【本編完結】欠陥Ωのマタニティストーリー

カニ蒲鉾

文字の大きさ
上 下
17 / 69
1【妊娠】

1-17 不眠症(2)

しおりを挟む


 
 
「隣で眠る楓真くんを確認してから寝ても、夢の中の楓真くんは階段で血を流して倒れてる……夢だってわかっているのに、あの時の感覚がリアルに襲ってきて――寝るのが、怖い」
「つかささん……」
 
 
 触れている箇所から伝わる細かな震え。
 こんな夜を数日間、一人で耐えていたなんて……気付けない自分にも頼って貰えない自分にも腹が立って仕方なかった。
 
 
「お腹は?痛い?」
「……起きてしばらくは痛むけど、じっとしてるとだんだん治まるから」
 
 
 大丈夫、と言うつかささんは現に今痛みは落ち着いている様子で穏やかにお腹を撫でている。
 そんなつかささんを抱きしめることしか出来ない無力な自分。だけどこのまま、そっかよかった、で済ませられる話ではなかった。
 
 
「明日、一緒に病院行きましょう」
「えっ、いいよ!僕は大丈夫だから!明日も普通に平日で仕事だし、また土曜日まで待てば検診で行くんだから――」
 
「つかささん」
 
「っ、」
 
「仕事は休みましょう。父さんに連絡入れときます。ね?」
「……わかった」
 
 
 有無を言わせない雰囲気に息をのみ観念したのか小さく頷くつかささん。その表情は硬く強ばり、怒ってはいないのだと安心させるため慌てて優しく抱きしめた。


「つかささんんん…そんないまにも泣きそうな表情しないでぇ…」
「ごめんね、ごめん…僕、迷惑ばかりかけちゃってる…」
「迷惑なんて微塵も思ってないよ。俺はつかささんのつがいであり、夫なんだから。とことん甘えてください」
「……ん、ありがとぅ」



 
 
 会話もない静かな空間。スマホで時間を確認すれば4時前と、起きるにはまだ早い。
 腕の中で全体重を預けもたれかかってくれている愛おしい存在の髪を梳き撫でていると次第に頭がこくりこくり揺れていることに気付きそっと引き寄せる。首筋に感じる吐息が寝息に変わるのはあっという間だった。
 
 起こしてしまわないよう慎重にベッドに横たえ、掛け布団をしっかり肩まで引っ張り包み込む。その姿に満足すると自分も一緒に横になり、布団ごと胸に抱き込んだ。
 
 
「おやすみなさい…つかささん」
 
 
 安心して眠れるよう、微弱にフェロモンを流し続け、その寝顔を朝まで見守り続けた。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 チュンチュン聞こえる小鳥のさえずりと共に目覚めたその寝起きは、数日ぶりにスッキリとした朝だった。
 
 
「おはよ、つかささん」
 
 
 視界一面が肌触りのいいシャツに包まれた逞しい胸板で埋め尽くされ、上から降ってくる声につられて視線を上げれば楓真くんの優しい眼差しとぶつかった。伸びてくる手が頬を撫でていく。ふわりと香るフェロモンが朝から心地よかった。
 
 
「……おはよ。もしかして、楓真くん…一晩中ずっと――」
「んー…つかささんの寝顔眺めてたら朝になってました幸せな時間をありがとうございます」
 
 
 チュッと目元を掠めていく楓真くんの表情からは徹夜をしたとは一切感じさせない穏やかな雰囲気。おそらく一晩中フェロモンを流し続けてくれていたのだろう。久しぶりに夢を見ずぐっくり眠る事ができた身体は嘘みたいに軽かった。
 
 優しい楓真くんの思いやりに申し訳ない反面、心からありがたくて、上げた顔を再び胸元に埋めギュッと抱きついた。
 
 
「……ごめんね、ありがと」
「いーえ、いつでもつかささんの安眠守り隊は出動しますので、もう一人で我慢しないで。約束」
「……ん」
 
 
 ギュッと抱きしめられれば、物理的にもフェロモン的にも楓真くんに包み込まれ、つがいの安心感を存分に感じていた。
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...