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1【妊娠】

1-18 不眠症(3)

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 昨夜の宣言通り、二人揃って休みを頂いた午前中、楓真くんに付き添われ病院へ赴いた。
 いつも通り受付を済まして待合室で座っていると、お腹の大きな妊婦さんを大勢見かけ、自分もあと少ししたら……とその時を想像し無言で楓真くんにそっと身体を寄せた。心の中では不安と期待が同じ分量でせめぎ合っていた。




「いらっしゃいつかさくん、楓真くん」

 
 待つこと数分、診察室へ呼ばれるとまず、予定より数日早い通院に大崎さんにとても心配されてしまった。大した事じゃないと口を開こうとした当事者の僕よりも楓真くんが進んで症状を説明していく。
 
 

 
「―――なるほどね、状況はわかったよ。」

 
 一通りの説明が終わり楓真くんの口が閉じると、考え込むかのように頭を搔く大崎さん。
 
 
「精神的に不安定になってしまう事は懸念していたけど、不眠か……つらいよね」
「……弱い僕が悪いんです」
「そうやって自分を責めるのが1番ダメ。夢は気持ちの問題だから、僕ら医者は物理的にどうしてあげることもできない……頼れるのはつがいだけだね」
 
「楓真くんだけ……」
「俺だけ……」
 
 
 僕と楓真くんの声がタイミングピッタリ重なった。
 
 
「前回も言ったけど、オメガにとって番のフェロモンは一番の安定剤だからね。残り香でも効き目はあるけど、やっぱりオススメはフェロモンそのもの。なるべく直にフェロモンを流してあげるといいよ」
「だから今日はぐっすり眠れたんだ……」
 
 
 楓真くんの腕とは別で、優しい何かに包まれている感覚をぼんやり覚えている。それのおかげで安心して眠ることが出来た。
 
 
「だからといって、一晩中起きてフェロモンを流し続けるのはアルファといえど限界があるから、そこは残り香と組合せてうまくやる事。楓真くんが倒れてちゃ本末転倒だからね」
「……はい」
 
 
 平気で何徹もしてしまいそうな勢いだった楓真くんに大崎さんの言葉は大変有難かった。僕が言っても大丈夫ですと、うまく言いくるめられてしまっていたと思う。
 チラッと隣の楓真くんを見ればバツの悪そうな表情であまり納得はいってなさそうだった。
 
 
「楓真くん、家に帰ったらまたブランケットにフェロモンお願いしてもいいかな」
「……それは、もちろん」
「うん、ありがとう。そしたら一緒にお昼寝しよ」
 
 
 平日に急遽休みを頂いている状態でお昼寝なんて……社会人にあるまじきこと。だけど、楓真くんの目の下に薄ら浮かぶ隈を見逃すわけにはいかなかった。
 
 
 
 
 
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