え去らない様子だった。
　その為、最初に提示される予定もだいぶ考慮していただいている好条件だというのに、楓真くんはそれをさらに早めるよう要求し、楓珠さんもそれを良しとしてしまった。
　
　
「つかささんどうですか？もっと早めがいいとかあったら遠慮なく言ってください」
「全然！むしろ早すぎると思ってるくらいだよ…僕はギリギリまで働きたいから…」
　
　
　最終確認でやっと僕に回ってきたお伺いもまだ早めるかどうかという確認で、全力で首を横に振っていた。
　
　
「それじゃあこの産休スケジュールで人事に私の方から持っていくね」
「すみません楓珠さん…よろしくお願いいたします」
　
　
　丁寧に頭を下げお願いすると向かいから伸びる手にぽんぽんと頭を撫でられる。
　
　
「つかさくん、これからもけっして無理はしないこと。何かあったらすぐ言って、遠慮なく当日欠勤も使いなさい」
「……はい、ありがとうございます」
「元気な双子ちゃんたちに会えるのを楽しみにしています」
　
　
　楓珠さんの言葉を胸に刻み、しっかり頷く。
　この子達はただ僕と楓真くんの子というだけではなく、御門家の跡取り息子なのだ。
　
　
「……ちょっと父さん、変につかささんにプレッシャー与えないで。直接言葉にしなくてもそういう事に結び付けるの大得意な人なんだから」
「え、つかさくんそう捉えちゃった！？そんなつもり全くないからね！？跡取りとか全然どうでもいいから！楓真くんに会社を譲ったあとは自由にしてって言うつもりだし」
「あ……えと…」
　
　
　つい、目をぱちぱちとまたたかせてしまう。
　
　
「ほら～絶対この表情は、また一人でプレッシャー感じて気張ろうとしてましたって顔」
「……だね、私の言い方が悪かった」
　
　
　頭を抱える御門親子を目の前にいまだ一人おろおろしていると、横からも前からも伸びてくる手が僕の手をぎゅっと握っていく。
　
　
「つかささん、どんな時でも母体第一です」
「キミが健康で、元気な子達を産むことに意味があるからね」
　
　
　そんな言葉を大手企業のトップが言うなんて――潤みそうになる視界の中、この二人の優しさをぎゅっと噛み締め静かに頷いた。
　
　
　絶対にこの子達を産む。
　
　
　そう、強く誓って―――。