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1【妊娠】
1-17 不眠症(2)
しおりを挟む「隣で眠る楓真くんを確認してから寝ても、夢の中の楓真くんは階段で血を流して倒れてる……夢だってわかっているのに、あの時の感覚がリアルに襲ってきて――寝るのが、怖い」
「つかささん……」
触れている箇所から伝わる細かな震え。
こんな夜を数日間、一人で耐えていたなんて……気付けない自分にも頼って貰えない自分にも腹が立って仕方なかった。
「お腹は?痛い?」
「……起きてしばらくは痛むけど、じっとしてるとだんだん治まるから」
大丈夫、と言うつかささんは現に今痛みは落ち着いている様子で穏やかにお腹を撫でている。
そんなつかささんを抱きしめることしか出来ない無力な自分。だけどこのまま、そっかよかった、で済ませられる話ではなかった。
「明日、一緒に病院行きましょう」
「えっ、いいよ!僕は大丈夫だから!明日も普通に平日で仕事だし、また土曜日まで待てば検診で行くんだから――」
「つかささん」
「っ、」
「仕事は休みましょう。父さんに連絡入れときます。ね?」
「……わかった」
有無を言わせない雰囲気に息をのみ観念したのか小さく頷くつかささん。その表情は硬く強ばり、怒ってはいないのだと安心させるため慌てて優しく抱きしめた。
「つかささんんん…そんないまにも泣きそうな表情しないでぇ…」
「ごめんね、ごめん…僕、迷惑ばかりかけちゃってる…」
「迷惑なんて微塵も思ってないよ。俺はつかささんの番であり、夫なんだから。とことん甘えてください」
「……ん、ありがとぅ」
会話もない静かな空間。スマホで時間を確認すれば4時前と、起きるにはまだ早い。
腕の中で全体重を預けもたれかかってくれている愛おしい存在の髪を梳き撫でていると次第に頭がこくりこくり揺れていることに気付きそっと引き寄せる。首筋に感じる吐息が寝息に変わるのはあっという間だった。
起こしてしまわないよう慎重にベッドに横たえ、掛け布団をしっかり肩まで引っ張り包み込む。その姿に満足すると自分も一緒に横になり、布団ごと胸に抱き込んだ。
「おやすみなさい…つかささん」
安心して眠れるよう、微弱にフェロモンを流し続け、その寝顔を朝まで見守り続けた。
*****
チュンチュン聞こえる小鳥のさえずりと共に目覚めたその寝起きは、数日ぶりにスッキリとした朝だった。
「おはよ、つかささん」
視界一面が肌触りのいいシャツに包まれた逞しい胸板で埋め尽くされ、上から降ってくる声につられて視線を上げれば楓真くんの優しい眼差しとぶつかった。伸びてくる手が頬を撫でていく。ふわりと香るフェロモンが朝から心地よかった。
「……おはよ。もしかして、楓真くん…一晩中ずっと――」
「んー…つかささんの寝顔眺めてたら朝になってました幸せな時間をありがとうございます」
チュッと目元を掠めていく楓真くんの表情からは徹夜をしたとは一切感じさせない穏やかな雰囲気。おそらく一晩中フェロモンを流し続けてくれていたのだろう。久しぶりに夢を見ずぐっくり眠る事ができた身体は嘘みたいに軽かった。
優しい楓真くんの思いやりに申し訳ない反面、心からありがたくて、上げた顔を再び胸元に埋めギュッと抱きついた。
「……ごめんね、ありがと」
「いーえ、いつでもつかささんの安眠守り隊は出動しますので、もう一人で我慢しないで。約束」
「……ん」
ギュッと抱きしめられれば、物理的にもフェロモン的にも楓真くんに包み込まれ、番の安心感を存分に感じていた。
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